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#42 重婚的内縁関係にある内縁の妻が遺族厚生年金を受給する条件は?

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は夫が亡くなった内縁の妻の遺族厚生年金の事例です。夫には戸籍上の妻と、その妻との間に長男と次男がいます。戸籍上の妻は、夫とは長年の別居の末、老人ホームに入居し、夫死亡時にはその老人ホームで過ごしていました。一方、内縁の妻は、夫との間の子、夫と3人で暮らしており、夫死亡時には同居していました。
内縁の妻が遺族厚生年金を受給するための要件を整理して、ご紹介します。


【事例概要】
死亡者:A雄さん(昭和22年7月10日生まれ:77歳/年金受給者)
・会社社長を務める
・C子さんと婚姻
・C子さんとの間に長男Kと次男Lが生まれる
・昭和60年頃からC子さん及び子供らと別居
・平成15年3月11日にB子さんとの子Jが生まれる
・平成21年10月からB子さん、Jと一緒に暮らす
・令和6年8月20日に死亡 
請求者:B子さん(昭和45年5月15日生まれ:54歳)
・A雄さんの内縁の妻
・平成15年3月11日、A雄さんとの子Jを出産
・同年11月12日にJは子としてA雄さんから認知される
・平成21年10月からA雄さん、Jと一緒に暮らす 
関係者:C子さん(昭和21年4月10日生まれ:78歳)
・A雄さんの戸籍上の妻
・A雄さんとの間に長男Kと次男Lが生まれる
・昭和60年頃からA雄さんと別居し、子供らと暮らす
・平成30年夏に老人ホームに入居

重婚的内縁関係にある場合の遺族厚生年金

内縁の夫であるA雄さんが死亡したとのことで、B子さんが遺族厚生年金の請求に年金事務所に来所されました。A雄さんは厚生年金保険法による被保険者期間25年以上ある老齢厚生年金の受給権者でした。
 
被保険者期間25年以上ある老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合、その死亡当時その者によって生計を維持したその者の配偶者(婚姻はしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)に遺族厚生年金が支給されます(厚年法第58条第1項及び第59条第1項並びに厚年法第3条第2項)。
 
また、B子さんの話によれば、A雄さん死亡時においては、戸籍上の届出のある妻C子さんがいるとのことでした。
 
受給権者に戸籍上届出のある妻のほかに内縁の妻がいる場合、すなわち、内縁の妻の側から見たこのような「重婚的内縁関係」については、婚姻の成立が届出により法律上の効力を生ずることとされていることから、届出による婚姻関係を優先すべきことは当然です。
 
ですから、内縁の妻は、受給権者によって生計を維持していた事実のほかに、受給権者と戸籍上の届出のある妻との婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り、遺族年金を受給することができる配偶者に当たるとされています(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」平成23年3月23日年発0323第1号厚生労働省年金局長通知の6)。

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