居酒屋ねんきん談義|#8 第15回年金部会「社会保障審議会年金部会における議論の整理」を巡って その4
年金を取り巻く、いまの日本の状況をどうとらえるか?
権丈:さて、ここで、またまた、大局的な視点でお話を伺いたいのですが、出口さんは、いまの日本が置かれた状況を、どうご覧になっていますか。
出口:歴史的に見たら、この国は、極論すれば存亡の危機に立っていると思うべきです。というのも、この30年間で、PPP(購買力平価)で見たGDP(国内総生産)の世界シェアは9%から4%にまで落ちているのです。スイスのIMD(国際経営開発研究所)による国際競争力では日本は30年前のトップから2019年には30位にまで落ち、1989年に時価総額トップ企業20社のなかに日本企業は14社もいたのが、いまはゼロでトヨタの35位が最高です。そこで、なんでこんなことになってしまったかと言うと、構造改革が行われず、新しいものが生み出されなかったからであって、そのことを直視することからしか、始まらないのではないですか。
権丈:30年前のバブルやはり驚くべき時代でしたね。それと、日本が人口減少社会であることも考える必要があると思います。日本銀行総裁の白川方明さんは、出口さんの学長就任パーティの時に挨拶をされていましたけど、白川さんがよく使っていたグラフは、次ですね*。
*日本銀行総裁の白川方明さんがよく使っていた先進国のGDPのグラフ
人口全員を対象とした実質GDPの伸びでは日本は他国と比べて見劣りするけど、生産年齢人口1 人当たり実質GDP で見れば、日本のパフォーマンスはよくがんばっているじゃないかという感じになる。2015年に大流行したピケティの『21世紀の資本』は200年間を対象としていますけど、出てくる図はすべて1人当たりGDPで、総GDPはないですね。人口が大きく変化する場合、総GDPでの時系列の比較はあまり意味がないですから。
出口:いま1人当たりGDPは26番くらいじゃないですか。
権丈:そのあたりはPPPでも換算面でなかなかむずかしいところがあって、国内の伸び率でずっと見ていくと、先ほどの白川さんのデータもそうですけど、他にもたとえばBIS(国際決済銀行)がつくったデータ*を見ると、日本の1人当たり実質GDPの伸びはかなり長い間、アメリカよりも良いです。昔、リフレ政策をせっせとやって日本の経済にカツを入れろっとかいろいろと言ってきたクルーグマンも、日本の人口が減っていることを視野に入れはじめて、彼が書いた2015 年の文章には、「日本の生産年齢人口1 人当たりの生産高(output per working-age adult)は、2000 年頃からアメリカよりも速く成長しており、過去25 年を見てもアメリカとほとんど同じである(日本はヨーロッパよりも良かった)」と書いて、方向転換してます。
*BIS(国際決済銀行)作成データで見る日本の1人当たり実質GDP
ところが、他の先進国は、1人あたり実質GDPの伸びと比較的パラレルに賃金も伸びていたのですけど、日本はそうではなく、賃金が伸びなかった。GDPという付加価値生産性、すなわち、営業余剰と雇用者所得の和の伸びは他国と比べて遜色のない伸びをしているのに、雇用者所得、賃金が伸びない。営業余剰として分配されて、内部留保として保蔵されすぎているわけですから、個人消費につながらないわけで、このあたりが非常にもったいない。もっと潜在的な成長力があるんですね、この国には。
内部留保に回る営業余剰から雇用者所得、つまり賃金に還元できれば、潜在的な購買力が顕在化して、いまでも他国と比べて遜色のない1人あたり実質生産性の伸びをいまよりも高めることができます。
ここから先は
¥ 100