居酒屋ねんきん談義|#10 On-line居酒屋ねんきんの店主が著者に聞く――佐藤麻衣子さん『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』を語る
49頁のイラストがこの本のすべてを語っている
権丈:きょうは佐藤さんに存分にこの本のことを語ってもらいたいと思います。さっそくだけど、ぼくとしてはこの本の49頁に掲載のイラストをぜひとも紹介したいんだよね。
佐藤:こちらですね。
権丈:まあ言ってみれば、この本はそういう本だよね。
佐藤:そうですね。
権丈:佐藤さんは、公的年金のことをよく理解してくれていて…っと、ついついぼくは、公的年金の立場になって話をしてしまうんだけど(笑)、世の中の人たちに仕事でいろいろと年金の話をするときに、きっと、このイラストに描かれているような感じなんだろうね。
佐藤:そうですね。
権丈:右側からセールスマンが「年金は破綻シマース」、「将来は暗いデース」、「若い人は損シテマース」と若者に近寄ってくる。すると、若者は「え!」と飛び上がってびっくり。すると、若者の隣にいる女性、佐藤さんかな、彼女が「きちんと事実を調べてくださいね!」、「はた迷惑な…」とびしっと言っている。
佐藤:公的年金がなかったら大変です。土台となる社会保険がなければ安定したライフプランを立てられないし、世の中の格差もいまよりもっと広がってしまいます。
権丈:だね。
編集部:佐藤さんのプロフィールを拝見すると、以前、金融機関において、投資信託・保険などのコンサルティングセールスをされていたということなんですが、佐藤さんご自身は、信託銀行で保険商品を取り扱っていたときに、どのような販売のしかたをされていたのでしょうか。
佐藤:豊かな老後生活を過ごすには、年金だけでは足りないということはお伝えしていました。足りない分は自分できちんと確保しておきましょう、いまある資金については増やしておきましょうというスタンスでお客様には対応していました。とはいえ、わたしが働いていたのは信託銀行だったので、どちらかというとある程度の資産をお持ちの方がお客様でしたから、お客様の資産運用の目的が公的年金で足りない部分を確保するということよりも、定期預金では増えないからほかに有効な資産運用ができる金融商品はないか、というようなご相談が多かったですね。
編集部:佐藤さんは自身の著書である『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』で、具体的なライフスタイルをお示しになって、不安の解消に努めていますが、佐藤さんご自身、年金に対して、不安がらなくてもいいと確信するようなご経験がなにかあったのでしょうか。
佐藤:親が年金をもらい始めたことが、制度に対する信用ということでは大きかったですね。わたしの父は高校を卒業してからずっと会社員として働いていました。働いている間ずっとしっかり厚生年金に入っていたので、ちゃんとした額の年金をもらっているんです。
編集部:そうなんですよね、年金って、実際にちゃんと支払われているという事実が制度に対する信頼感を生むんですね。そして、実際にもらうようになるとそのありがたみを実感するんです。若い人は30年先、40年先のことですから、まだそのリアリティーがないというのはどうしようもないのですが、イラストの男のように、そこにつけこむのはほんと許しがたいです。ちなみにわたしの母親は厚生年金を受けています。しかも、介護保険を利用して特別養護老人ホームに入所しているのですが、自己負担は母親の厚生年金ですべて賄い、わたしからの持ち出しはありません。親の年金制度のおかげで、子としてのわたしもそのありがたさを十分に実感しています。だから、年金制度改革を妨害しようとするキャンペーンは、将来の持続可能性の確保ということも妨げることになりますから、制度改革が遅れることで、マクロ経済スライドによる調整期間は長期化し、将来の給付水準の減少は大きくなってしまいます。そう考えると、年金を政争の具にすることは、将来世代から過去にさかのぼって、責任を追及されてもしょうがないのではないかとさえ思いますね。
権丈:保険って安心感が便益なわけだから、年金保険が破綻しているって、政治家や学者や記者の話は、年金保険の便益をゼロにして、保険料の負担だけを感じさせるものだったから、なぐってもよかったよね。
編集部:権丈さんなら、ほんとうになぐりかねませんね(笑)。
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