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#32 妻の収入が夫死亡直後に減額となったケース

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は、夫の生前には妻が高収入で、夫の死亡直後に妻の収入が大幅に減額となったケースです。妻は夫の生前、夫に代わり社長に就任し、夫が死亡後、すぐに社長を辞任しました。これにより収入が大幅に減額となり、収入要件の基準額未満となりました。ポイントは、夫の死亡日において、妻の収入減が予見できたかどうか、です。
ケースによっては、死亡日において近い将来の収入減が予見できる、とされる場合もあります。では、今回のケースを詳しく見ていきましょう。


【事例概要】
死亡者 A雄さん(昭和30年8月23日生:68歳)
・令和4年5月20日にX社の社長から会長へ
・令和5年9月30日に死亡(厚生年金被保険者)

請求者 B子さん(昭和33年5月3日生:65歳)
・令和4年5月20日にX社の社長に就任
・令和5年11月6日に年金事務所に来所
・同年11月20日にX社社長を辞任
・同年12月22日に年金事務所に再度、来所

夫死亡当時、妻の前年収入は900万円

夫であるA雄さんが死亡したとのことで、B子さんは遺族厚生年金の請求に年金事務所を来所されました。加入記録とB子さんの持参資料等から、A雄さんは死亡時、厚生年金被保険者であり、老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給権者でありました。また、B子さんがA雄さんの妻であり、A雄さん死亡の当時、A雄さんと生計同一だったことは間違いありません。

ところが、B子さんには給与収入が900万円ありました。
 
厚生年金保険の被保険者が死亡したとき、死亡者の遺族に遺族厚生年金が支給されます。遺族が配偶者である場合には、死亡者の死亡当時、死亡者によって生計を維持された者であることが必要です。
生計を維持した配偶者と認められるには、生計が同一であり、かつ、「年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者」以外の者でなければなりません。

根拠条文等
・厚生年金保険法第58条第1項第1号、第59条第1項、第4項
・厚生年金保険法施行令第3条の10
・「生計維持関係の認定基準及び認定の取扱について」(平成23年3月23日年発0323第1号通知。以下「23年通知」という。)
・「国民年金法等における遺族基礎年金等の生計維持の認定に係る厚生大臣が定める金額について」(平成6年11月 9日庁保発第36号社会保険庁運営部長通知)。

したがって、問題となるのは、B子さんがA雄さん死亡当時、年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者であって、A雄さんによりその生計を維持していた者であると認められるか、否かということになります。

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