1号保険料負担のあり方、一定以上所得者の判断基準、多床室の質量負担に結論を 社保審介護保険部会(12月19日・20日)
社会保障審議会の介護保険部会は12月19日、取りまとめに向けた「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」に関する2回目の議論を実施した。
「介護保険制度の見直しに関する意見」をとりまとめ
前回示されなかった「給付と負担」および「おわりに」の案についても厚労省より示され、大筋の方向性として合意が得られた。そうしたことから、部会にて挙げられた意見の反映は菊池部会長に一任されることとなり、翌20日に「介護保険制度の見直しに関する意見」(以下「部会意見」)が公表された。
一定以上所得(2割)の判断基準と多床室の室料負担について、次期計画に向けて結論を
部会で示された案のうち、「2.給付と負担」に関する結論は次の通りであり、部会意見においてもそのまま引き継がれた。
(1)高齢者の負担能力に応じた負担の見直し
(1号保険料負担の在り方)
・国の定める標準段階の多段階化、高所得者の標準乗率の引上げ、低所得者の標準乗率の引下げ等について検討を行うことが適当
・次期計画に向けた保険者の準備期間等を確保するため、早急に結論を得ることが適当
・2号保険料について、その透明性を確保する観点から、毎年、納付金額決定の後の介護保険部会等で厚生労働省から報告することが適当
(「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準)
・「一定以上所得」(2割負担)の判断基準について、後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう、高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行い、次期計画に向けて結論を得ることが適当
・「現役並み所得」(3割負担)の判断基準については、医療保険制度との整合性や利用者への影響等を踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当(補足給付に関する給付の在り方)
・給付の実態やマイナンバー制度を取り巻く状況なども踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当
(2)制度間の公平性や均衡等を踏まえた給付内容の見直し
(多床室の室料負担)
・介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料負担の導入については、在宅でサービスを受ける者との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等、これまでの本部会における意見を踏まえつつ、介護給付費分科会において介護報酬の設定等も含めた検討を行い、次期計画に向けて、結論を得る必要がある
(ケアマネジメントに関する給付の在り方)
・利用者やケアマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡等も踏まえながら、包括的に検討を行い、第10期計画期間の開始までの間に結論を出すことが適当
(軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方)
・介護サービスの需要が増加する一方、介護人材の不足が見込まれる中で、現行の総合事業に関する評価・分析等を行いつつ、第10期計画期間の開始までの間に、介護保険の運営主体である市町村の意向や利用者への影響等も踏まえながら、包括的に検討を行い、結論を出すことが適当
(3)被保険者・受給者範囲
・介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当
具体的には、1号保険料負担の在り方については早急に結論を得るとともに、一定以上所得(2割負担)の判定基準と老健・介護医療院における多床室の室料負担についても、次期計画に向けて結論を得る必要がある旨が示された(現役並み所得(3割負担)の判定基準については引き続き検討することが適当とされた)。また、室料負担については今後介護給付費分科会に検討の舞台を移すこととなる。
一方、ケアマネジメントに関する給付の在り方と、軽度者への生活援助サービス当に関する給付の在り方については、第10期(次々期)計画期間までに結論を出すことが適当とされた。また、被保険者・受給者の範囲においては、引き続き検討を行うことが適当との記述に留められた。
次期計画分には十分な議論を要望、医療保険との整合を図る現役並み所得者の基準に疑問の声も
健保連の河本委員は、健保連にて実施した「医療・介護に関する国民意識調査(速報版)」を抜粋して提出。介護サービス費用が増大していくなかで、高齢者世代を含め、自己負担増や保健給付の見直しを求める意見が多くあった実態を示し、「見直しを先送りにするようなことはもはや許されない」と主張。また、ケアマネジメントに関する給付や軽度者への生活援助サービスへの給付について、「第10期計画期間の開始までに結論を得るという先送りをされたのは大変残念」とし、次期計画が適当とされ、来年夏までに結論を得るとされている事項については、審議時間を含め十分な議論と見直しの確実な実現を要望した。
協会けんぽの吉森委員もこれに同意。「取り纏めにいたらなかったことは非常に残念。現在の環境下では限界に達しているとの声が上げられている」と訴えた。
次期計画向けて結論を得るとされた多床室の室料負担については、日慢協の橋本委員より老健・介護医療院と特養との性格の違いに対し、改めて懸念が示された。また、「調査まではしていない」としつつも、特養でも「地方では個室であっても室料をもらわない施設が多いのではないか」と主張した。
一方、次期計画に向けて結論を得るとされた「一定以上所得(2割負担)」の判定基準に対し、引き続き検討とされた「現役並み所得(3割負担)」の判定基準の在り方について、疑問が挙げられる場面もあった。
健保連の河本委員は、引き続き検討となった理由について、医療保険と同様の考え方で設定されているためということを確認し、「介護保険は医療保険を上回る伸び率で上昇しており、医療保険とは状況が違う」と訴えた。また、全老健の東委員も、伸び率の違いに言及。さらに「そもそも介護サービスは医療サービスと比べて長期間継続的に利用するという特徴もあり、医療保険と介護保険では性格が違う」と発言し、2割負担だけが増えることによる利用控えを危惧。医療保険と介護保険で整合性をとるという考え方は、今後あまりとるべきではないのではないかとの考えを示した。
テクノロジー活用による人員基準の緩和について、慎重な姿勢を求める
日看協の田母神参考人は、従来から要望していた看護小規模多機能型居宅介護の居宅サービスへの展開を振り返り、地域密着型サービスのままで利用しやすくするための具体的な方策について厚労省に尋ねた。厚労省はこれに対し、複数市町村での事前合意が確実に活用されるよう、①次期指針に広域利用に関する事前利用の協議検討を進めるべき旨を明記する、②広域利用を行う場合の市町村のガイドラインを策定するなどの例を挙げた。
また、田母神参考人は「施設や在宅におけるテクノロジーの活用」のなかで、「テクノロジーを活用した先進的な取組を行う介護付き有料老人ホーム等の人員配置基準を柔軟に取り扱うことの可否を含め、検討」することが示されたことを踏まえ、「テクノロジーの活用は人の手によるケアやそれにともなう業務量を根本的に軽減するものではない」とし、基準の緩和については極めて慎重な検討が必要との考えを示した。
日医の江澤委員も、ケアの質を担保する人員削減に資する、画期的なテクノロジーが存在しない状況下において、人員基準の緩和は慎重に検討するべきとし、特に「緩和された際に現場に勤務する職員の負担には、十分に、慎重に検討していく必要がある」と述べた。
また江澤委員は、「おわりに」のなかで、医療計画と介護保険事業(支援)計画との整合性に関する記述に加え障害福祉サービスとの整合性について加えること、さらに、高齢者の尊厳の保持や自立した日常生活支援といった介護保険の原点に立ち返る記述を加えることを要望。これらについては、それぞれが重要な記述であるとし、部会意見に反映された。