第9期基本指針の見直し・被保険者証の電子化等について議論開始――介護保険部会(2月27日)
厚労省は2月27日、第106回社会保障審議会介護保険部会を開催し、第9期介護保険事業計画の作成に向けた、基本指針の見直し等に関して議論した。
議題は以下のとおりとなっている。
基本指針について
介護保険被保険者証について
令和5年度介護給付金の算定について(報告)
総合事業の充実に向けた検討会(仮称)の設置について(報告)
[議題1①]第9期計画策定に向け、記載を充実する事項を3つに分類
1つ目の議題では、基本指針について議論した。
基本指針とは、「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(医療介護総合確保法)」に規定されている総合確保方針に即して、国が定める指針(「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」)。
これに即して、3年を1期とし、市町村は介護保険事業計画を、都道府県は介護保険事業支援計画を策定する。
今回の見直しは、令和6年度から令和8年度までとなる、第9期の計画に向けた基本指針の見直しとなる。
見直しについて考慮するべき要素としては、次の3つが挙げられた。すなわち、①昨年12月20日の「介護保険制度の見直しに関する意見」、②現在国会審議中の「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」、そして③2月16日の医療介護総合確保促進会議において大筋で了承された「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針改定案」である。
こうした要素を踏まえ、次のようなポイント(案)が挙げられた。
さらに、主に次の事項について記載を充実する案が示された。
1:介護サービス基盤の計画的な整備
中長期的な地域の人口動態や介護ニーズの見込み等を適切に捉えて、施設・サービス種別の変更など既存施設・事業所のあり方も含め検討し、地域の実情に応じて介護サービス基盤を計画的に確保していく必要性
医療・介護を効率的かつ効果的に提供する体制の確保、医療・介護の連携強化
サービス提供事業者を含め、地域の関係者とサービス基盤の整備の在り方を議論することの重要性
居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう、複合的な在宅サービスの整備を推進することの重要性
居宅要介護者の在宅生活を支える定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護など地域密着型サービスの更なる普及
2:地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた取組
総合事業の充実化について、第9期計画に集中的に取り組む重要性
地域リハビリテーション支援体制の構築の推進
認知症高齢者の家族やヤングケアラーを含む家族介護者支援の取組
地域包括支援センターの業務負担軽減と質の確保、体制整備等
重層的支援体制整備事業などによる障害者福祉や児童福祉など他分野との連携促進
認知症施策推進大綱の中間評価を踏まえた施策の推進
高齢者虐待防止の一層の推進
介護現場の安全性の確保、リスクマネジメントの推進
地域共生社会の実現という観点からの住まいと生活の一体的支援の重要性
介護事業所間、医療・介護間での連携を円滑に進めるための情報基盤を整備
地域包括ケアシステムの構築状況を点検し、結果を第9期計画に反映。国の支援として点検ツールを提供
保険者機能強化推進交付金等の実効性を高めるための評価指標等の見直しを踏まえた取組の充実
給付適正化事業の取組の重点化・内容の充実・見える化、介護給付費の不合理な地域差の改善と給付適正化の一体的な推進
3:地域包括ケアシステムを支える介護人材確保及び介護現場の生産性向上の推進
ケアマネジメントの質の向上及び人材確保
ハラスメント対策を含めた働きやすい職場づくりに向けた取組の推進
外国人介護人材定着に向けた介護福祉士の国家資格取得支援等の学習環境の整備
介護現場の生産性向上に資する様々な支援・施策に総合的に取り組む重要性
介護の経営の協働化・大規模化により、サービスの品質を担保しつつ、人材や資源を有効に活用
文書負担軽減に向けた具体的な取組(標準様式例の使用の基本原則化、「電子申請・届出システム」利用の原則化)
財務状況等の見える化
介護認定審査会の簡素化や認定事務の効率化に向けた取組の推進
基本指針の見直しに関しては、今後3月の課長会議において基本的考え方が提示され、6月・7月に改めて介護保険部会で議論する予定。実際の告示は10月頃となる見込みだ。
[議題1②]地域の変容を踏まえた新しいシステムを求める声も
焦点の1つである基盤整備に関しては、UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの染川議員が、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みについて、地域によってバラツキが大きいことを問題視。在宅で重度な要介護者を支える多様なサービスを選択できるよう具体的な施策を求めた。また、老施協の小泉委員は、在宅を支える通所介護・訪問介護の小規模事業所の倒産が相次いだ実態に触れ、運営できる報酬体系への考慮を訴えた。
高齢社会をよくする女性の会の石田委員は、こうした小規模多機能型居宅介護などの多様なサービスが増えていかないこと、訪問介護など「絶対必要なサービス」を閉ざしてしまう事業所があることなどを重要な問題とし、重点的に考える必要があると述べた。さらに、地域の様子も地域住民の生活の在り方も大きく変容している現状を踏まえ、「これまでの発想を超えた新しいシステムを作っていかなければ対応が難しいのではないか」と課題を示した。
一方、日医の江澤委員は、高齢者向け住宅の入居者の要介護度が上がり介護施設の稼働率が低下している傾向や、通所リハビリテーションにおいて定員に対して利用者数が少なくなっている傾向について、「潜在的なキャパシティ」を見いだし、地域の実態に即した介護基盤の整備が必要と述べた。
基本指針案におけるリハビリテーションに関しては、日慢協の橋本委員が記載の不十分を指摘。記述のなかに施設におけるリハビリテーションの推進を盛り込んで欲しいと要望した。
全老健の東委員も、介護老人保健施設は唯一、在宅支援が法に明記された施設であることを強調。在宅サービスの充実に、介護老人保健施設の支援機能の強化と訪問リハビリテーションの更なる普及といった、リハビリテーション機能の重要性に触れるよう求めた。
さらに女子栄養大学の津下委員は、地域リハビリテーション体制の構築等により、様々な目が高齢者を取り巻いていくことに触れ、虐待防止に繋がるのではないかと踏み込んだ。
[議題1③]「逃げ場がなくなる」ハラスメント対策として相談の場を
人材確保や生産性向上などの観点からは、日本介護福祉士会の及川委員が、外国人人材の国家資格取得の推進に協力したいと述べる一方で、「国内人材についての言及がなされていないことに違和感」と指摘。介護助手をはじめとする多様な人材の確保と共に、介護福祉士の育成・確保についての記述を求めた。
人材不足に関連しては、一橋大学国際・公共政策大学院の佐藤委員が、人材紹介事業者を介して人を募ることがあるが、人材紹介料が高いという問題があるらしいと指摘。実態がどうなっているのか、把握していく必要があると述べた。
働きやすい職場づくりに向けた取り組みの推進としては、日本介護支援専門員協会の濵田委員が、ハラスメント対策について問題提起。居宅介護支援などの訪問相談職種や訪問系サービスなど、個別に担当者が決められるサービスにおいては、1人の担当が1人の利用者・家族の対応を任せられ、複数の職員で対応する場合と負担度が異なると言及。また、苦情とハラスメントとの境界が難しい場合は、サービスの「提供拒否の禁止」規定により逃げ場がなくなる環境にある現状を考慮し、事業者や施設で解決が困難な場合、地域包括支援センターや保険者など、外部に相談できる窓口があると大変ありがたいと要望した。
[議題2]マイナンバーカードを活用、介護保険被保険者証を電子化へ
2つめの議題では、マイナンバーカードを用いた介護保険被保険者証の電子化について、厚労省から案が示された。
これは、①現状医療保険分野において健康保険証に関する議論が進んでいること、②介護保険分野においても利用者に関する介護情報を電子的に閲覧できる情報基盤を整備することとされていることを踏まえ、必要な情報を情報基盤から取得することで、資格確認等を可能とする方向で検討を進めてはどうかと提案されたもの。
マイナンバーカードを活用した電子化のイメージは、次のとおり。
なお、介護情報基盤および介護被保険者証の電子化の検証については、令和4年度二次補正予算において調査研究事業が認められている。
厚労省は、日本商工会議所の岡委員からスケジュールを問われ、詳細は調査研究事業で検討するものの、自治体の介護保険システム標準化の動きがあり、令和7年度中にガバメントクラウドに移行していく動きを見つつ詰めていきたいと述べた。また、認知症の人と家族の会の花俣委員にマイナンバーカードを持たない方への対応を問われ、健康保険証における同様の議論を踏まえて対策をしていく考えを示した。
日看協の田母神参考人は、要介護度が高いなど申請の困難な人に対し、身近で安心して相談できる相談窓口が必要であると訴えた。また、老施協の小泉委員は、施設入所者等に関するマイナンバーカードやパスワード管理について慎重な判断を要すると意見した。
女子栄養大学の津下委員は、郵送に比べて自ら見に行くなどの行動をとらなければ内容の確認ができない点を懸念。介護保険に対する住民の認知度が下がらないよう、これまで知らせてきた情報が低下しないよう配慮を求めた。
[議題3]第2号保険料納付金額を報告/人材派遣については労働部局と連携か
3つめの議題では、令和5年度の介護納付金の算定について報告された。
これは、「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和4年12月20日)のなかで、第2号保険料に関して「その透明性を確保する観点から、毎年、納金額決定の後の介護保険部会等で厚生労働省から報告することが適当である」と記載されたことから実施された。
令和5年度における第2号保険料は、月額6,216円の見込みと示されている。
こうした報告を求めてきた健保連の伊藤委員は、第2号保険料の負担のしくみについては、給付と負担の関係が希薄であり、税金のようになっていると指摘。納得感を得るため、第2号被保険者の保険料については国の審議会のような開かれた場で検討すること、あるいは全国一律の保険料率を設定するなどについて検討を求めた。
一方、財政的な話であるとの関連から、日慢協の橋本委員は議題1において佐藤委員が触れた、人材派遣について言及。議論の場として介護保険部会でよいか、施設の財政を圧迫しかねないと述べた。
これに対し、一義的には労働者派遣法に関する議論であることを確認した早稲田大学の菊池座長は、こうした点を「労働部局と共有することから始める必要があるのではないか」と指摘。障害分野においては雇用と福祉の連携が成果を上げたことを踏まえ、労働者派遣法全体の議論ではなく、医療・介護のひっ迫した状況を踏まえて労働部局とタッグを組んで進めていくやり方を提案した。
老健局林総務課長からは、意見があったことを担当部局に伝えることを述べると共に、給付費分科会でも同じような問題提起があったことに触れ、広くは経営に関する介護報酬の議論にかかってくることを踏まえると、どちらかと言えば給付費分科会の議論となる事項であるとの認識を示した。
[議題4]総合事業の検討会を設置、夏頃に中間整理
4つめの議題として、「総合事業の充実に向けた検討会(仮称)」の設置について報告された。
これも、「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和4年12月20日)の中にて、「地域住民の制度上の位置づけについて、介護保険の被保険者、すなわち支援の客体としてだけでなく、地域づくりや日常生活の自立に向けた支援を担う主体としても観念することが重要であり、このことを法令上及び運用上、より明確に位置づけるよう検討することが適当である」と言及されたことに由来する。
3月に第1回検討会を開催した後、総合事業を充実していくための制度的・実務的な論点を包括的に整理した上で、工程表にそって具体的な方策を講じるために検討し、今年の夏頃に中間整理を介護保険部会に報告する。
中間整理に向けた主な検討事項は、以下のとおり。
総合事業の充実に向けた工程表に盛り込むべき内容
住民主体の取り組みを含む多様な主体の算入促進のための具体的な方策
中長期的な視点に立った取り組みの方向性
介護保険部会からは、東京都健康長寿医療センター研究所の粟田委員、高齢社会をよくする女性の会の石田委員、日医の江澤委員が構成員となる案が示されている。
粟田委員は、議題1において「住民の状況も大きく変化している」と石田委員が言及したことに触れ、「総合事業の実態はどうなっているのか、どのような効果をもたらしているのか、他の地域支援事業と連動しながら、稼働できているのかという観点で検証しなくてはならないと思っている」と述べた。