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三宅社労士の年金実務セミナー|#4  令和4年度からこう変わる!公的年金制度part1 在職中の年金受給

三宅明彦(みやけ あきひこ)/特定社会保険労務士

本年4月、年金制度改正法(「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」令和2年6月5日公布)の目玉の事項が施行となります。年金実務セミナーでは、直前の1月から3月にかけて、次の3つのパートごとに改正内容を解説していきます。

part1:在職中の年金受給(令和4年4月施行)
part2:年金の繰上げ受給と繰下げ受給(令和4年4月施行)→2月18日(金)掲載
part3:厚生年金・健康保険の適用拡大(令和4年10月施行)→3月18日(金)掲載

各パートの最後に「理解度テスト」を設けましたので、施行前にポイントを確認していただければと思います。

では、1月はpart1の在職中の年金受給について見ていきます。

在職中の年金受給(令和4年4月実施)

1.60歳~64歳の在職中に受けられる
  厚生年金の改正

(1)在職老齢年金の改正内容
60歳~64歳の働きながら(厚生年金に加入をしながら)年金を受ける在職老齢年金制度(低在老)について、①就労に与える影響が一定程度確認されている、②2030年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援する、③制度をわかりやすくする、といった観点から、支給停止の基準額*が28万円から、現行の65歳以降の在職老齢年金(高在老)と同じ、「47万円」 に引き上げられます。よって、多くの在職者が年金を受給できるようになります。

*賞与を含む月収である総報酬月額相当額と老齢厚生年金(月額)の合計に応じて年金が支給停止されるしくみになっていて、その基準額。毎年度の年金額改定と併せて見直されます。

また、高齢期の就労と年金の調整については、年金制度だけでなく税制での対応や、各種社会保障制度における保険料負担等での対応を併せて、引き続き検討されます。
 
なお、法律改正による変更なので、新たな手続は必要なく、令和4年4月分(6月入金)以降の年金から、改正後の年金額が受給できるようになります。さらに、雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けている場合には、法律改正後も現在と同様に、一部、厚生年金が減額調整されます。

(2)60歳~64歳の在職老齢年金のしくみ
厚生年金の支給開始年齢を過ぎて在職している(厚生年金に加入をしている)場合には、給与の額によって年金が全額または一部支給停止されます。計算式はややこしいのですが、総報酬月額相当額*1と年金月額*2の合計額が増えると、支給停止される年金額も増える、というしくみになっています。具体的な在職老齢年金の金額については、後述の早見表(図表2)を参考にして下さい。

*1 総報酬月額相当額とは、標準報酬月額と被保険者である月以前1年間の標準賞与額÷12の合計額です。
*2 年金月額とは、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額のことです。一部の人は定額部分を含みます。

次に在職老齢年金の詳しい計算式を記します。

【令和4年3月まで】
① 総報酬月額相当額と年金月額の合計が28万円以下の場合、全額支給
② 総報酬月額相当額と年金月額の合計が28万円を超える場合
 ⅰ.年金月額が28万円以下で、総報酬月額相当額が47万円以下のとき
     年金月額-(総報酬月額相当額+年金月額-28万円)×1/2
    *実際にはほとんどがこの計算式に該当します。
 ⅱ.年金月額が28万円以下で、総報酬月額相当額が47万円を超えるとき
     年金月額-{(47万円+年金月額-28万円)×1/2+(総報酬月額
     相当額-47万円)}
 ⅲ.年金月額が28万円を超え、総報酬月額相当額が47万円以下のとき
     年金月額-総報酬月額相当額×1/2
 ⅳ.年金月額が28万円を超え、総報酬月額相当額が47万円を超えるとき
     年金月額-{47万円×1/2+(総報酬月額相当額-47万円)}
 
なお、上記の計算式の28万円を支給停止調整開始額といい、毎年度の年金額改正の際に名目手取り賃金が変動した場合に改定されます。また、47万円を支給停止調整変更額といい、同様に、物価変動率に実質賃金変動率を乗じて得た率が変動した場合に改定されます。

【令和4年4月以降】
① 総報酬月額相当額と年金月額の合計が47円以下の場合、全額支給
② 総報酬月額相当額と年金月額の合計が47万円を超える場合
     年金月額-(総報酬月額相当額+年金月額-47万円)×1/2
よって、47万円の支給停止調整額のみになります。

(3)在職老齢年金改正の想定相談
60歳~64歳の在職老齢年金制度(低在老)について、支給停止の基準額が28万円から47万円に引き上げられると、働く側にとっては給与と年金の両方がもらえるようになる機会が増えるわけですから、年金をもらいながら働くことに対して就労調整を誘引することは少なくなるでしょう。

実施は令和4年4月からなので、対象者はその時点で65歳未満の人ということになり、昭和32年度生まれより若い方になります。また、男性の場合は昭和36年度生まれから、女性の場合は昭和41年度生まれから65歳支給になりますので、対象者はこれより前に生まれた人に限られます。

図表1

一部の世代だけが優遇されているとの批判もありますが、制度改正を行うときにはこのようなことは付きものです。対象者が男性では4年間、女性では9年間になりますので、財政的に見ても大きくはないものと思われます。

さらに、今後は在職していても現役並み以上の給与をもらっていないと年金が在職停止されません。たとえば、60歳で再雇用になり給与が下がったような場合には、むしろ支給開始年齢よりも前に繰上げ受給をする人が増える可能性があります。繰上げ減額率の緩和も加味すると一層、増えてくるかもしれません。

図表2

なお、令和3年4月には高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業確保措置が企業の努力義務となりました。これに伴い、現役期間をできるだけ長くして、年金は引退後(65歳よりも遅く)に繰下げて年金額を増やそうという人と、逆に繰上げ受給をする人とに分かれてくるかもしれません。

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