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第3回社保審年金部会開催――課題・論点出し終え、次回から各論議論へ

基礎年金と報酬比例のマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合の所得代替率と給付水準調整期間の見通しを再確認

5月8日、第3回社会保障審議会年金部会が開催され、厚生労働省は資料「令和2年年金制度改正法等において指摘された課題」として、2020年12月25日の年金数理部会に示した資料「令和元年財政検証追加試算」を年金部会に提出。改めて、基礎年金と報酬比例のマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合の所得代替率と給付水準調整期間の見通しを示した。
2004(平成16)年改正時における財政再計算では、基礎年金と報酬比例のマクロ経済スライドによる調整期間の見通しは一致していたが、基礎年金は国民年金勘定、所得比例は厚生年金勘定の財政均衡により調整期間が決定される仕組みとなっているため、その後の経済状況の変化等により、調整期間に乖離が生じ、基礎年金の調整期間は報酬比例よりも長期化し、所得代替率(現役世代の賃金に対する年金の水準)も報酬比例に比べ、より大きく引き下げられることになった。そのため、所得再分配機能を有する基礎年金の割合が報酬比例に対して相対的に低下してしまうことで、厚生年金の所得再分配機能を低下されるおそれが生じることになっている。
こうしたことから、令和元年財政検証追加試算では、2019(令和元)年財政検証に、2020(令和2)年年金改正法を反映させたものとして、追加試算①基礎・比例のマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合。追加試算②基礎・比例のマクロ経済スライドの調整期間一致に加え、基礎年金を45年加入(20~64歳)とし、延長期間(60~64歳)に係る給付に国庫負担がある場合。追加試算③基礎・比例のマクロ経済スライドの調整期間一致に加え、基礎年金を45年加入(20~64歳)とし延長期間(60~64歳)に係る給付に国庫負担がなく、すべて保険料財源で賄う場合。これら3つのケースで追加試算を行った。
その結果、ケースⅢの場合、現行制度では給付水準調整終了後の所得代替率51.0%(給付水準調整終了年度2046年)[比例:24.5%(2025年)、基礎:26.5%(2046年)]であるのに対して、追加試算①では給付水準調整終了後の所得代替率55.6%(給付水準調整終了年度2033年)[比例:22.6%(2033年)、基礎:32.9%(2033年)]、追加試算②では給付水準調整終了後の所得代替率62.5%(給付水準調整終了年度2033年)[比例:25.4%(2033年)、基礎:37.0%(2033年)]、追加試算③では給付水準調整終了後の所得代替率60.5%(給付水準調整終了年度2035年)[比例:24.6%(2035年)、基礎:35.8%(2035年)]という見通しとなり、いずれの追加試算の場合においても、国民年金勘定と厚生年金勘定の積立金を合わせた積立比率(前年度末積立金/前年度支出-国庫負担)は現行制度より上昇し、その結果、積立金財源が増加し、将来の給付水準の確保に活用できることが示された。
また、賃金水準別にみた所得代替率への影響についても、拠出期間が40年の追加試算①の場合では、賃金水準がモデル年金の約3.4倍未満の世帯で所得代替率が上昇。拠出期間を45年とした場合、追加試算②(5年延長分に国庫負担あり)では、すべての世帯で所得代替率が上昇。追加試算③(5年延長分に国庫負担なし)では、賃金水準がモデル年金の約3.2倍未満の世帯で所得代替率が上昇する結果が得られた。

働き方や家族のかたちの変化などに対応した制度改正に加え、広報・教育の充実を

一方、部会では、第1回および第2回に引き続き、各委員が幅広く年金制度改正に対して意見を表明。若者の年金不安に対して広報や教育の充実を求める意見や、障害年金については専門的な議論が必要となることから、年金部会の下に障害年金を専門に議論する場を設けること、また、公的年金と企業年金・個人年金とが制度改正に向けて連携して整合性をもって議論を進めていくことが必要だとする意見などが示された。
今回の部会で、年金制度全体の課題や論点出しなどは終了、各委員から示された意見を踏まえ課題、論点を整理し、次回の部会からは各論の議論に入る予定だ。

参考:厚生労働省ホームページ
○資料1 第1回及び第2回年金部会における主なご意見
○資料2 令和2年年金制度改正法等において指摘された課題
○参考資料 ・公的年金財政状況報告(令和3(2021)年度)のポイント
      ・公的年金財政状況報告(令和3(2021)年度)の概要


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