見出し画像

介護給付費分科会が2021年度介護報酬改定に向けて議論を開始(3月16日)

社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は16日、2021年度介護報酬改定に向けた議論を開始した。

厚労省は、2018年度介護報酬改定に関する審議報告における今後の課題や、今般の制度改正のベースになった介護保険部会意見書、昨年6月に策定された政府の認知症施策推進大綱などを踏まえ、①地域包括ケアシステムの推進②自立支援・重度化防止の推進③介護人材の確保・介護現場の革新④制度の安定性・持続可能性の確保─の4つの分野横断的なテーマをあげ、各サービスの論点と合わせて議論を進めていくことを提案した。

厚労省は今後のスケジュールも示した。夏頃にかけて各サービスや分野横断的なテーマの主な論点を一通り議論するとともに、事業者団体にヒアリングを実施。秋頃から改定に向けた具体的な方向性の議論を深め、12月に基本的な考え方を整理し審議報告を取りまとめる予定だ。

予算編成過程で全体の改定率が決められ、年明けに介護報酬改定について厚生労働大臣から社保審に諮問され、社保審は答申。来年4月に改定が実施される。


自立支援・重度化防止の推進でアウトカムを重視

昨年6月に閣議決定された成長戦略フォローアップでは、「利用者の平均的な日常生活動作の維持又は改善に対する介護報酬加算について、自立支援や重度化防止等の観点から、2020年度までにエビデンスに基づく効果検証を行い、次期介護報酬改定で必要な対応を行う」としている。

骨太の方針2019などでも「ADLの改善などアウトカムに基づく支払いの導入等を引き続き進めていく」としている。

厚労省は介護関連データベースの構築を進めてきており、そうして収集されたデータも活用される方向だ。

他方、2月19日に開かれた政府の全世代型社会保障検討会議で、加藤勝信厚生労働大臣は2021年度介護報酬改定において「介護事業者が自立支援に取り組むインセンティブを強化」する方針を示した。また検討会議の論点には、利用者の自立度が改善した場合の加算の対象等を見直すことも盛り込まれていた。検討会議は夏に報告書を取りまとめる予定だが、厚労省は分科会で具体的な議論を深めていく方針だ。

意見交換で、日本医師会常任理事の江澤和彦委員は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年、団塊ジュニアが高齢者になる2040年などを見据え、「2020年から2040年に向けた20年は新たなステージに入る。次の報酬改定は新たなステージに向けてどうスタートを切るかが問われている」と指摘。「介護保険法の第1条と第2条に示されている尊厳の保持と自立支援という原点に立って、利用者の視点に基づいた議論が必要」と主張し「特に軽度者の重度化防止と中重度者をしっかり支える視点が重要」と強調した。そうした視点に立った検証や改定の議論を求めた。

認知症の人と家族の会理事の鎌田松代委員は、「自立支援・重度化防止の推進」に言及し「自立支援は、介護保険のお世話にならない、『介護保険からの卒業』がよく言われている。給付の対象とはなくなるという意見もある。また重度化防止とは、『良くなることだ』という意見がある」と紹介。今後、議論を進めていくうえで、「自立支援・重度化防止」について「分科会委員が共通認識を持って議論を進めることをお願いしたい」と要望した。

連合生活福祉局長の伊藤彰久委員は、自立支援・重度化防止におけるアウトカム評価の導入について、2018年度審議報告で「クリームスキミングにより利用者のサービス利用に支障が出る等の弊害が生じていないか等について検証を進める」ことになっている点を指摘。調査を踏まえて検証していく必要を強調した。さらに「アウトカム評価を入れていくのであれば慎重に議論していきたい」と述べた。

慶大大学院教授の堀田聰子委員は、自立支援・重度化防止の推進について、他の委員の意見も踏まえて、「(介護保険の理念である)尊厳と自立がきちんと抑えられた丁寧な議論が必要だ」と指摘した。

生活の持続可能性も視野に議論を

2000年度にスタートした介護保険制度は認定者数・利用者数は増加し、給付費・地域支援事業費は年々増加している。2000年度には3.2兆円であったが、2017年度には9.8兆円と3倍以上になっている。65歳以上が納める保険料の全国平均も2,911円から5,869円と2倍になっている。

健保連常務理事の河本滋史委員は、第8期介護保険事業計画期間中の2022年から団塊の世代が後期高齢者に入ることを指摘。現役世代の負担増に危機感を表明し、「制度の安定性・持続可能性の確保を議論する際にサービスの重点化・適正化について現状を踏まえた課題を整理して提示していただきたい」と要望した。

認知症の人と家族の会の鎌田委員は、制度の持続可能性について「私たちの生活が立ち行かないような負担増や給付削減となれば元も子もなくなる。生活の持続可能性を視野に入れた審議をぜひお願いしたい」と求めた。

処遇改善加算の検証や報酬体系の簡素化も課題

「介護人材の確保」も引き続き大きな課題だ。

協会けんぽ理事長の安藤伸樹委員は介護職員処遇改善加算等の効果を検証し、処遇改善につながっていない場合にきちんと見直すように要請した。日本経団連常務理事の井上隆委員も「人材が圧倒的に足りない」とし、高齢者や外国人の活用など具体的な議論を行っていくことを提案。「処遇改善の効果を検証しながら見直しに当たってほしい」と求めた。

その他、複数の委員が複雑化している報酬体系の簡素化を求めた。普遍化してきた加算を基本報酬に含めることも提案された。

介護職員処遇改善加算(Ⅳ)と(Ⅴ)について廃止する方針だが、人材確保難の状況から時期は決まっていない。今回の改定に向けた議論でも論点の一つになる。

社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。