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#28 不動産士業で社長の夫が死亡~取締役の妻は遺族厚生年金を受給できるか

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は、不動産鑑定士・宅地建物取引主任者の資格を持ち、不動産業の会社を経営していた夫が死亡したケースをご紹介します。妻はこの会社の取締役として、遺族厚生年金の収入要件の基準額以上の年収がありました。ポイントは、夫の死亡による妻の減収が認められるかどうかです。


【事例概要】
死亡者:A雄さん(昭和40年5月5日生まれ:58歳/厚生年金被保険者)
・不動産鑑定士・宅地建物取引主任者
・平成10年4月1日にM地所社を設立し、代表取締役を務める
・令和5年7月7日に死亡
 
請求者:B子さん(昭和44年6月10日生まれ:54歳)
・A雄さんの戸籍上の妻
・M地所社の取締役等として収入を得る
・令和5年9月1日に年金事務所に来所

厚生年金保険の被保険者であったA雄さんが亡くなったとのことで、妻であるB子さんが遺族厚生年金の裁定請求に年金事務所に来所されました。

厚生年金保険の被保険者が死亡したとき、死亡者の遺族に遺族厚生年金が支給されます。遺族が配偶者である場合には、死亡者の死亡当時、死亡者によって生計を維持された者であることが必要です。

B子さんの話と持参書類等によると、B子さんには基準額を超える収入があり、A雄さんによって生計を維持した配偶者とは認められないのではないか、との懸念がありました。

生計を維持した配偶者と認められるには、生計が同一であり、かつ、「年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者」以外の者でなければなりません。 

根拠条文等
・厚生年金保険法第58条第1項第1号、第59条第1項、第4項
・厚生年金保険法施行令第3条の10
・「生計維持関係の認定基準及び認定の取扱について」(平成23年3月23日年発0323第1号通知。以下「23年通知」という。)
・「国民年金法等における遺族基礎年金等の生計維持の認定に係る厚生大臣が定める金額について」(平成6年11月 9日庁保発第36号社会保険庁運営部長通知)。

今回の事例においては、A雄さん死亡の当時、厚生年金保険の被保険者であったこと、B子さんがA雄さんの戸籍上の妻であり、その死亡の当時、A雄さんと生計を同一にしていたことは間違いありません。

したがって、問題となるのは、B子さんがA雄さん死亡当時、年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者であって、A雄さんによりその生計を維持していた者であると認められるか、否かということになります。

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