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介護医療院の移行定着支援加算の延長で賛否(8月27日)

社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は8月27日、令和3年度介護報酬改定に向けて、①介護医療院②介護療養型医療施設③介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)④介護老人保健施設─の4つについて検討した。

今回の議論の内容を3回に分けて紹介する。まず介護医療院と介護療養型施設について取り上げる。

介護療養型医療施設は令和5年度末に廃止されることが決まっており、その受け皿として平成30年度に創設された介護医療院などへの円滑な移行が大きな課題だ。

移行促進のために30年度介護報酬改定で新設された「移行定着支援加算」は、今年度末で終了する予定であり、その延長を支持する意見と、報酬以外での支援策を求める意見の両論が出された。

今回で、3年度改定に向けた各サービスごとの論点に関する議論は、いわゆる第1ラウンドが終了した。分科会は9月以降、これまでの意見交換や関係団体からのヒアリングなどを踏まえて、改定に向けた具体的な方向性の検討を深めていく。12月には改定の基本的な考え方を取りまとめる予定だ。

令和5年度末の転換先が「未定」が3割

介護医療院は、平成30年度から導入された。令和5年度末に廃止が決まっている介護療養型医療施設等の転換先となることを想定されている。「医療の必要な要介護高齢者の長期療養・生活施設」であり、生活支援を重視することが介護療養型医療施設との大きな違いだ。
開設は増加しており、令和2年6月末で515施設と、500施設を超えた。利用者の平均要介護度は4.1と介護医療院に次いで高い。要介護4より上が8割を超える。




令和元年度の調査で経営状況をみると、収支差率は7.1%と高い(参考値)。収支差率が高い要因について厚労省は「移行定着支援加算の影響」を挙げる。
「移行定着支援加算(93単位/日)」は介護療養型等からの転換を進めるため、30年度改定で導入されたものだ。算定できるのは起算から1年限り。30年5月から令和2年4月審査分までの算定率は、おおむね90%以上と高い。同加算は令和3年3月末までの時限的なものであり、令和3年度改定で継続するか否かは大きな論点だ。

介護療養型の移行予定を見ると、令和元年度の調査で、廃止期限である2023年度末(令和5年度末)までに介護医療院への移行を予定している病床数の構成比はⅠ型及びⅡ型の介護医療院の合計で49.2%と半数近い。

一方、同年度末時点で介護療養型医療施設に留まる考えを示している病床が12.2%、転換先が「未定」が28.9%と3割近くに上る。 「未定」などの施設が転換先を決定できるように支援していくことが課題だ。厚労省は、「令和5年度末以降は介護療養型医療施設というサービス類型は存在しない。より早期の意思決定支援を行わないといけない」と強調する。

同様に、医療療養病床の移行予定を見ると、2.3%に止まる。ただ医療療養のうち療養病棟入院基本料経過措置で移行を予定しているのは18.4%と、比較的高くなっている。

全国町村会や全国市長会からは、医療療養からの転換により介護保険財政への影響を懸念し、支援を求める声が上がっている。

介護医療院に移行すると仮定した場合の課題では、「施設経営の見通しが立たない」が介護療養型及び医療療養の双方で最も高く、それぞれ31.1%、40.9%になっている。経営の見通しが立つような配慮をどのように行うかが問われている。




医療療養の経過措置では診療報酬が減算

次に、令和5年度末に廃止が決まっている介護療養型医療施設の状況をみてみる。
請求事業所は年々減少しており、平成31年で912施設と、19年の3分の1程度まで減少している。受給者数及び費用額も減少傾向で、31年の受給者数38万9千人、30年の費用額は1998億円になっている。

介護医療院が導入された平成30年4月以降の介護療養病床の移行先をみると、介護医療院が80.3%と8割を占めている。

令和2年度診療報酬改定で、療養病棟入院基本料の評価の見直しが行われ、療養病棟入院基本料注11に規定する経過措置は、減算された上で、経過措置期間を2年間延長することが決まった。また注12に規定する経過措置は廃止されている。

令和5年度の廃止を見据えて、令和3年度からの第8期介護保険事業(支援)計画の基本指針案では、介護療養型医療施設の確実な転換等を行うための具体的な方策について記載することとなっている。

厚労省は、こうした介護医療院や介護療養型医療施設の状況を踏まえて、◇介護療養型等から介護医療院への円滑な移行を一層促進する観点からの方策◇介護療養型のより早期の意思決定を支援するための方策◇介護医療院の長期療養・生活施設としての機能をより充実する方策◇令和2年度診療報酬改定を踏まえた介護療養型への評価─について尋ねた。

転換計画書の作成や基金の活用で介護医療院への移行の促進も

意見交換で、健保連の河本滋史委員は、介護医療院への移行が確実に進むように転換計画書の作成を求めることや、地域医療介護総合確保基金を活用することを提案するとともに「国によるさらなる周知や支援が必要」と主張した。
他方、移行定着支援加算について「サービス提供以外の部分について加算として評価するのは問題。早期の転換を促す施策は必要だが、転換支援策は介護報酬以外の形で検討すべきではないか」と述べた。 また介護療養型医療施設については、令和2年度診療報酬改定での評価を踏まえ、「転換の移行を促進していくために減算などを検討してもいいのではないか」と求めた。

連合の伊藤彰久委員は、介護療養型からの介護医療院への転換について「生活施設という機能を伴った形で移行してほしい。移行のための費用は例外的にあるもの。利用者にとっては負担に見合ったサービスが受けられることが重要だ」と述べた。

日本経団連の井上隆委員は、介護療養型の廃止を予定通り実施していく重要性を強調。介護医療院への転換の促進して行くうえで、「移行定着支援加算は令和3年度末までという期間限定だから移行が促進される面もあると思う」とし、加算の延長には否定的な見解を示した。

一方、全国市長会の大西秀人委員は、円滑な移行を進めていく観点から、移行定着支援加算の延長の検討を求めた。他方、医療療養病床からの移行による介護保険財政への影響を懸念。支援の一つとして財政安定化基金からの貸付の償還期限の延長が示されているが、財政面における「実質的な支援」を要請した。

この点について全国町村会の椎木巧委員も同調し、保険料の影響が大きいことから、「費用の総額を軽減するための財政支援措置をお願いしたい」と求めた。

全国知事会の水町参考人も、「移行定着支援加算は今年度末までとなっているが、加算の継続を検討してよいのではないか」と述べた。

全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、介護療養型について転換先が「未定」の施設が多い状況から、「(介護療養型から介護医療院へ)移行できるより強力な方策が必要だ」と転換支援策の充実を指摘した。

日本医師会の江澤和彦委員は、有床診療所が介護医療院に移行する場合に、特別浴槽が求められるが、「要介護者が不自由なく入浴できる状況であれば、施設基準を緩和すべき」とした。

日本慢性期医療協会の武久洋三委員は、新型コロナウイルス感染症拡大の状況で、一般病床の空きが増えているとし、療養病床から介護医療院に移行するのが少ない場合は、一般病床からの移行を受け入れ、「今の倍くらいつくっていただければ」と述べた。

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