【玉置妙憂:超高齢多死時代のケアを考える#4】グリーフケア(老老介護から独居の時代、喪失とともに生きる独居高齢者等への支援)
介護する側も、される側も、65歳以上の「老老介護」。
要介護者も介護者も認知症の「認認介護」。
しばしばメディアで取り上げられるようになってから久しい、21世紀の大きな社会問題です。
きっと、みなさまも現場で、該当する事例をご担当なさっていることでしょう。
昨今は、時の流れとともにさらに状況が変化し、「老老」の一方が他界したことによる老人の独居も問題となっています。
そして、そこでは喪失の悲嘆(グリーフ)が加わって、深刻な高齢者のひきこもりを生じさせている現状があります。
喪失の悲しみと高齢者のひきこもり
一昨年、ある地域の地域包括支援センターと仕事をする機会があり、その時相談員の方から「高齢者のひきこもり対策に悩んでいる」との声をいただきました。
「老老介護」の末、伴侶を失い喪失の悲しみに暮れる独居の高齢者がひきこもりがちだというのです。
楽しんでもらえそうな企画を立てて声をかけても、「今はそんな気分ではない」と言われてしまってなかなか参加してもらえない。
これまでにもさまざまな企画を展開してこられたそうですが、「どうもうまく引っ張り出すことができないんですよね。」とのことでした。
言うまでもなく、高齢者のひきこもりは筋力低下など、身体に多大なる負の影響をもたらします。
しかも、問題は身体的なものばかりにとどまらず、老人性鬱の発症や、認知症を引き起こすリスクにもつながります。
もちろん、その方の「人生の質」という面を考えても、決して好ましい状態とはいえません。
あらゆる面から考慮して、ひきこもっている高齢者を外に連れ出すことは、喫緊の課題です。
グリーフケアとはスピリチュアルケアの中のひとつ
グリーフ(喪失の悲嘆)を抱え、そのために通常の企画に参加できない状態なのであれば、その悲嘆を分かち合うことができるグリーフケアの場を設ければよいのではないか。
グリーフケアとはスピリチュアルケアの中のひとつで、大切な人や大切なペットと死別したことによって生じる深い悲しみへのケアです。
大切な存在を失って悲嘆に暮れるのは誰にでもあることで、「喪のプロセス」ともいわれ、概ね2年ほどの年月(個人差あり)をかけて回復していくと考えられています。
その回復過程が順調に進むよう、その人の在り方そのものをサポートしようとするのがグリーフケアです。
そこで、我々大慈学苑が、2019年より展開してきたスピリチュアルケア活動の経験を活かし、協力させていただくことになりました。
地域の住民の方々を対象とした、グリーフケアの場作りです。
新しいチャレンジ――地域に根差したグリーフケアの場づくり
従来のグリーフケアの場は、病院や施設に紐づいていたり、または、民間の団体が独自に開催しているというケースが多いようですが、今回の試みは、そうしたケースとは異なり、地域包括支援センターが主催者となって、その地域の住民に呼びかけるという形で実施されました。
入院していた病院や、入居していた施設を括りとするのではなく、いま住んでいる場所を括りとする、まさに地域に根差したグリーフケアの場づくりです。私の知る限りでは、ちょっとした新しいチャレンジでした。
地域のグリーフケアの会は、月に一度、無料で継続開催することとなりました。
当初、参加者は2~3名だったものの、半年を経過する頃には、毎回十数名の参加者を得るようになりました。また、別の地域の住民の方々や地域包括支援センターからのご要望もあり、現在は3ヵ所の地域で展開しています。
実施の経験から、さまざまなことが分かってきました。
まずは、地域でグリーフケアを実践することの利点と期待できる効果です。
①ご近所付き合いの復活~相互扶助文化の再構築~
地域でのグリーフケアは、まさに生活の場における活動です。病院や施設に紐づいていると、わざわざそこに出かけて行かなければならず、人によっては敷居が高くなるでしょう。
それぞれの介護・看取り体験を、いま生活している地域で分かち合える。しかも、生活圏が一緒ですから、そこから、あらたな交流関係が生まれることになります。
②日常生活の活性化~人生の質の向上~
よく見る光景ですが、グリーフの会のあと誘い合ってカフェに寄ったり、一緒に食事をされたりしていらっしゃるようです。
ひとりきりでひきこもっていた時に比べると、日々の生活がずいぶんと活動的になっていらっしゃいます。
③医療・介護・福祉へのリレーション~生活の質の向上~
ときに、参加者の方々の中に、医療介護や福祉の公的サービスを導入すべき状態である方もいらっしゃいます。
ひきこもっていたら、もっと発見が遅くなっていたかもしれませんが、こうやって出てきてくださったことで、迅速に医療・介護・福祉につなげることができました。
④スピリチュアルケアの知識と技能~専門的でデリケートなサポート~
グリーフはスピリチュアルペインの中のひとつのかたちです。
今回、スピリチュアルケアを専門とする大慈学苑が協働させていただくことで、より専門的でデリケートなサポートが実現しました。
喪失の悲嘆を抱える方を地域でケアするとなると、そのケアの仕方について不安があり躊躇される場合もあるかと思いますが、こうやって役割を分担することができれば安心です。
⑤第三者としての関係性~心置きなく話せる場~
グリーフケアの場がお世話になった病院や施設に紐づいていると、話すに話せないことがあるのも事実。
その点、地域で実施するグリーフケアの場では、ほど良い第三者の関係性をつくることができます。
だからこそ、安心して本音を語ることができるのです。
⑥点ではなく、線のケア~時間軸に沿って寄り添う~
治療は病院で。療養は施設で。葬式は葬祭場で。供養は寺で。
既存のサービスは、どうしても「点」のケアになりがちです。
でも、その人の人生に注目すると、時間は途切れることなく「線」でつながっています。
細切れの「点」のケアの間を埋める「線」のケアが必要です。
介護していたことも、看取ったことも、そして今ひとりで生活していることも、すべて知っている存在が必要なのです。
⑦クライシスの早期発見~死別後シンドロームの予防~
地域でのグリーフケアは、定期的に継続して開催します。
ほとんどの方が毎回参加してくださるので、心身の状況の変化をおいかけることができます。
大切な人を失った後、悲嘆にくれるのはあたりまえのことで、統計的には概ね約2年をかけて回復していくとされています。
ただ、その回復過程から逸脱してしまうケースがあり(死別後シンドローム)、医療の介入を必要とする場合もあります。
継続的に会うことにより、異常を早期に発見することができます。
⑧経験値の循環~支えられる立場から支える立場へ~
初めて参加したときには、涙、涙で声も出せなかったような方が、回数を経ていくうちにだんだんと、新規参加者の話に耳を傾ける立場になっていきます。
経験値の循環ですね。人間の底力を感じさせていただく素晴らしい瞬間です。
問題はいずれも想定内の範疇で、滞りなく運営
以上が地域で継続的に開催されるグリーフケアの会ならではの利点です。
もちろん、これまでの活動の中で問題もありました。
リピーターの方と新規参加者の方の温度差が大きすぎて話が合わない(話し合いのグループを別にすることで解決)。
亡くなった状況によって話が合わない(たとえば、病死と自死。亡くなった歳など。これも、話し合いのグループを分けることで解決)。
参加者同士の言い合い(ファシリテーターが割って入り、個別に話を聞くことで解決)。
さまざまありましたが、いずれも想定内の範疇で、滞りなく運営できています。
地域における相互扶助文化を再構築し、より良い未来を次世代へ
さあ、どうでしょう。みなさま方の地域でも、実施できそうな気がしてきませんか?
ぜひ、チャレンジしてみてください。お声かけいただければ、日本全国どこへでも、お手伝いにいかせていただきます!(大慈学苑 E-mail: daiji@myouyu.net)
私たちは、どうしても目の前のことだけでいっぱい、いっぱいになりがちです。あたりまえですよね。
みなさんが激務であることは、よくよく存じ上げています。
でも、そんななかでも、どこかで少しだけ、今を豊かにすること、そして、より良い未来を次世代に残すことを考えてもらえたらなと思っています。
地域のグリーフケアを通して、まずは、ひきこもっていらっしゃる方のサポートをすることが第一義ですが、その先に、地域における相互扶助文化が再構築されたより良い未来を次世代に渡すという大きな夢が見えています。
みなさんのお子さんに、お孫さんに、今より暮らしやすい社会をプレゼントしようではありませんか!
あ~、ちょっと大きなことを言い過ぎましたかね。
いや、夢と希望は大きければ大きいほどいいですから!