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遺族年金のしくみと手続~詳細版|#21 夫死亡による遺族厚生年金の受給者は本妻か内縁妻か

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は、戸籍上の妻と内縁の妻の両方が遺族厚生年金を請求しているケースです。比較的よく見られるケースと言えますので、この機会に重婚的内縁関係における遺族年金の支給決定について、判断ポイントを確認しておきましょう。

【事例概要】
死亡者:A男さん(昭和31年8月10日生まれ:66歳)
・老齢厚生年金受給権者
・昭和59年6月10日、B美さんと婚姻の届出をし、長女と次女をもうける
・平成18年3月5日、登録住所地をX市Z町から同市Y町に変更
・同年7月20日、C子さんとの間にできた子を認知し、C子さん・子と同居
・令和4年9月11日、肺がんで死亡
 
請求者:B美さん(昭和33年11月3日生まれ:63歳)
・A男さんの戸籍上の妻
・令和4年11月11日に遺族年金の請求に来所
 
請求者:C子さん(昭和43年7月15日生まれ:54歳)
・A男さんの内縁の妻
・令和4年11月16日に遺族年金の請求に来所 

内縁の妻が遺族年金を受給する条件とは

老齢厚生年金の受給権者であったA男さんには、戸籍上の届出のある妻B美さんがいます。しかし、内縁の妻であるというC子さんが、A男さんが死亡したとのことで遺族厚生年金の請求のために来所されました。

老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合において、その死亡当時、その者によって生計を維持した配偶者に遺族厚生年金が支給されます(厚年法第3条第2項、厚年法第58条第1項及び第59条第1項)。なお、ここで言う「配偶者」には、婚姻はしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含みます。

受給権者に戸籍上、届出のある妻のほかに内縁の妻がいる場合を「重婚的内縁関係」といいます。内縁の妻が遺族年金を受給するためには、亡くなった受給権者によって生計を維持していた事実があり、かつ、受給権者と本妻が「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったもの」となっていて、「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得ることが必要です(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日年発 0323第1号厚生労働省年金局長通知)。
 
なお、「届出による婚姻関係がその実体を全く失ったもの」となっているときとは、次のいずれかに該当する場合をいいます(通知の「6 重婚的内縁関係」の(1)認定の要件)。

ア 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき。
イ 一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき。

また、「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得るためには、次に掲げるすべての要件に該当する必要があります。

ア 当事者が住居を異にすること。
イ 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと。
ウ 当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと。

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