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【詳解】第86回社会保障審議会介護保険部会(11月27日)

医療保険者委員が利用者負担の原則2割を主張

次期介護保険制度改正に向け検討を続けている社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)は11月27日、制度の持続可能性の確保と保険者機能について、議論を深めた。医療保険者を代表する委員が、利用者負担について「原則2割」とするように訴えた。


被保険者・受給者の範囲の見直しは先送り

制度の持続可能性の確保について厚生労働省は、①一定以上所得(2割負担)・現役並み所得(3割負担)の判断基準②高額介護サービス費の見直し③老健施設などの多床室の室料負担の導入④ケアマネジメントに関する給付のあり方⑤補足給付⑥軽度者への生活援助サービス等に関する給付のあり方─について改めて検討を求めた。このうち①~③の3項目について「医療保険制度との関係も踏まえて検討する必要がある」と述べた。

他方、制度創設の検討時からの課題である被保険者・受給者の範囲については、範囲拡大の前に給付や利用者負担の見直しを求める意見や、「介護の普遍化」を求める賛否両論が出されていることを踏まえ、「引き続き検討を行うことが適当」として先送りすることとした。

現金給付についても、介護負担そのものが軽減されるわけでないなどの意見を踏まえ、現時点での導入は適当ではないとした(図表1・2)。

▲図表1 制度の持続可能性の確保の検討(検討の視点1)
▲図表2 制度の持続可能性の確保の検討(検討の視点2)

協会けんぽの安藤伸樹委員は、「介護保険の利用者負担を原則1割から2割に見直すべき」と主張。直ちに原則2割とすることが難しい場合、一定以上所得の判断基準を被保険者の上位20%から30%以上に見直すなど対象範囲の拡大を求めた。 健保連の河本滋史委員も「利用者負担の原則2割化を議論すべき」と主張。また新経済・財政再生計画改革工程表2018に記載された事項を「確実に進めるべき」と求めた(図表3・4)。

▲図表3 「新経済・財政再生計画改革工程表2018」における記載1
▲図表4 「新経済・財政再生計画改革工程表2018」における記載2

厚労省が部会に示した「2割負担・3割負担の水準及び被保険者の所得分布」によると、3割負担(現役並み所得)は被保険者の11.8%。また2割負担(一定以上所得)よりも上の負担者は18.7%となる(4月1日現在)。ちなみに2割負担を導入した平成26年改正では、2割負担となる「一定以上所得」について「第1号被保険者の上位2割相当」としていた。

また、受給者における2割負担者は4.9%、3割負担者は3.7%になっている(31年3月サービス分)(図表5・6)。

▲図表5 サービス受給者の推移・1号保険者の所得分布
▲図表6 平成26年改正における一定所得以上の利用者負担の見直し

一方、認知症の人と家族の会の花俣ふみ代委員は、「補足給付の支給要件の厳格化や多床室の新たな室料負担を求めることは施設サービスを利用している人達に新たな負担を求めることになると反発(図表7・8)。

▲図表7 補足給付に関する給付の在り方(論点)
▲図表8 多床室の室料負担(論点)

ケアマネジメントの利用者負担の導入や軽度者の生活援助サービス等の見直しは、「在宅サービスを利用している人達に大きな影響を及ぼす」と指摘(図表9・10)。

▲図表9 ケアマネジメントに関する給付の在り方(論点)
▲図表10 軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方(論点)

高額介護サービス費の見直しや利用者負担の一定以上所得の見直しは、「全てのサービス利用者に影響が出る」とした(図表11・12)。

▲図表11 高額介護サービス費(論点)
▲図表12 「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準(論点)

こうした見直しにより、要介護認定者やサービス利用者が「負担が増えることにどのくらい耐えられるのか」と改めて異論を唱えた。

日本医師会の江澤和彦委員は補足給付については一般財源で対応することの検討を求めた。老健施設や介護療養型医療施設、介護医療院について「医療法に位置付けられた医療提供施設」として多床室の室料負担の導入に反対した。


普通調整交付金での「重み付け」の見直しを提案

厚労省は、保険者機能について、普通調整交付金の交付で勘案される第1号被保険者に占める、要介護リスクの高い後期高齢者の加入割合の違いの調整の計算で、65~74歳、75~84歳、85歳以上の年齢階級ごとの要介護認定率の全国平均を用いる方法から、年齢階級ごとの被保険者1人当たり介護給付費を用いることで精緻化を図ることを提案した。「重み付け」の方法の見直しを示したものだ。

この見直しの実施に当たり、所要の激変緩和措置を講じるとともに、保険者機能を強化する観点も踏まえて、「見直しによる調整の範囲内で個々の保険者に一定の取組を求める」ことも示した。この「一定の取組」について厚労省は現時点で具体的に考えておらず、今後、地域の実情を勘案して検討することを説明した(図表13)。

▲図表13 調整交付金(論点)

他方、厚労省は保険者機能交付金について、高齢者の介護予防や活躍促進等について、適切な指標設定の必要性を指摘。その上でアウトカム評価の充実や交付のメリハリ付け、都道府県による市町村支援を強化する重要性、さらに財源を介護予防等に有効に活用するための枠組みを検討する重要性も示した(図表14・15)。

▲図表14 保険者機能強化推進交付金(論点)
▲図表15 保険者機能強化推進交付金の評価等

調整交付金の見直しについて日本医師会の江澤和彦委員や全国町村会の藤原忠彦委員など複数が支持した。

他方、全国市長会の大西秀人委員は意見書を提出。調整交付金の計算で給付費を用いることには、「全国815の都市自治体にどのような影響が出るのか、十分に検証を行う必要があり、その結果を踏まえて判断させていただきたい」と求めた。

保険者機能交付金のアウトカム評価の充実等については、町村会の藤原委員が「市町村の規模や地域資源の状況に十分配慮をお願いしたい」と要請。また「地域独特の評価もしっかりやっていただければと思う」と述べた。

健保連の河本委員は、交付金の評価指標について「高齢者の自立支援、重度化防止にどれだけ寄与したかというアウトカム指標をもって重点的に評価する工夫をお願いしたい」と改めて要望。さらに重度化防止等の取り組みが未実施の場合はディスインセンティブをつけなければ「なかなか底上げは図れない」とした。

一方、連合の伊藤彰久委員は、アウトカム評価の充実等について、「要介護者や重度の方が保険者にとって重荷になっていくという認識になったら、要介護者や家族にとって大変な不利益につながっていく。そういうことがないように十分に配慮していただきたい」と求めた。


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