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横断的なテーマに「感染症や災害への対応力強化」を追加─介護給付費分科会が2巡目の議論を開始(9月4日)

令和3年度介護報酬改定に向けて3月から議論を重ねてきた、社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は4日、改定の具体的な方向を固めていく2巡目の議論を開始した。

厚労省は各介護サービスに横断的に関わるテーマとして、新たに「感染症や災害への対応力強化」を加えることを提案した。さらに、このテーマと「地域包括ケアシステムの推進」に関して現状や論点を紹介して、意見を求めた。

当日の議論を「感染症や災害への対応力強化」と「地域包括ケアシステムの推進」の2つのテーマに分けて紹介する。

「感染症や災害への対応力強化」では、介護保険施設等での業務継続計画(BCP)の作成の促進とともに、その点を介護報酬で評価するよう求める意見が複数の委員から出された。


横断的なテーマは5つに

分科会は3月から8回に渡り、各サービスに横断的に関わるテーマとして①地域包括ケアシステムの推進②支援・重度化防止の推進③介護人材の確保・介護現場の革新④制度の安定性・持続可能性の確保─の4つと各サービスの論点について一通り検討するとともに、関係団体からのヒアリングを実施した。

そのうえで、4日から2巡目の議論に入った。そこで厚労省は、今般の新型コロナウイルス感染症や昨今の災害・発生の状況、これまでの分科会おける議論を踏まえて、各サービスに横断的に関わるテーマとして「感染症や災害への対応力強化」を加えることを示した。

分科会はこの5つのテーマと各サービスの論点について議論を深め、12月には改定の基本的な考え方を整理し、議論を取りまとめる予定だ。

感染症対策について訪問系サービスは基準省令に規定がない

新たな横断的なテーマである「感染症や災害への対応力強化」では、まず感染症対策についての基準省令における規定や新型コロナへの支援が報告された。

基準省令では、施設サービスでは感染症対策の委員会の開催や、感染症の予防又はまん延の防止に向けた指針の整備、研修の実施などが義務付けられている。また通所系・居住系サービスでは発生又はまん延の防止の努力義務が課せられる。一方、訪問系サービスには規定がない。

新型コロナに係るサービス事業所の人員基準等の臨時的な取り扱いでは、全般的に柔軟な対応を可能としている。

基本的な事項として、一時的に人員基準等を満たせなくなる場合、介護報酬は減額しない。また訪問介護の特定事業所加算の算定要件の定期的な会議の開催等について、電話・文書・メール・テレビ会議の活用等により対応できる。

そのうえで各サービスにおいて特例的な対応も可能だ。たとえば居宅介護支援では、新型コロナの影響によりケアプランで予定されていたサービスの利用が無くなった場合でも、必要なケアマネジメント業務を行い、請求に当たり必要な書類を整えていれば居宅介護支援費の請求を認めている。

新型コロナ対策では、令和2年度の1次・2次の補正予算では、マスク・消毒薬の備蓄など感染拡大防止等を支援していることに加え、感染対策の取り組みの動画を公開していることが報告された。

感染拡大防止のノウハウの習得に向けた支援では、他の社会福祉施設等に所属する看護師等の協力を得て、同行訪問や電話相談の支援を受けることが可能であり、費用面で各施策が活用できることも紹介された。

特措法により業務継続計画(BCP)の作成が求められる

非常災害対策の基準省令における規定等も報告された。

施設や通所系・居住系では、▽非常災害に関する具体的な計画の策定▽関係機関への通報・連携体制の整備、従業者への周知▽定期的な避難等訓練─が義務化されている。加えて小規模多機能型居宅介護と認知症グループホームでは避難訓練の実施に当たり地域住民と連携することが努力義務になっている。一方、訪問系サービスや居宅介護支援は特に規定がない。

また非常災害時で人員基準等を満たせなくなった場合でも全般的に柔軟な対応を可能としている。

基本的な事項として、事業所が被災したことで一時的に人員基準等を満たせなくなる場合、介護報酬を減額しない。避難所や避難先の家庭で暮らす要介護者等に対して居宅サービスを提供した場合でも報酬が算定できる。避難者が施設等に入所した場合、やむを得ない理由により居室以外の場所で処遇しても報酬の請求を認める。さらに各サービスに応じて臨時的な対応が可能だ。直近では7月の大雨に対応した。

災害復旧からの補助や水害対策の改修への支援、災害時情報共有システムの構築などに取り組んでいることが紹介された。

介護サービス事業者等には、新型インフルエンザ等対策特別措置法により、業務継続計画(BCP)の作成が求められている。他方、災害対策でも同様にBCPの作成が推奨されている。

厚労省は、感染症や災害が発生した場合でも介護サービスを安定的・継続的に提供していくために、介護報酬や運営基準による対応、予算事業による対応を組み合わせて、総合的に取り組みを進める必要を指摘。現行の運営基準等を踏まえた方策やBCP作成を進めるための方策について意見を求めた。

また新型コロナや災害への対応における報酬の臨時的な取り扱いについて、対応力の強化や生産性向上の観点から、ICTの活用をはじめ平時からの取り扱いとすべきものについて尋ねた。

BCPの作成の運営基準への規定を複数が主張

意見交換で、連合の伊藤彰久委員は、訪問系サービスの感染症対策に係る基準について、「居宅を巡回していくうえで感染防止を担保する必要がある」とし、そのための義務化と報酬上の評価の必要を指摘した。

全国市長会の大西秀人委員は、補正予算等によるICT化の推進など新型コロナ対応の支援策について現場での効果の検証を行った上で議論を進めることを主張した。また感染症や非常災害に備え、介護サービス事業所がBCPを作成することを努力義務とする規定を運営基準に盛り込むよう求めた。

健保連の河本滋史委員は、BCPの作成について、国の支援を前提として「運営基準で義務付けてもいいのではないか」と指摘した。感染症や災害発生時の報酬上の臨時・特例的な対応については、恒常的な対応が必要な事項と臨時的な対応が必要な事項を整理して今後の扱いの検討を進めるようあらためて要請。c

 日本医師会の江澤和彦委員も新型コロナ等の臨時・特例の取り組みについて「算定状況などの検証が必要」と指摘した。

全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、「感染症や災害に対しては日頃からの対応が問われている」とし、「リスクマネジャー」などのリスク管理者を置いて対応する必要を指摘。さらに「運営基準で求めるのであれば基本報酬のかさ上げとセットで考えるべき」と述べた。

全国老人福祉施設協議会の小泉立志委員は、施設での新型コロナの対応では、手順書等の作成を促すとともに、クラスター発生時の専門家の受け入れ体制や感染防護品の調達計画、同一法人や他施設等からの応援派遣等の体制などを整備することを提案。さらに「在宅系サービスでも一定程度の対応が必要」とした。また災害時対策のBCPの作成の必要も強調。「感染症・災害のどちらが発生しても必要な介護サービスが安定的・継続的に提供されることを念頭に(BCP等が)作成されるべき。基本報酬で評価すべき」と求めた。

日本看護協会の齋藤訓子参考人は、新型コロナの対応で、同協会で認定している感染管理認定看護師が全国で活動していることを報告。「平時から恒常的に対策が図れるよう報酬上でも評価は検討すべき」と主張した。

訪問系サービスの災害対策については「自治体や事業者団体が主導して考えていくべき」と述べた。まず自治体の災害対策で、訪問系サービスの役割や連携方法を位置づけ、その後、個別の事業所の計画策定について検討を進めるよう求めた。

慶大大学院教授の堀田總子委員も、BCPの作成では効果的な事例を集めていくこととともに、そうした中で小規模法人や施設系以外の事業所について、「一事業所だけではなく地域レベルでBCPを考えていくことが効果的」ということが出てくる可能性もあるとして、そうした点も含めて検討を進めることを提案した。

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