日本の高齢者就業率はOECD諸国の中では韓国、アイルランドに次ぐ高さ―― 令和6年版「労働経済白書」公表
厚生労働省は9月6日、「令和6年版 労働経済の分析」を公表した。今回の分析テーマは「人手不足への対応」。人手不足の背景を1970年代前半(高度経済成長期末期)、1980年代後半~1990年代前半(バブル経済期)、2010年代以降現在に至るまでの3期間に分けて分析しているほか、「誰もが活躍できる社会の実現」として、潜在労働力についても分析している。人手不足解消には、女性、高齢者、外国人など多様な人材を取り入れ、労働参加率を労働生産性とともに向上させるべきとしている。
就業希望のない無業者は約3,000万人、
「仕事をする自信がない」無業者は約70万人
2023年の我が国の労働力を概観すると、就業者は約6,740万人、就業率は約6割となっている。就業者の内訳は、雇用者が約6,070万人である。雇用者の中では、正規雇用労働者が約3,610万人と約6割、非正規雇用労働者が約2,120万人と約3割を占めている。
完全失業者は約180万人だが、求職活動をしていない非労働力人口には、「働く希望はあるが求職活動はしていない就業希望者」が約230万人含まれており、完全失業者数を上回る。男女別にみると、就業率については、男性は約7割、女性は約5割となっている。
白書では、内閣府の「令和6年度年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)-熱量あふれる新たな経済ステージへ」のデータを用いて就職希望のない無業者についても分析。2022年時点で約3,000万人近くが無業者であり、年齢に限らず総じて女性が多い。年齢別にみると、男女合わせて、60~69歳が440万人、70歳以上が2,100万人と大半を占めているが、59歳以下でも350万人ほどとなっている。就業を希望しない理由としては、「病気・けが・高齢のため」が、男女ともに60~69歳の5割弱、70歳以上の8割強と最も多い。無業者が就業を希望しない理由は、病気・けがや年齢が多いが、59歳以下の女性の約4割に当たる約100万人が、「出産・育児・介護・看護・家事のため」に無業かつ就業希望なしとなっている。
ILOが8月12日に発表した15~24歳の若年層の雇用に関する報告書Global Employment Trends for Youth 2024の中でも、「ニートの3人に2人は女性」と言及されている。また、「仕事をする自信がない」とする者が男女合わせて約70万人となっており、社会全体として、就労を阻害する要因を取り除くことが重要であると、同書では指摘している。
人手不足の原因を時代ごとに分析
白書では、過去50年の人手不足の局面を分析。人手不足の背景を1970年代前半(高度経済成長期末期)、1980年代後半~1990年代前半(バブル経済期)、2010年代以降現在に至るまでの3期間に分けて分析している。
1970年代の人手不足の原因を白書では、1973年にGDP成長率が前年比20%超に達するなど、極めて高い経済成長率が労働力需要を短期間に強力に喚起し、これが労働力需給の引き締まりにつながったとしている。
1980年代後半~1990年代前半における労働力需要の高まりの背景の一つは、製造業の影響の大きかった1970年代前半と比べて、サービス産業化が進んだ中で短期間で労働力需要が高まったことが要因と考えられると指摘。また当該期は、フルタイム労働者のうち、比較的労働時間が短い者の割合が高まっており、こうしたフルタイムの時間短縮の傾向も労働力需給の引き締まりに一定程度影響した可能性があるとした。
2010年以降の人手不足は、経済の好転、サービス産業化の一層の進展によるものとして、企業の人手不足感の高まり、有効求人倍率の1倍を大きく超えて上昇、失業率の3%を下回る水準までの低下を指摘した。企業の感じる人手不足感は高まっており、非製造業の中小企業でバブル期を超える水準となる等、特に中小企業において厳しい状況にある。
白書では、1990年と2023年の企業規模別欠員率を比較。それによると、全ての企業規模において、フルタイム・パートタイム労働者ともに1990年の水準を下回っており、フルタイム労働者では、小さい規模の企業において1990年の水準を大きく下回っている。中小企業を中心に人手不足感のある企業は多いものの、欠員率で比較すると、現在よりもバブル期の方が厳しい人手不足の状況にあったと指摘している。
潜在労働力の分析-女性、高齢者、外国人の就業状況
白書では、「誰もが活躍できる社会の実現」と称して、女性、高齢者、外国人の就業状況について言及している。
(1)女性の活躍躍進
下図は、25~54歳女性の就業率を横軸に、同年齢の女性のパート比率を縦軸にとり、OECD26か国における1995年のデータと2022年のデータを示している。1995年時点の日本の25~54歳女性の就業率もパート比率のどちらもおおむね平均程度で、日本の女性の就業率は63.2%と、当時高かったノルウェー(77.4%)、デンマーク(75.9%)、フィンランド(73.5%)等の北欧と比較して10%ポイント以上低い状況だった。
2022年には、世界的に女性活躍が進む中で、日本の女性就業率は79.8%と、ノルウェー(81.9%)、デンマーク(82.4%)、フィンランド(82.1%)等の北欧とほぼ遜色ない水準まで上昇した。一方で、パート比率については、世界的な低下と対照的に我が国は30%を超える水準にまで上昇し、OECD26か国中5番目に高い国となっている。また、同書では、日本の女性の正規雇用率は、年齢が上がるほど比率が下がると指摘している。
(2)高齢者の活躍躍進
65歳以上の高齢者の就業率について、他のOECD諸国と比較すると、日本は韓国・アイスランドに次いで高い水準にある。長期的な高齢者の就業率の推移をみると、1970年代~2000年代までは低下傾向だったが、2021年の高年齢者雇用安定法の改正による定年年齢の引き上げ等もあり、2023年には、60~64歳の就業率は70%を超え、65~69歳の就業率も50%超で、この半世紀で最高水準となった。70歳以上の就業率についても、2013年の13%から2023年には18%と、5%ポイント上昇している。
一方で、自営・家族従業者等については、どの年齢層も一貫して減少しており、近年の高齢者の就業は雇用者が占める割合が中心であるという。
(3)外国人材の活用
白書では、「国際化する我が国の労働市場」として、外国人材の流入についても言及している。それによると、外国人を雇用する事業所の数の推移をみると、2023年には30万事業所を超えており、都道府県別にみると、秋田県や岐阜県でも2倍程度、沖縄県では5倍程度まで事業所数が増加しているという。
一方で、白書では、日本と外国人材の送出国であるブラジル、中国、インドネシア、ミャンマー、ネパール、ペルー、フィリピン、ベトナムとの賃金差が縮小傾向であることを指摘。他の受入国である、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、韓国と日本の平均賃金比をみると、長期的には差が拡大傾向にあり、日本が外国人労働者に「選ばれる国」となるためには賃上げが重要な要素の一つとしている。