特定施設の医療的ケアに課題、遅れる介護DXは医療と同時の検討を――第221回介護給付費分科会(2023年8月7日)<後編>
厚生労働省は8月7日、第221回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。
本記事は第221回介護給付費分科会における議論の<後編>として、令和6年度介護報酬改定に向けた「特定施設入居者生活介護」および「高齢者施設と医療機関の連携強化・感染対応力の向上」、そして今後の検討の一環として実施される関係団体等へのヒアリングに関する議論について掲載する。
同日行われた議論のうち、【介護老人福祉施設】【介護老人保健施設】【介護医療院】に関する内容については「第221回介護給付費分科会(2023年8月7日)<前編>」を参照。
【特定施設入居者生活介護】外部サービス型の指定によるサービス確保に期待、看護の提供も焦点に
要支援1から要介護5までの利用者に占める要介護3~5の割合は約46%であり、その割合は3年前と比べ横ばい傾向。要支援から幅広く選択できる特定施設入居者生活介護は、要介護高齢者の受け皿として一定の機能・役割を果たしている。
有料老人ホームの入居定員数は約61万人、施設数は約16,000件、サービス付き高齢者向け住宅の登録戸数は約27万戸、施設数は約8,000棟。そのうち、特定施設入居者生活介護の指定を受けている有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の入居定員数は約30万人、施設数は約5,000件であり、受給者数・給付費は増加傾向にある。
医療的ケアを必要とする利用者の割合は、全体的に横ばいで推移しており、看取りについては、5割を超える事業所で行われている。
介護付き有料老人ホームにおいて看取りを受け入れられない理由では、原則的に受け入れていない施設では、「夜間は看護職員がいないから」が最も多く7割弱。希望があれば受け入れるとしている施設では「対応が難しい医療処置があるから」という理由が最も多く、8割弱となっている。
日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は、特定施設入居者生活介護として指定を受けていない高齢者向け住宅について、希望をすれば外部サービス利用型特定施設としての指定を受けられるようにしてはどうかと提案。
現在介護人材の確保が厳しい現状にあることをふまえ、「介護サービスの安定的な確保が進む可能性があるのではないかと」と期待した。
日本看護協会の田母神裕美委員は、夜間看護職員がいないことを理由に原則看取りを受け入れられない現状に着目。看護職員の配置の充実や訪問看護との連携を評価できるしくみが重要と指摘した。
一方、日本医師会の江澤和彦委員は、施設基準上の看護配置が薄いことで基本サービス費を低く抑える特定施設入居者生活介護の特徴により、訪問看護の提供はできず、看護職員の加配も難しいという認識を示した。
その上で、特に夜間等の看護職員不在時における医療的ケアをどうカバーしていくのか、検討が必要であるとの認識を示した。
【連携強化・感染対応】介護DXの一層の推進を、連携と感染対策に関し加算の提案も
(高齢者施設と医療機関の連携強化)
高齢者は急性疾患や治療に伴う安静臥床等の影響により、ADLや認知機能等は容易に低下を来すことが指摘されており、一般病棟に入院することにより、 ADL等の生活機能や要介護度が悪化することが報告されている。
令和3年度DPCデータでは、介護施設・福祉施設からの入院患者のうち、急性期一般入院基本料を算定する病棟へ入院する患者が75%。
多くの患者が入院をしている医療機関について提供しうる医療の内容と、要介護者等の高齢者が求める医療の内容に乖離がある可能性が指摘されている。
また、同時報酬改定に向けた意見交換会では、「まずは自施設の職員による対応力の向上を図った上で、自施設で対応可能な範囲を超えた場合に外部の医療機関と連携して対応にあたるべき」と指摘されるとともに、「連携する医療機関については、地域の医療機関と中身のある連携体制を構築すべき」との意見があった。
さらに、「特に医療において「生活」に配慮した質の高い医療の視点が足りておらず、生活機能の情報収集が少ないのではないか」という意見も出ている。
(感染対応力の向上)
令和3年度介護報酬改定において、施設系サービスについては、感染症の予防および蔓延防止のための委員会の開催、指針の整備、研修の実施等に加え、年2回以上の訓練(シミュレーション)の実施が経過措置3年を設けたうえで義務化された。
令和4年度診療報酬改定では、診療所について、平時からの感染防止対策の実施や、地域の医療機関などが連携して実施する感染症対策への参画をさらに推進する観点から「外来感染対策向上加算」が新設されている。
また、今般の新型コロナウイルス感染症への対応においては、コロナ患者が発生した場合に、相談対応や診療を行う医療機関の確保状況について、施設間で差がみられており、高齢者施設と医療機関のマッチングを進めてきた。
全国健康保険協会の吉森俊和委員は、 情報連携において「介護については医療に比べてデジタル化が進んでいない」と指摘。介護DXに関して医療DXと同時に検討を進めていくため、プロジェクトチーム等の設営を求めた。
また、全国町村会の米本正明委員も、中山間地域や離島など条件不利地域の問題を改善するため、ICTの推進が必要と言及。高齢者施設と医療機関間での電子カルテや情報システムの統合にあたり、経費や運用面での支援も求めた。
日本慢性期医療協会の田中志子委員も、DXを進め診療記録と介護記録を双方向で確認できるよう努める必要性を訴えた。また、高度な医療を必要とする場合は、三次救急病院などへの搬送を行うことを前提とした上で、慢性疾患の急性増悪など日常的な疾患の入院治療については、慢性期リハビリテーションが行える病院や地域包括ケア病棟を有する病院、在宅療養支援病院などと連携を優先的に行うよう求めてはどうかと提案した。
感染対策向上については、日本医師会の江澤和彦委員が診療報酬における感染対策向上加算に着目。医療機関同士の連携体制を構築する加算のしくみを振り返り、「しっかりと医療機関と連携ししかるべき感染対策を行った介護施設に対し、介護報酬で同様の評価を設ける仕組みが考えられるのではないか」と指摘した。
なお、各施設との連携に関する意見は<前編>に掲載している。
厚生労働省ではこうした意見等を踏まえ、今後の介護報酬改定に関する検討を進めていく。
【関係団体等へのヒアリング】ヒアリング対象に33団体、障害等当事者の意見を求める声も
介護報酬改定に向けた議論に続き、関係団体へのヒアリング実施要領案についての議論が行われた。
実施要領案は、令和6年度介護報酬改定に向けた検討の一環として各団体から意見をヒアリングするにあたり、趣旨やヒアリング項目、その実施方法や実施団体を記したもの。
対象となる団体は次のとおりであり、全部で33団体となっている(五十音順)。
これを受け、認知症の人と家族の会の鎌田松代委員は、同時改定となる障害福祉サービスの検討(障害福祉サービス等報酬改定検討チーム)では47団体のヒアリングが行われており、全日本ろうあ連盟や日本ALS協会、日本難病・疾病団体協議会などの当事者団体が多くリストアップされていたことを指摘。
身体障害者手帳を持つ人の7割が高齢者であり、障害のある人たちの高齢化も進んでいることから、他の障害者や難病当事者の意見を聴くことを要望した。
この意見に対し、具体的な修正等については田辺国昭分科会長に一任されることとなった。
次回第222回介護給付費分科会は、8月30日の15時を予定しており、議題は調整中となっている。