【詳解】第85回社会保障審議会介護保険部会(11月14日)
更新認定の上限期間を4年まで可能とすることを提案
厚生労働省は14日、次期介護保険制度改正に向け、要介護認定の更新認定の有効期間の上限を4年まで引き上げることなどを社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)に提案し、意見を求めた。部会では複数の委員が賛意を示した。
また、▽在宅医療・介護連携推進事業の推進▽介護医療院への移行▽認知症施策の総合的な推進▽住所地特例の見直し──などについて論点を提示した。
その他、これまでの検討内容を整理した「論点ごとの議論の状況」を示した(本記事末に掲載)。
更新認定に係る平均期間はおよそ40日
厚労省は、▽要介護認定の更新認定の2次判定で直前の要介護度と同じ要介護度と判定された者について有効期間の上限を現在の36カ月(3年)から48カ月(4年)に延長することを可能とする▽認定調査を市町村事務受託法人に委託する場合の認定調査員の要件を緩和し、介護支援専門員以外の保健・医療・福祉に関して専門的な知識を有している者も実施できるようにする▽介護認定審査会における審査の簡素化についても実態把握を引き続き実施し、その結果を踏まえて検討していく─ことを提案した(図表1・2)。
こうした提案の背景には、要介護認定までの期間の長期化がある。
要介護を受けている高齢者は、介護保険制度が施行されて以降、増加傾向にあり、2019年4月時点で659万人に上る。認定者数の増加に伴い認定件数も増加している。
27年度には要介護認定までの平均期間が39.4日になるとともに、更新申請の認定の平均期間が40日を超えるなど長期化していた。
こうしたことを踏まえ、保険者の業務簡素化の観点から介護保険部会で検討された。その結果、平成30年4月から更新認定の有効期間を24ヵ月から36ヵ月まで引き上げ、更新申請におけるコンピュータ判定結果が前回認定の要介護度と変わらないなどの要件を満たした者について、介護認定審査会における審査を簡素化する見直しを行った(図表3-5)。
しかし更新申請に係る認定の平均期間は平成30年度で39・8日となっており、更なる短縮の取り組みが求められる(図表6)。
また、認定率は年齢が上がるにつれて上昇している(図表7)。
今後、後期高齢者が増加する見通しであり、それに伴って認定申請なども増加することが見込まれている(図表8)。
認定の抜本的見直しを求める声も
意見交換で、健保連の河本滋史委員は、更新認定の有効期間の延長に賛意を示す一方、「軽度化された場合に確実に区分変更申請が行われるような工夫はぜひ必要」と注文をつけた。認定調査員の要件緩和も「妥当」としつつ「十分な質の担保が図られることが前提」とした。
その他、保険者機能強化推進交付金について、「アウトカム指標をもっと重点的に評価するよう工夫をお願いしたい」と求めた。
全国老人福祉施設協議会の桝田和平委員も更新認定の上限の引き上げには賛意を示した。市町村事務受託法人の認定調査員の要件の緩和についても支持するとともに研修体制の確保を求めた(図表9)。
全国町村会の藤原委員は、今回の見直しに止まらず、認定事務の一層の簡素化を要望した(図表10)。
一方、認知症の人と家族の会の花俣委員は、歩ける認知症の人の認定が軽く判定されるなどの問題が寄せられていることをあげ、「今の認定システムでは認知症介護の手間を的確にとらえられないという弱点がある」と問題視。要介護認定の抜本的な見直しを要望していることを改めて説明した。
加えて認定調査項目に、レビー小体型認知症などの特徴を考慮した項目が含まれていないなどの点も指摘した。
認定調査員の要件緩和については、「調査員の数の確保なのか。公平公正かつ適切な認定調査の質の担保のどちらを大事にしているのか」などと指摘し、慎重な検討を求めた。
日本医師会の江澤和彦委員は、更新認定の有効期間の上限の引き上げについては、「各市町村で検証し、関係団体を交えて検討するなど地域の実情を踏まえて地域の判断に基づいて取り組んでいくべき。その際に被保険者の不利益が生じないように区分変更申請の仕組みについてしっかりと情報提供すべき」と述べた。
在宅医療・介護連携推進事業は一部項目の選択的実施も認める
また厚労省は、在宅医療・介護連携推進事業の推進に当たり、▽事業項目全ての実施を求めるではなく、一部項目の選択的実施など地域の実情に応じた実施を可能とする観点から見直しPDCAサイクルに沿った事業実施ができるよう事業体系を明確化して示すこと▽自治体がPDCAサイクルに沿った取り組みを進める上で活用が可能な指標の検討を進めるとともに、地域包括ケア「見える化」システム等を活用できる環境の整備を進めること─などを提示した(図表11)。
他方、存続の経過措置が令和5年度末までの介護療養型医療施設等からの介護医療院への移行に関連して、次のような点について意見を求めた(図表12・13)。
▼全ての介護療養型医療施設が第8期介護保険事業計画期間中に、介護医療院等へ移行する必要があることを踏まえた、より早期の意思決定を支援するための方策や申請手続きの簡素化も含めた他の移行促進策。.
▼第8期介護保険事業(支援)計画において介護医療院のサービス量を適切に見込むための介護療養型医療施設、医療療養病床等が介護医療院へ移行する場合における利用定員又は入所定員の取り扱いを含めた方策。
▼介護保険財政への影響を懸念して医療療養病床から介護医療院への移行が進まないとの指摘があることを踏まえた対応。
認知症の「共生」を法律上に明記
厚労省は、認知症施策推進大綱(図表14)を踏まえた、認知症施策の総合的な推進に関連して、介護保険法第5条の2において「共生」の考え方を明確に規定することや、地域における支援体制の整備について規定すること、予防に関する調査研究について規定を充実させることを上げた。
介護保険事業(支援)計画の記載について、介護保険法上では計画における記載事項として、「認知症である被保険者の地域における自立した日常生活の支援に関する事項」と規定しているが、大綱を踏まえ、認知症施策を総合的に推進していくことについて記載事項に位置付けることを提案。
「共生」や「予防」の考え方や新しい施策(チームオレンジ等)などが推進されるように、国が示す基本方針の基本的事項や計画の記載事項として明確に位置付けることも示した(図表15・16)。
その他、厚労省は、地方団体からの提案などを踏まえ、介護保険施設など住所地特例の対象施設と同一の市町村にある認知症グループホームを住所地特例の対象とすることなどに関して意見を求めた(図表17)。
住所地特例の見直しで賛否
意見交換では、全国市長会の大西秀人委員は、在宅医療・介護連携推進事業(図表18)に関する厚労省の提案について、「見える化システム」の活用などの一層の環境整備や都道府県による支援などを要請した。
また医療療養病床から介護医療院の転換については、介護保険財政への過度な負担が生じないように配慮を求めた。
住所地特例の見直しについて、負担増となる自治体が生じることなどを踏まえ、「今、直ちに特例の対象とするまでもない」と異論を唱えた(図表19・20)。
全国町村会の藤原忠彦委員は、医療療養病床からの介護医療院への移行について小さな町村では保険料への影響が大きいことなどを上げ、影響への対応を求めた。
また認知症施策の推進について、計画の記載事項等について、自治体の負担軽減への配慮を求めた。
住所地特例については、地方団体の意向、財政面への影響、地方移住の促進などを汲み取って検討するよう求めた。
日医の江澤委員は、在宅医療・介護連携推進事業について、地域医師会と連携して進めることを改めて求めるとともに、地域の実情に応じた実施に賛意を表明。第8期介護保険事業計画期間の中で、「医療療養病床から介護医療院への移行に当たり、市町村の介護保険財政を鑑み必要とされる財政支援については今後検討すべき課題」と指摘した。
全国老施協の桝田委員は、住所地特例の見直しを支持した。
「論点ごとの議論の状況」が出される
その他、厚労省は、これまでの検討内容に関して整理した「論点ごとの議論の状況」を示した。この日の意見や今後の議論も踏まえてさらに修正される。
「論点ごとの議論の状況」では、「総論」では、団塊の世代が75歳以上となる2025年、さらに団塊ジュニア世代が65歳以上となる2040年までを展望し、必要な見直しを進める考えを表明。
その上で、検討を進めた、①介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)②保険者機能の強化③地域包括ケアシステムの推進④認知症施策の総合的な推進⑤持続可能な制度の構築・介護現場の革新─の5つの観点に分けて、現状・基本的な視点と議論について整理している。
最後に、「これまでの議論を踏まえた現時点での制度改正の全体のイメージ」を示している(図表21・22)。