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#40 これからの時代のインターンシップ

馬場 八与(ばば はつよ)
ドリームサポート社会保険労務士法人

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第40回のテーマは、インターンシップです。学生のうちに社会経験を積むことで学生側にも企業側にもメリットが期待できるインターンシップについて、知っておきたいことや今後の取扱いの変更点などをドリームサポート社会保険労務士法人の馬場八与さんが解説します。


インターンシップとは

インターンシップとは、「大学等での学修と社会での経験を結びつけることで、学修の深化や学習意欲の喚起、職業意識の醸成などにつながる取り組み」と定義づけられています。

学生のうちに社会経験を積むことは、様々なメリットがあります。座学で学んでいることが、現場ではどう活用されているのかを目の当たりにすることで腹落ちしたり、改めて学びの必要性を実感したりなど、今後の学生生活にとって良い影響をもたらします。
一方、企業に足を運び、そこの企業で働く社員の方とともに就業体験をすることは、「社会人として働く自分」を想起させ、自身のキャリア形成にもまた良い影響があると言えるでしょう。

インターンシップの4つのタイプ

一般社団法人日本経済団体連合会と大学関係団体等の代表者により構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の整理によると、インターンシップは4つのタイプに分類されます。

インターンシップの分類(4つのタイプ)

4つのタイプのうち、タイプ1とタイプ2は従来インターンシップと称されていたものでしたが、令和4年6月に文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(3省合意)の改正によって、インターンシップとは称さないものとなりました。
したがって、『1dayインターンシップ』などの名称で、就業体験を伴わないイベントや説明会を開催している場合は、名称を変更する必要があります。
タイプ3とタイプ4のみが、「インターンシップ」として扱われることとなりましたが、それには次の5つの基準を満たす必要があります。

a. 就業体験要件:実施期間の半分を超える日数を就業体験に充当
b. 指導要件:職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行う
c. 実施期間要件:汎用能力活用型は5日間以上、専門活用型は2週間以上
d. 実施時期要件:学部3・4年/修士1・2年の長期休暇期間中
※大学正課および博士課程は、上記に限定されない
e. 情報開示要件:インターンシップで取得した学生情報を活用する旨等を募集要項等に明示

出典:採用と大学教育の未来に関する産学協議会「産学で変えるこれからのインターンシップ」

なぜ、上記のような基準を設けているかというと、「学生がその仕事に就く能力が自らにそなわっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めること」を目的としているためです。
日本企業における雇用制度は変化してきており、定年まで雇用し続けることを前提としたメンバーシップ型雇用から、即戦力が期待できる専門人材を重視したジョブ型雇用へと切り替えを行う企業が増えてきました。
そのため、学生に対しても「自分の得意分野を活かしたキャリアデザイン」を求める傾向が高まっており、学生時代の早い段階から自身のキャリアについて考え、模索し、見極める必要があり、その検証の場となるのがインターンシップなのです。
なお、前述の基準を満たしたインターンシップには、募集要項などに「産学協議会基準準拠マーク」を記載することが可能ですので、学生へのPRに活用すると良いでしょう。

産学協議会基準準拠マーク

インターンシップを実施する企業側のメリット

このように、学生にとってインターンシップに参加するメリットは多分にありますが、企業側にとってはどうでしょうか。ここでは、実施する企業側のメリットについてお伝えします。
 
◆メリット1:学生の企業および社会への適応能力を高められる
学校を卒業し、新社会人として企業で働き始める際にはたくさんの「初めて」を経験することでしょう。これらの経験を前倒しで経験できるのがインターンシップです。
「すでに実践したことがある」というのは、社会人生活をスタートさせる時に大きな強みになります。自社のインターンシップに参加した学生が必ずしも自社に入社するとは限りませんが、視野を広げて社会全体として捉えた時、インターンシップを実施する企業が増えれば自ずと実践経験がある人材が育ち、就職後に企業や社会へ円滑に適応することが期待できるでしょう。

◆メリット2:企業理解の促進が望める
就職活動の準備として、自己分析を行ったり、業界・職種研究や企業研究などを行う学生の方は多いと思いますが、果たしてその分析や研究結果は正しいものでしょうか。自分では自覚していない「良いところ」や「得意なこと」を他者から教えてもらった経験はありませんか?
案外、自分の強みや得意分野は自分では気づけないものです。業界や職種研究にも同様のことが言え、学生が思い浮かべる業界像や職種イメージも、推測に過ぎません。企業研究もしかり。製品・サービスや広報物などからその企業の本当の社風や実態を捉えることは難しいと言えるでしょう。
そこでインターンシップの出番です。学生の様々な思い込みを払拭し、正しく企業を理解してもらうためには、実地体験が何よりも有効です。とりわけ、企業名を学生に認知されていない中小企業やスタートアップの企業はインターンシップを積極的に活用し、自社の魅力やその仕事のやりがいなどを発信していくと良いでしょう。
 
◆メリット3:採用選考時の評価材料として使用できる
前項でご紹介した4つのタイプのインターンシップのうち、タイプ3およびタイプ4のインターンシップについては、インターンシップ参加時の学生の仕事に対する能力評価を、採用選考時の評価材料として使用できるようになりました。詳しくは、次項でお伝えします。
 
このように、企業側にとってもインターンシップを実施することは有益だと言えます。ただし、3省合意の改正によってインターンシップの実施要件が厳しくなったため、これまで人事採用担当者のみで企業説明会や1day職場体験を実施していた企業においては、他部署と連携し、インターンシップに協力してもらう体制づくりが必須となります。
そのほか、インターンシップ参加中の学生自身の怪我や、学生が企業の備品等を壊してしまった場合の損害に対する補償について確認・検討をしておくこと、現場で指導にあたる社員に対してあらかじめハラスメントや労働関係法令などの基礎的知識の教育・研修を行うことなど、インターンシップを適切に実施できるように準備をしていきましょう。

インターンシップの取り扱いが変わりました

令和7年3月に卒業・修了する学生(学部生ならば令和5年度に学部3年生に進学した学生)が令和5年度に参加するインターンシップより、一定の基準を満たしたインターンシップに限り、企業が得た学生情報を広報活動や採用選考活動に使用できるようになりました。

【活用例】
・広報活動開始以降に、企業説明会の案内送付等
・採用選考活動開始以降に、採用選考プロセスの一部を免除等

ただし、インターンシップは採用選考活動そのものではないということに変わりはありません。インターンシップと称して採用活動が解禁される以前に実質的な選考を行うことは、インターンシップというキャリア形成支援の取組全体に対する信頼を失墜させるでしょう。
また、企業が得た学生情報を採用選考活動に使用できるようにはなりましたが、インターンシップへの参加が採用選考に必須ではないことも学生に知らせる必要があります。インターンシップは、あくまでも学生のキャリア形成支援であることを念頭に、学生と企業それぞれがよりよい就職活動・採用活動へと繋がるように上手に活用していきましょう。


馬場 八与(ばば はつよ)
ドリームサポート社会保険労務士法人

大学院で教育学を修了後、大手洋菓子メーカーに入社、人事部に配属され、主に新卒採用を担当する。育児休業から復職後は、中堅社員向け研修の企画や管理職昇格審査など、社員教育全般に携わる。その後、食品メーカーの品質管理職に転職。労使ともに法律や社内規定を知ることの重要性に気づき再び転職を決意、経営者と従業員の両方にかかわることができる社労士業務に興味を持ち、2018年ドリームサポート社会保険労務士法人に入社。経理・総務・人事をマルチにこなしながら、大学訪問やインターンの受け入れなど、法人を盛り立ててくれる人材の採用活動に力を注ぐ。2022年よりつなぐ課に異動し、マーケティング・広報を担当。豊富な人事経験と持ち前の行動力を生かし、研修の企画運営など活躍の幅を広げている。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。

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