介護給付費分科会が自立支援・重度化防止について議論(9月14日)
社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は9月14日、令和3年度介護報酬改定に向け、横断的なテーマの1つである「自立支援・重度化防止の推進」について意見交換を行った。
厚労省は、①介護の質の評価と科学的介護の推進②リハビリテーション・機能訓練等③口腔・栄養④重度化防止の推進等─に分けて現状と論点を紹介し、検討を求めた。
「介護の質の評価と科学的介護の推進」では、通所・訪問リハビリテーションの情報である「VISIT」と、高齢者の状態やケア内容等の情報である「CHASE」のデータベースシステムについて2021年度から一体的な運用を行うとともに、データ入力の負担軽減などを図る方針が示された。
VISITとCHASEを一体的に運用
①介護の質の評価と科学的介護の推進で、厚労省は、介護関連データベースを構成する「VISIT」と「CHASE」のデータ収集の状況と課題を説明し、意見を求めた。
リハビリテーションマネジメント加算で使用するリハ計画書等のデータをVISITに提供した際の加算Ⅳが平成30年度改定で導入されたが、算定率(事業所ベース)は通所・訪問リハそれぞれで1%台と低調だ。
令和元年度の調査研究によると、利用者の情報入力の負担が「大きい」という回答が9割近くに上る。一部の介護記録ソフトではデータ連携機能があるが、「活用していない」が8割近くに上り、その理由としては、「使用している介護ソフトがVISITのインポート機能に対応していない」が5割弱になっている。入力の負担軽減が課題であることは分科会でも幾度となく指摘されてきている。
VISITを活用している目的では、「フィードバック機能を利用するため」が3割で最も多く、「職員の振り返りの資料として活用」が5割を超える。他方、「フィードバック機能を利用していない」との回答者が求める分析機能を尋ねたところ「時系列分析の拡充」「他の施設の利用者との比較分析」などがあげられた。現在、利用者の時系列でのADLの評価などがフィードバックされている。フィードバック機能の拡充がデータ提出を促進するポイントになりそうだ。
CHASEは、ADL等の総論や口腔・嚥下、栄養、認知症などに関する30項目の情報提供を求めるものだ。今年度から運用を開始。2021年度以降、本格的に稼働することを目指している。フィードバック機能はまだ実装されていないが、今年度の調査研究による試行を経て2021年度から本格的に稼働する予定だ。
厚労省は現場のデータ入力の負担の軽減に向けて、2021年度からはVISITとCHASEへのデータ入力及びフィードバックの機能を統合する方針を示した。統合したデータベースシステムへの入力により、厚労省にデータを提出。加算の算定に必要な様式を作成することも可能にする。またVISIT及びCHASEとデータ連携が可能な介護記録ソフトも拡充していく。
こうした見直しも踏まえ、根拠に基づいた「科学的介護」を推進していく。具体的に▽計画書の作成等を要件とする加算において実施するPDCAサイクルの中で、計画書に基づきケアを実施する▽計画書の内容に関するデータをデータベースシステムに送信▽情報のフィードバックを受けることで、利用者の状態やケアの実績の変化を踏まえて計画書を改善することで、さらにケアの質の向上につなげていく─としている。
CHASE等の運用ではデータ提供そのものをまず評価するように求める意見もあるが、介護の質の向上に資する形での情報提供を評価する方向が想定される。
意見交換で、複数の委員が、VISITとCHASEの一体的運用や介護ソフトによる入力時の負担軽減などの促進に賛意を示した。
全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、介護ソフトの導入を促進するうえで、地域医療介護総合確保基金による補助率を現在の2分の1から引き上げることを求めた。
連合の伊藤彰久委員は、VISIT・CHASEの一体的運用に当たっては事業所へのフィードバックの充実を要請するとともに、介護ソフトの更新については「報酬とは別にきちんと対応していくべき」と求めた。また「介護サービスの質の評価」の重要性を強調する一方、介護報酬で評価する場合には適切な評価指標の開発を待って反映していくことを訴えた。
日本経団連の井上隆委員は、VISIT・CHASEの普及にあたり加算で評価することを支持。一方、加算全般の考え方として、ストラクチャー・プロセスを加算で評価し普及したものはアウトカム評価に移行していく必要を強調した。ADL維持等加算も普及に向けて「単位数を高めていくことは考えられる」としつつ、「他のストラクチャー・プロセスを評価する加算の整理・統合を行い、バランスをとることが重要」とした。
健保連の河本滋史委員も加算の在り方に言及。プロセス評価について調査研究などで状態改善が確認されたものは、アウトカム評価に移行していくことを提案した。また状態の改善を評価するアウトカム評価を推進する一方、「自立支援・重度化防止につながる取り組みを行っていない場合は減算するメリハリある評価にすべき」とした。
高齢者のADLの把握で「Barthel Index」の活用に賛否
②リハビリテーション・機能訓練等では、厚労省は、30年度改定で通所介護に導入されたADL維持等加算や、27年度改定に導入された社会参加支援加算などの現状と課題を報告し、意見を求めた。
ADL維持等加算の算定状況をみると、令和2年4月サービス提供分で算定は1024事業所、取得率は2.38%に止まるが、前年同月サービス提供分で算定は642事業所、取得率は1.49%であり、増加傾向にある。
一方、加算を届出していない理由では、「要介護3~5の利用者割合が算定要件(15%以上)を満たさない」が47.4%、「Barthel Indexを用いた評価の負担が大きい」が43.3%となっている。
社会参加支援加算の算定と通所リハ事業所・利用者の特性が示された。同加算を算定している事業所は、算定していない事業所と比べ、リハ専門職の常勤換算数や総利用者数が多い傾向が示された。
また同加算の算定対象となっている利用者は、そうではない利用者と比べてリハマネ加算Ⅱ以上の算定対象となっている割合が高く、利用開始から6か月後のIADLも有意に改善していた。
民間介護事業推進委員会の今井準幸委員は、ADL維持等加算について、「Barthel Index」で状態を把握することには「高齢者の在宅機能を見るという観点から通所介護のみならず在宅系介護事業では利用者の状態をみる横断的な指標になり得るのではないか」と支持。他方で要介護3~5の利用者割合などの要件緩和を要望した。
一方、全老健の東委員は、ADL維持等加算の算定率が低い要因として「Barthel Index」の入力負担が大きいことを指摘。また「介護業界で普及しているとはいえない。介護ソフトにも入っていない。VISITでも『Barthel Index』の手入力で苦労している」として使用の見直しの検討を強く求めた。
また社会参加支援加算の算定要件の1つである「社会参加の移行状況」の計算式の見直しを要請。計算式では、「評価対象期間中にサービスの提供を終了した実人数」における「社会参加に資する取組等を実施した実人数」の割合を求め、5%以上になることとしている。
東委員は、「頑張って中重度者を支援している老健施設のデイケア事業所ほど算定できなくなる」などと指摘し、計算式の見直しを主張した。
「Barthel Index」はCHASEの情報収集でも活用している。眞鍋馨老人保健課長は、「国際比較が可能で、一定程度普及していて、診断性・妥当性があるものとして『Barthel Index』を使っているのが現状」と説明した。
「Barthel Index」の使用の見直しに関して、日本慢性期医療協会の武久洋三委員は、診療報酬では認知機能の評価項目が入っているFIMを使っていることに言及。医療と介護が密接になっている現状から「評価方法は統一する方向がいいのではないか」と提案した。
リハビリテーションと個別機能訓練における情報共有も課題だ。
関連して、日本医師会の江澤和彦委員は、「リハ計画書、栄養・ケア計画書、経口移行・経口維持計画書などが密接にリンクする。一体化して総合的な自立計画書のイメージで見直すことも必要ではないか」と提案。またリハビリテーションマネジメント加算に触れ、「医師の関与の強化を推進すべき」と指摘した。
協会けんぽの安藤伸樹委員は、老健施設のリハビリテーションにおいて医師の関与が詳細な指示がなされた場合、より大きなADL向上が見られたことが示されたことから、医師の関与について、リハに関する報酬の算定要件として検討することを提案した。
リハ・機能訓練、口腔、栄養の取り組みを一体的に運用
③口腔・栄養では、厚労省は、口腔衛生管理や栄養改善の効果や、30年度改定で新設又は大きな改正があった口腔衛生及び栄養に関連する加算を中心に紹介し、施設・居宅での口腔・栄養管理を促進する方策や、リハ・機能訓練、口腔、栄養の取り組みを一体的に運用する方策について意見を求めた。
令和元年度の調査研究により、施設入所者の体重減少のリスクと口腔衛生管理の関係が示された。口腔衛生管理が必要な入所者で、口腔衛生管理が行われなかった場合、1年後に体重減少のリスクは歯科専門職による口腔衛生管理が行われた場合と比較して2.2倍になることが報告された。また同様に肺炎の発症リスクも3.9倍に上る。
他方、通所介護で低栄養の利用者がいる事業所は18.9%である一方、BMIを把握していない事業所が66.3%に上った。通所リハでは33.9%と通所介護よりも低栄養の利用者の割合は高い。BMIを把握していない事業所は52.0%であった。
通所系・居住系サービスに30年度改定で導入された「栄養スクリーニング加算」の算定は全般的に低調で、たとえば通所介護で1.1%。同加算は、介護職員等でも実施可能な栄養スクリーニングを実施し、その結果を介護支援専門員に文書で報告した場合に算定できる。
令和元年度の調査研究では、通所介護で同加算を算定しない理由としては、「利用者の栄養状態について6か月ごとに確認を行う体制の構築ができない」が32.1%、「必要な記録文書の作成が職員の負担となる」が29.9%などとなっている。算定の効果では、「利用者の栄養状態の変化や改善する方法に対して、職員がより関心をもち、気づくことを重視するケアができるようになった」が61.4%に上る。
同様に施設でも「低栄養リスク改善加算」が導入された。低栄養状態のリスクが「高」の入所者ごとに低栄養改善のための計画を作成し、栄養管理・支援を行った場合に算定できる。算定率は、老健施設は12.7%、介護医療院は10.3%だが、特養では2.1%、地域密着型特養では1.3%と低調だ。
特養・老健施設で同加算を算定しない理由では(複数回答)で多かったのは、「業務時間の不足」(特養32.5%、老健施設29.8%)、「食事観察週5回以上が困難」(特養28.6%、老健施設39.4%)、「対象者がいない」(特養26.1%、老健施設27.9%)などとなっている。
なお令和元年度の調査研究では、施設入所者のうち低栄養リスクが中・高リスクの者が45.8%と半数弱になることが示された。対象者がきちんと把握されているのかどうかは課題になりそうだ。
複数の委員がリハ・機能訓練、口腔、栄養の取り組みを一体的に運用することに賛意を表明。日本看護協会の齋藤訓子参考人は、具体的な仕組みの設計を求めた。
日本歯科医師会の小玉剛委員は、通所サービスでの口腔機能向上連携加算の算定を向上させるために、「歯科口腔スクリーニングの実施が重要」と指摘。調査研究事業で開発された「口腔スクリーニング項目」について報酬改定に向けて効果検証に期待を寄せた。
褥瘡の管理や排せつ支援を地域密着型サービスでの評価を求める
④重度化防止の推進等では、厚労省は、30年度改定で導入された「排せつ支援加算」や「褥瘡マネジメント加算の算定状況及び課題などを紹介し、意見を求めた。
「排せつ支援加算」の30年4月から令和2年3月までの算定率を見ると、老健施設では30.4%に上るのに対し、特養では7.2%にとどまる。
「褥瘡マネジメント加算」の算定施設数・取得率は増加傾向で、令和元年12月サービス提供分で、老健施設では1398施設で算定され、取得率は32.7%、特養でも1093施設で算定され、取得率は13.4%になっている。他方で30年度の調査研究によると、褥瘡の定義について、「持続する発赤」から「褥瘡」と捉えている施設が48.8%、また「真皮までの損傷」から「褥瘡」と捉えている施設が27.2%と、異なる状況が示された。
日看協の齋藤参考人は、排泄の自立などが「在宅生活を左右する」と指摘。多くの看護小規模多機能型居宅介護事業所でも重度化防止に取り組んでいることをあげ、看多機など地域密着型サービスでも、排せつ支援や褥瘡の管理などの評価を求めた。