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三宅社労士の年金セミナー|#8 雇用保険の高年齢雇用継続給付の基本と実務上の注意点

三宅明彦(みやけ あきひこ)/社会保険労務士

令和3年4月から高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの雇用確保措置が努力義務化されています。また、年金の受給開始年齢が65歳に引き上げられる中、60歳以降も働こうと思っている人は多くいます。現在の雇用保険の制度として、60歳以降の賃金が60歳前の賃金の75%未満になった場合、高年齢雇用継続給付が賃金の最大で15%分支給されますが、令和7年からは縮小されることになっています。

高年齢雇用継続給付制度と年金制度との関係が正しくわかっていないと、説明するにも苦労します。また、高年齢雇用継続給付の申請をしても、給付額以上に年金が調整されてしまうこともあります。

そこで今回は、高年齢雇用継続給付制度の基本と実務への影響について説明します。

(1)高年齢雇用継続給付の変遷

雇用保険の高年齢雇用継続給付は平成7年4月から始まった制度ですが、当時は60歳定年制にしていた企業がほとんどであり、さらに60歳以降の継続雇用または再雇用制度を実施している企業も多くはありませんでした。そして、60歳以降に雇用されたとしてもパートやアルバイトのような勤務形態になり、賃金は相当下がってしまうケースが多くありました。 そこで、60歳以降の雇用促進のため、また、60歳以降の下がった賃金を補う目的で、高年齢雇用継続給付制度が実施されました。

当初は、60歳時点の賃金(60歳になる過去6カ月間の平均給与)に対して60歳以降の賃金が85%未満になった場合に、60歳以降、賃金の最大で25%を支給する制度でした。その後、平成10年4月からは特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)との調整が行われるようになり、さらに平成15年5月からは支給額等が見直され、現在に至っています。

現在では、60歳時点の賃金(60歳になる過去6カ月間の平均給与)に対して60歳以降の賃金が75%未満になった場合に、60歳以降の賃金の最大で15%を支給する制度になっています。また、令和7年4月からは、60歳時点の賃金に対して60歳以降の賃金が75%未満になった場合に、60歳以降、賃金の最大で10%を支給する制度に見直されます。その後、65歳までの雇用が定着すれば高年齢雇用継続給付は役目を終えますので、廃止される方向です。

なお、高年齢雇用継続給付は2カ月ごとに申請をします。以前は2カ月目の賃金が支払われた月から1カ月内に申請しなければ支給されませんでしたので、申請の失念をしてしまい、支給されなかったケースが度々発生していました。しかし、現在では2年前まで遡って申請ができるようになっていますので、こういった問題はなくなっています。

(2)高年齢雇用継続給付の概要

高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点(60歳になる過去6カ月間の平均額)に比べて75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給されます。「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給して60歳以後に再就職した場合に支払われる「高年齢再就職給付金(基本手当の残日数が100日以上あること)」に分かれます。

高年齢雇用継続給付の支給額は、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は、各月の賃金の15%相当額となり、60歳時点の賃金の61%超75%未満に低下した場合は、その低下率に応じて、各月の賃金の15%相当額未満の額となります。また、各月の賃金が364,595円を超える場合は支給されません(令和4年8月からの上限額。この額は毎年8月1日に変更されます)。

「高年齢雇用継続基本給付金」の支給対象期間は、被保険者が60歳に達した月から65歳に達する月までです。なお、60歳で退職後、他の会社に再就職した場合にも対象になりますが、基本手当を受給せずに1年以内に再就職することが条件になります。ただし、60歳時点において、雇用保険に加入していた期間が5年に満たない場合は、雇用保険に加入していた期間が5年に至った月から支給対象期間となります。

また、「高年齢再就職給付金」については、60歳以後の就職した日の属する月(就職日が月の途中の場合、その翌月)から、1年(基本手当の残日数が100日以上200日未満の場合)または2年(基本手当の残日数が200日以上の場合)を経過する日の属する月までです(ただし65歳に達する月が限度です)。

なお、令和4年4月から在職老齢年金の制度が改正され、60代前半の人の年金との支給停止調整額が47万円に引き上げられました。年金が在職により支給停止されるのは相当に賃金が高い人なので、概ね高年齢雇用継続給付の対象にはならないと言えます。

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