介護報酬のサービスコードが14倍以上に増加で報酬体系の簡素化が提案される(9月30日)
社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は9月30日、令和3年度介護報酬改定に向け、横断的なテーマである「制度の安定性・持続可能性の確保」と「介護人材の確保・介護現場の革新」について議論した。
厚労省は、サービスや介護報酬の加算が増加し、サービスコードが制度発足当初と比べて14倍以上の約2万5千にまで増えるなど報酬体系が複雑になっていることを報告。簡素化する方向性を示した。
また今回の改定で介護職員処遇改善加算Ⅳ・Ⅴを廃止することや、ICTを活用する介護サービス事業所を報酬で評価することも提示した。
特養の加算がおよそ7倍に増加
「制度の安定性・持続可能性の確保」に関係して、厚労省は介護報酬の加算やサービスコード数が大幅に増加している状況を紹介し、報酬体系の簡素化について意見を聞いた。
たとえば特養では制度がスタートした平成12年では8種類の加算しかなかったが、現在では55種類とおよそ7倍になっている。またサービスコードも計1745から2万4905と14倍以上になっている。
他方、各種加算の算定状況として2カ年の平均算定率が80%以上の加算が16種類(延べ49種類)あることや過去1年間に算定実績がない加算が34種類(延べ114種類)あることが示された。
意見交換で、平均算定率80%以上の加算について、健保連の河本滋史委員など複数の委員が基本報酬に含めるよう要請。一方、連合の伊藤彰久委員は、算定率が高いことだけによる機械的な対応ではなく、加算の対象などを丁寧にみて進めることを求めた。
また算定実績がない加算等について複数の委員が廃止の方向を支持。一方、日本慢性期医療協会の武久洋三委員は、算定率1%未満の加算について「できるだけいい行為に対する加算は取りやすくすべき」と述べ、要件を緩和して算定率が10%程度まできたら元に戻すことを考えるように提案した。全国老人保健施設協会の東憲太郎委員も「サービス事業所数が少なくて算定率が低い加算について配慮が必要」と指摘した。
人員配置基準で育児・介護の休業等での特例の導入を
厚労省は、「介護人材の確保・介護現場の革新」について①人員配置基準等の取り扱い②介護職員の処遇改善③サービス提供体制強化加算等④ハラスメント対策⑤介護現場の革新⑥文書負担に係る負担軽減─の6項目に分けて現状や課題、論点を提示し、意見を求めた。
まず①人員配置基準等の取り扱いについて、厚労省は、論点として育児や介護と仕事の両立を進める観点や、柔軟な人材配置を可能とする観点からの方策やローカルルールへの対応を示した。
厚労省は、介護報酬の人員配置基準における育児・介護休業法等の取り扱いを説明。常勤配置について、育児・介護休業法による育児の短時間勤務制度の特例が設けられているが、診療報酬と異なり、介護の短時間勤務及び、産前・産後休業や育児・介護休業に関する特例が設けられていない。
具体的に、診療報酬では、育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用し勤務する場合、週30時間以上で常勤扱いになるとともに、常勤換算上も「1」と扱うことが可能だ。
一方、介護報酬では介護の特例は無く、当該事業所において常勤の従事者が勤務すべき時間数(週32時間を下回る場合は32時間)の勤務が必要になる。
また診療報酬では常勤の者が産前・産後休業や育児休業、介護休業を取得する場合、同等の資質を有する複数の非常勤職員について常勤換算することで施設基準を満たすことが可能だ。一方、介護の場合は特例が無く、常勤者が休業する場合、別の常勤者の確保が必要になる。
特養と老健施設の人員配置基準の違いなどが示された。
特養本体・サテライト型特養の介護職員は、ユニット型施設と併設従来型施設の両方に従事することは不可とされるが、老健施設・サテライト型老健の介護・看護職員は両方に従事することが可能だ。
サテライト型特養では、生活相談員が常勤換算で1以上の配置が求められる。一方、老健施設では、本体の支援相談員により適切にサービス提供が行われる場合はサテライト型には配置しなくても可能だ。
他方、通所介護と、総合事業における通所系サービスや保険外活動を一体的に実施する場合の人員配置についてバラつきがあることも紹介された。
人員配置基準における、いわゆるローカルルールについて見直しを求める指摘があることが示された。基準省令等では各サービスの管理者について管理上支障がない場合は同一事業所のほかの職務との兼務や、同一敷地内にある他の事業所のとの兼務が認められている。一方で管理者の兼務を制限している事例などが報告されている。
特養の介護支援専門員について入所者の処遇に支障がない場合は、他の職務に従事することも可能としているが、生活相談員(常勤要件)との兼務が認められない事例があることから見直しが求められている。
意見交換で、複数の委員が、育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度や、休業に関して、診療報酬と同様に特例を導入するように要請した。全国市長会の大西秀人委員は、ローカルルールについて「地域の実情や背景を調査したうえで適切に対応していただきたい」と求めた。
介護職員処遇改善加算Ⅳ・Ⅴの廃止を複数が支持
②介護職員の処遇改善で、厚労省は、介護職員の離職防止や職場環境等要件に基づく取り組みを実効性あるものとする方策や、廃止の方針が決まっている介護職員処遇改善加算Ⅳ・Ⅴの扱いについて意見を求めた。
介護職員処遇改善加算Ⅳ・Ⅴは平成30年度介護報酬改定で廃止の方向性が決まっていたが、廃止時期は未定である。厚労省はこの間、加算Ⅳ・Ⅴを算定している事業所に対するⅠ~Ⅲの上位区分の算定に向けた支援を行ってきた。
全体の算定率は平成30年3月の90.7%から令和2年3月には92.3%に上昇。一方で加算Ⅳの算定率は0.8%から0.3%に、加算Ⅴは0.8%から0.4%にそれぞれ低下した。厚労省は「上位区分の取得が進んでいる」と説明した。
他方、介護職員等特定処遇改善加算の3月サービス提供分までの請求状況を紹介。算定率は上昇傾向であり、6割近くの事業所で算定している。
意見交換で、複数の委員が加算Ⅳ・Ⅴの廃止を支持。関連して民間介護事業推進委員会の今井準幸委員は、処遇改善加算の算定率が9割を超えていることも踏まえ、「基本報酬に含める」ことの検討を求めた。他方、処遇改善加算を全ての職種を対象にするとともに引き上げることや、加算による処遇改善ではなく、「基本報酬のアップ」を求める意見も出された。
また連保連の河本委員は、「職場環境の改善がとても重要」と強調。介護職員の定着を図る上で特定処遇改善加算の算定における職場環境等要件の各区分の取り組みについて2つ以上求めるようにするなどの見直しを提案した。
介護職員等の勤続年数は19年度の3.1年から30年度には6.7年に
③では、平成21年度改定で導入され、拡充・見直されてきた「サービス提供体制強化加算」の状況を紹介し、加算の在り方について意見を聞いた。
サービス提供体制強化加算の算定要件は、サービスにより異なるが、介護福祉士等の割合や常勤職員の割合、勤続年数などにより評価している。
介護福祉士の割合はすべてのサービスで上昇している一方、介護職員の常勤職員の割合は訪問介護を除き、概ね横ばいになっている。介護職員等の勤続年数も平成19年度の3.1年から30年度は6.7年と2倍以上に伸びている状況だ。
こうした状況の変化に合わせて、介護福祉士等についてより多い割合の新な段階を設定してより高い評価を導入することが考えられる。ただし介護職員等特定処遇改善加算の上位区分である(Ⅰ)を算定する要件としてサービス提供体制強化加算の最上位の区分を算定していること等が前提になっているため見直しでは留意が必要になる。
また訪問系サービス等のサービス提供体制強化加算と介護職員処遇改善加算の算定要件では、研修の実施・機会の確保で重複する部分があることを示した。一方の加算を取得している場合はもう一方の加算における同様の要件を満たしていることとするなど、簡素化を図ることが考えられる。
日本看護協会の齋藤訓子参考人は、サービス提供強化加算と処遇改善加算の要件の重複について整理するよう求めた。
ハラスメント対策の運営基準での規定を要望
④ハラスメント対策では、現在の取り組みを紹介し、介護報酬や人員、運営基準での方策について聞いた。
平成30年度及び令和元年度の調査研究を踏まえて、介護現場におけるハラスメント対策マニュアルや、研修の手引きがそれぞれ作成されたことを紹介。そうしたことを踏まえ、令和2年度には地域医療介護総合確保基金を活用する「介護事業所におけるハラスメント対策推進事業」が実施されており、対策を講じるための費用を支援していることが報告された。
またハラスメント対策に関する事業主の責務も強化されてきている。サービス利用者等からのセクシャルハラスメントは「雇用管理上の措置」が義務付けられている。パワーハラスメントでも、行うことが望ましい取り組みを、パワハラ防止の指針に明記している。
全国老人福祉施設協議会の小泉立志委員は、利用者からのハラスメントで「特に酷いケースではサービス提供を拒否できる余地があってもいいのではないか」と指摘した。
日看協の齋藤参考人は、「ハラスメントは大きな課題。訪問系サービスは一人で伺い密室でケアを提供しており深刻な被害も報告が届いている。職員の安全を守る取り組みについて運営基準に入れていくことが大事ではないか」と提起した。
ICTの活用に取り組む事業所の評価を明示
⑤介護現場の革新では、平成30年度以降の取り組みやエビデンスを踏まえ、30年度改定で見直した特養等の夜勤職員配置加算の活用の推進に向け、見守りセンターとインカムなどのICT機器との併用などによる効果実証の結果を踏まえながら、他のサービスへの評価の拡大に関して意見を聞いた。
またテクノロジーの活用によりサービスの質の向上や職員の職場定着に取り組む事業所への報酬上の評価や、サービス担当者会議などの各種会議や多職種による連携等におけるICTの活用も提起した。
30年度改定では夜勤職員配置加算を見直し、一定の要件を満たした上で、見守り機器の導入により効果的に介護が提供できる場合に、通常、「1名分の人員を多く配置」することが必要なところを、「0.9人分の人員を多く配置」すると緩和することを可能とした。
令和元年度の「介護ロボットの効果実証に関する調査研究事業」によるタイムスタディでは、見守り機器を導入したフロアでの直接介護や巡回・移動に関する時間数が短縮する効果が確認された。
さらに介護現場におけるテクノロジーの活用の先進事例が紹介された。
各種会議等でのICTの活用では、たとえば30年度改定では通所・訪問リハビリテーションのリハビリテーションマネジメント加算の要件であるリハビリテーション会議の開催で、医師の参加でテレビ電話等を活用することも可能とされた。また訪問介護の生活機能向上連携加算では医師やリハ専門職がICTを活用して利用者の状態を把握し助言を行う場合の加算(Ⅰ)が新設された。
また令和2年度診療報酬改定を踏まえ、居宅介護支援の退院・退所加算について、利用者・家族の同意を得た上で、ICTを活用して病院等の職員と面談した場合も算定を可能としている。
介護ロボット・ICTの活用の促進には総じて賛同する意見が出された。
連合の伊藤委員は、介護ロボットやICTの活用について「職員の負担軽減のために導入を促進すべき。人員配置基準の引き下げには反対」と明言。またテレビ電話等でのやり取りは、「利用者との関係では対面よりも情報量が圧倒的に少なくなる」との指摘があることを紹介し、慎重な姿勢を示した。
高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は、人員の削減ではなく、ICT等の活用により省力化を図るとともに、質の高いケアの提供等で専門職が能力を発揮できるようにする観点から導入するように訴えた。
また全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、三重県における介護現場の革新の取り組みで、介護助手の導入による介護職員の負担の低下や、インカムの導入による見守り支援の充実などのエビデンスが得られたとし、報酬上の評価の検討を求めた。
定めがない場合は押印は不要
⑥文書に係る負担軽減では、政府の決定や、社会保障審議会介護保険部会の「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門員会」の議論や意見等も踏まえて、▽重要事項説明等の記載や同意▽各種加算に関する計画等の簡素化▽各種記録の整備や保管・提示─に関して意見を求めた。
政府全体の方針をみると、7月17日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では「書面・押印・対面が求められている全ての行政手続等について、2020年中に必要な見直しを行う」としている。同日閣議決定された規制改革実施計画でも「介護事業者の行政対応・間接業務に係る負担軽減」が盛り込まれた。
6月19日付で内閣府・法務省・経産省が示した「押印に関する考え方Q&A」では、私法上の契約について特段の定めがない場合は書面の作成や押印は必要な要件とされていないとされている。
専門委員会では、重要事項説明等の利用者等の同意取得では「サインのみでもよいのではないか」などの指摘が出ている。運営基準上では重要事項の説明では文書を交付したうえで説明し、サービス提供開始の同意を得ることを求めている。また解釈通知では書面で確認することが望ましいとしているが、押印や住所の記載までは求めていない。
またケアプランの説明・同意でも「同意をオンライン・ペーパーレス化できないか」などの指摘がある。省令上は、「文書による同意が必要」としている。
各サービスに係るサービス計画書等の同意の取り扱いは、手段の定めがない場合と、様式例に署名欄がある場合、文書による同意が必要な場合があることが示された。
専門委員会では、個別機能訓練加算など定期的な計画・評価が求められる加算について、同意確認(署名)の取得に関する効率化や、計画の変更・評価期間の見直し(3か月ごとから6か月ごと等)、計画書作成の効率化(施設サービス計画書への盛り込み等)を求める意見がだされている。
また介護給付費請求書などの各種記録の整備・保管について、電磁的記録による保存が可能な文書や、サービス提供等の記録の保存期間の定義の明確化が指摘されている。
文書に係る負担軽減で、民間事業推進委員会の今井委員は、電子化による文書の保管を進めるよう求めた。