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ユニット型施設の普及促進で基準緩和を検討(8月27日)

社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は8月27日、令和3年度介護報酬改定に向けて、①介護医療院②介護療養型医療施設③介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)④介護老人保健施設─の4つについて検討した。

27日の議論を3回に分けて紹介しているが、今回は介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)について取り上げる。

特養の議論では、非公開で実施されていた「個室ユニット型施設の推進に関する検討会」の取りまとめが報告され、ユニット型施設の普及促進が論点として示された。現在10人程度とされている、1ユニットの人数を15人程度以内に緩和することなどが挙げられており、分科会では賛否両論が出された。他方で、人員配置基準の見直しや基本報酬の引き上げを求める意見も出された。

個室ユニット型施設の推進で検討会を開催

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は年々、施設数が増加しており、令和元年10月審査分で1万502施設。費用額は、地域密着型特養も合わせて2兆円を超えている。サービス受給者数は62万人だ。
厚労省は、◇看取りの促進や医療との連携強化◇ユニット型施設の普及促進◇介護ロボット・ICTの活用や基準の緩和◇感染症や災害等のリスクへの対応─について意見を聞いた。

◎看取りの促進や医療との連携強化
特養では27年4月から新規入所者を原則として要介護3以上としており、平均要介護度が上昇傾向にあるなど重度化が進んでいる。医療処置が必要な入所者は「胃ろう・腸ろうの管理」4.8%、「たんの吸引」4.7%、「カテーテル管理」3.7%、「褥瘡の処置」2.6%などとなっている。また退所者の67.5%が死亡退所だ。こうした状況から医療との連携や看取りの実践が大きな課題である。

◎ユニット型施設の普及促進
施設整備では、2025年度には合計の入所定員のうちユニット型施設の入所定員の割合を50%以上に、特養では70%以上とすることが目標とされている。特養の個室ユニット化率は年々上昇しているが、2017年で43.6%になっている。

こうした状況を踏まえ、厚労省は、非公開で「個室ユニット型施設の推進に関する検討会」(大森彌座長)を開催しユニット型施設に求める施設・設備の水準やケアについて議論を深め、今般、報告書を取りまとめた。
報告書では、ユニット型施設のユニットの利用者数について現状の10人程度から15人程度以内に拡大することや、現在ユニット型として扱われているユニット型個室的多床室の新設を禁止し既存施設についてユニット型個室への改修を進める方向を示した。

また、ユニットの職員の運用について昼間の時間帯でも2ユニット単位で可能とすることを認める意見と、1人の職員にとって接する利用者が2倍になり負荷が大きくなることから2ユニット単位での運用は困難とする意見の両論が出されたことも紹介している。

加えて、ユニットリーダーについて常勤が必須にされているが、原則的には常勤を維持しつつ、出産・育児などやむを得ない場合については、必ずしも常勤を求めないこととすることも提案している。

ユニット型施設では、馴染みの関係をつくり個別ケアを進めていくことが重視されており、人員配置は手厚くなる。平成30年度で看護・介護職員1人当たりの利用者数は平均1.7人になっている(基準上は職員1人当たりで利用者3人に対応)。人材確保が難しい中で、ユニット型施設をどのように進めていくかが課題だ。





◎介護ロボット・ICTの活用や基準の緩和
30年度改定では特養等では、介護ロボットの活用の推進の観点から、夜勤職員配置加算において、見守り機器等を導入する場合に加配する人員(1名分)を、0.1名分軽減して0.9名分で可能とする対応を図った。

ただ、見守り機器の導入による夜勤職員配置加算の届け出は、7.1%に止まる。同加算のアンケート調査では、「夜勤専門職員の手当てと当該加算による増収が差し引きゼロであれば、職員1人あたりの負担が軽減されるため、当該加算を取得してもよいと考えている。要件が0.9人ではなく、0.6人程度であれば差し引きゼロになる計算である」といった意見も寄せられた。

他方、6月に公表された政府の全世代型社会保障検討会議の第2次中間報告では、「テクノロジーの導入の効果をデータとして把握・分析し、エビデンスに基づき、不断に介護報酬や人員配置基準について見直しを図る」としている。

◎リスクへの対応
30年度介護報酬改定の審議報告では、介護保険施設におけるリスク及び対応の実態把握と、それを踏まえた運営基準や報酬上での対応に関して検討することが盛り込まれた。 特養における安全管理体制についてみると、施設から市区町村への報告対象の範囲は、「定められている」と回答した施設が92.4%。事故の種別としては、「転倒」が91.2%と最も多い。



また、非常災害対策や感染症対策について運営基準に規定されているが、近年では台風などの災害や、新型コロナウイルス感染症など感染症の拡大などの被害が生じており、さらなる対応が課題である。 こうしたリスク対応に関しては介護老人保健施設の論点としても示されており、介護保険施設全般にかかわるものだ。

ユニット型施設の人員配置や基本報酬増を指摘

意見交換で、日本医師会の江澤和彦委員は、「ユニットケアは3施設において50%以上という目標があり横断的事項と認識している」とし、介護保険施設で推進すべきとの認識を示した。他方、2ユニット単位の運用について「ユニットケアは個別性の高いケアである。利用者と馴染みの関係性をつくることが生命線。2ユニット単位で運用を認めると、ユニットケアではなくなる」と述べた。
看取り介護加算及び老健施設のターミナルケア加算の算定要件、介護医療院や介護療養型医療施設の施設基準において、本人の意思決定支援について明記するように要望。ACPなどを用いて「本人の意思を最大限尊重するケア」を重視するよう求めた。

認知症の人と家族の会の鎌田松代委員は、特養の利用者を原則として要介護3以上とすることの撤廃を改めて主張。ユニットの利用者数を増やすことや、職員が2ユニットまで対応を可能とすることには職員の負担が増えて離職が増えるのではないかと懸念を示した。またユニット型個室を増やしていく中で、利用者の負担能力を勘案することを要請した。

高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は、ユニット型施設の1ユニットの利用者を15人程度まで拡大することや、2ユニット単位での運用を昼間の時間帯でも認めることに懸念を示す一方、ユニットリーダーの常勤の要件は緩和することを容認した。

一方、健保連の河本滋史委員は、「ユニット型の普及のためには、検討会報告書を踏まえ、ケアの質を落とさないことを前提に、基準の見直し・緩和を検討すべき」と主張。また「介護ロボット・ICTの活用について業務負担の軽減や効率化進めていくうえで必要。サービスの質の確保に留意が必要だが、人員の基準とか定員の緩和を検討していくべき」と述べた。

日本経団連の井上隆委員も同様に、ユニット型施設の普及では、介護ロボット・ICT化の促進とともに、検討会報告書を踏まえ、「ケアに影響を与えない範囲内で、(人員基準等の)緩和の余地がある」と指摘した。

連合の伊藤彰久委員は、ユニット型施設の普及を支持。一方、1ユニットの定員を増員することについては、現状の人員配置のままでは職員の負担増になるので、「人員配置そのものを検討していく必要がある」とし、基準の引き上げの検討を要請。また2ユニットを昼間でもみることができるようにすることは、職員が対応する利用者が増えることから、「研修を確実に受けることができるようしなくては、質が担保できない」と述べた。
介護ロボット・ICTの促進では、人員配置基準を緩和する観点ではなく、人材を確保していく観点から議論を進めるように提案した。

全国老人福祉施設協議会の小泉立志委員は、ユニット型施設の推進において人材確保や労働環境等の改善の必要性を強調し、「ユニット型の基本単価の改善が必要」と訴えた。

また、小泉委員は、看取りについては、「本人の意思を尊重したACPが作成され、チームケアにより実行されるべき」と指摘。独居高齢者のこれまでの生活歴の把握などで、社会福祉士等の関与が有効として、関与を明確化するとともに評価の充実を検討するように求めた。
感染症予防については、適切な対策を講じている施設やBCP(事業継続計画)を策定している施設を基本報酬で評価することを提案した。

日本看護協会の岡島さおり委員は、特養で看取りができない理由として、夜間の看護職員配置がなされていない理由が挙げられていることに触れ、看護体制の強化の必要を指摘。夜間の看護職員の加配への評価を要請した。
感染症の対応について、感染症対策で専門性の高い看護師が、施設・事業所の要請を受けて現地に赴き対策を指導している事例があることを紹介。「長期化しているコロナ禍において恒常的な仕組みとして強化が図られるよう介護報酬上の対応の検討をお願いしたい」と求めた。

日本歯科医師会の小玉剛委員は、感染症対策について、口腔ケアの重要性を強調。災害・感染症の対策として、平時からの準備の重要性を指摘。「BCPの策定と定期的な見直し、研修や訓練について利用者・家族とともに実施し、施設や地域での対応力を向上していくことが重要」とした。

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