数理の目レトロスペクティブ|#7 制度改正と支給開始年齢
人口の長寿化が進むと、老齢年金を何歳から支給するかについて見直すことが課題となる。長寿化そのものは慶ぶべきことである。しかしながら、終身年金を支給する公的年金制度にとっては、給付設計を見直さなければ長寿化は負担増の要因であり、財政的な持続可能性の問題に遭遇することとなる。
この場合、寿命が伸びた期間すべてを年金生活とするのは健全な社会の考え方ではないのであろう。とすれば、公的年金の支給開始年齢を引き上げることは自然な発想と言える。多くの国で長寿化が進行しているが、実際ここに来て、老齢年金の支給開始年齢を引き上げる動きが出てきた。ドイツは67歳に、イギリスは68歳に引き上げた。スウェーデンの概念上の拠出建て制度も、見方によっては支給開始年齢の引き上げの機能を内包していると解釈できる。何故なら、年金額には各コーホート(年齢集団)の65歳時点までの平均余命の伸びが反映され、平均余命が伸びれば65歳時点で計算する年金額が小さくなるが、時間の経過とともに平均余命が長くなり、その分年金額が十分でないと判断する人が増えてくると、多くの人が66歳や67歳で年金の受給を開始することになるからである。すなわち繰下げ増額支給により年金額の十分性を保つ行動が生じる。
しかしながら支給開始年齢の引き上げは、影響する範囲が大きく、その都度定年制をはじめ雇用政策の見直しが行われ、また、それに伴って給与体系や人事体系の見直しが行われた。老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられたのは平成12年の年金改正であるが、これに関連して高年齢者雇用安定法が改正され、各企業は平成25年度までに65歳に雇用を延長することが義務付けられた。
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