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#7 アゼルバイジャンの文化 ラマダンと結婚式

香取 照幸(かとり てるゆき)/上智大学総合人間科学部教授、一般社団法人未来研究所臥龍代表理事

※この記事は、2017年5月31日に「Web年金時代」に掲載されたものです。

8月は夏休みなので、ちょっと軽い話題をお届けします。アゼルバイジャンのラマダンと結婚式のお話です。いつもの通り本稿は外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見です。

アゼルバイジャンはイスラム国家で最も「世俗化」された国

アゼルバイジャンはイスラム教の国です。南コーカサス3ヵ国(アゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア)のうちでイスラム教の国はアゼルバイジャンだけです。

イスラム教の国というと、日本の読者はアラブ人の民族衣装であるトーブ(白の長い衣装)とか女性のスカーフ、チャドルなんかをイメージするかもしれません。4人まで奥さんを持っていいとか、一日5回お祈りをする、定時に街中にコーランが流れる、お酒はダメ、豚肉もダメ、断食の習慣がある、等々、間違ってはいませんがちょっと偏ったというか、部分的な情報だけでイメージを作り上げているのではないかと思います。

私も別にイスラム社会の事情に詳しいわけではないので、本当のイスラム社会の姿を正確に解説できるほどの知識はありませんが、ここアゼルバイジャンは、おそらくイスラム国家の中では最も「世俗化」されている国の一つではないかと思います。

今年のラマダン(断食月)は、5月25日から6月26日まででした。ご承知のようにラマダン期間中イスラム信者は太陽が出ている間一切の飲食(タバコもです)をしません。飲食ができるのは日没後です。

アゼルバイジャンでラマダンを実行している人の割合は公称3割だそうです。大使館でもラマダンを実行している職員の割合は3割くらいですからあながち嘘ではないと思いますが、ラマダン期間中も街中のレストランは普通に昼間から開いていますし、各国大使館のレセプションや国際会議も行われます。

そもそもそこら中に酒屋がある国(ロシアの影響かみんなウオッカが大好きです)ですから日頃から酒も普通に買えますし、昼間の人通りが目に見えて減るという感じもありません。少なくとも私の目からはこの国がラマダン期間中だと感じさせるような変化はありませんでした。

こういうことは他のイスラム国(特にアラブ諸国)ではまずありえないんだそうです。

宗教に否定的な社会主義体制下にあったからだ、という意見もあるようですが、市民生活や習俗の中でのイスラムの影響はそれなりにあって、高齢の女性はスカーフをしている人が結構いますし、ラマダン明けの「イフタール」という宗教儀式も各宗教指導者と大統領が出席して荘厳かつ盛大に行われます。

今年のイフタールの様子。正面奥の席に大統領とイスラム教宗教指導者が座り、その脇にこの国にある各宗派(ユダヤ教・グルジア正教・ロシア正教などなど)の指導者の席があります。右手前は各国外交団席で、日本大使(小生)の姿もあります)

私の印象では、元々歴史的に多くの文化・文明・宗教を受容してきたことに加えて、近代西欧文化の洗礼をかなり早い段階から受けていたこと、つまり「多様性・多文化の受容と容認=社会における寛容の形成」ということが大きいのではないかという気がします。

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