【詳解】第84回社会保障審議会介護保険部会(10月28日)
高齢者の住まいや制度の持続可能性の確保について議論を深める
社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)は10月28日、▽介護サービス基盤の整備と高齢者の住まい▽介護保険制度の持続可能性の確保─などについて議論を深めた。
高齢者の住まいに関しては、住宅型有料老人ホームの扱いで「一元的な情報公表システム」の導入を求める意見が出された。厚生労働省も検討を進める方向だ。 また制度の持続可能性の確保では、軽度者への生活援助サービスやその他の給付の見直しに慎重な意見が相次いだ。
有料老人ホームへの市町村の現状把握や関与の強化を求める
厚労省は、①有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など高齢者の住まいに関して市町村による現状把握と関与を強化すること②利用者が高齢者の住まいを適切に選択する上で正しい情報を入手するための方策③利用者の安心・安全を守る上での高齢者向け住まいにおける取り組み─を論点として示し、意見を求めた(図表1)。
このうち①市町村の現状把握と関与の強化では、都道府県に届けられた住宅型の情報を市町村に通知することや、住宅型やサ高住の利用者の在宅サービスの利用状況の確認を市町村に促すこと、在宅サービスを指定する際に都道府県知事に市町村長が意見を申し出ることを促すことなどを具体例として示した。
③の利用者の安心・安全の確保の具体例として地域支援事業で行われている介護相談員を上げた(図表2)。
高齢者の住まいについて、有料老人ホームは都道府県に登録を行い、サービス付き高齢者向け住宅も都道府県に登録を行い、それぞれ都道府県から指導監督等を受けている(図表3)。
サ高住は都道府県に登録があった場合、市町村に通知される一方、有料老人ホームについて届出された情報を通知する規定は法令上にない。ただし特定施設の指定を受けている介護付有料老人ホームについては市町村も介護保険事業計画との関係上、把握している(図表4)。
一方、特定施設の指定を受けていない有料老人ホーム(住宅型有料老人ホーム)やサ高住はその入居者が介護サービスを利用する場合、地域の在宅サービスを利用することになる(図表5)。
厚労省は、「保険者である市町村もその利用者の状態を把握した上で、これら高齢者住まいにおける適切なサービス提供を担保する必要がある」とした。
介護付有料老人ホームは一定の基準を満たし、都道府県等から介護保険の特定施設入居者生活介護の指定を受けている。
一方、住宅型有料老人ホームは都道府県への届出で設置が可能であるとともに、人員基準や設備基準について法令上の規定が無い(図表6・7)。
介護施設や事業所は「介護サービス情報公表制度」の対象であり、介護付有料老人ホームも含まれる(図表8)。またサ高住は全国で一元的な情報提供システムがある(図表9)。
一方、住宅型有料老人ホームは都道府県等が独自の方法で公表している状況だ(平成30年度施行の改正老人福祉法で、有料老人ホームの情報公表制度が創設されており、都道府県等が公表している)。
意見交換では、全国市長会の大西秀人委員などが「住宅型有料老人ホームでも一元的な情報公表システムを構築してほしい」と要請。また介護相談員の活用は、「事業者が受け入れ拒めば実施が困難」として、地域密着型サービスで導入している法令等による第3者評価の義務付けや、民生委員など地域住民の関与により、サービスの質を確保することを提案した。
全国知事会の黒岩祐治委員の代理の柏崎克夫参考人は、サ高住では登録の際は市町村の関与を義務付ける規定がないことも指摘するとともに、神奈川県では指導要綱を設けて有料老人ホームの設置に当たり市町村との事前協議を義務付けていることを説明。サ高住や有料老人ホームの設置にあたり市町村が事前に把握できることを「法的に担保すべき」と訴えた。住宅型有料老人ホームの適切な選択にあたり、「国が一元的に情報を公開していくことが望ましい」と述べた。
厚生労働省は、有料老人ホームの一元的な情報公表制度に類するものを構築する方向で検討を進める考え。
軽度者への給付の見直しは慎重な意見相次ぐ
制度の持続可能性の確保では、8月に給付と負担について議論した折と同様に、▽軽度者への生活援助サービスやその他の給付の見直し(図表10)▽高額介護サービス費▽被保険者・受給者の範囲▽ケアマネジメントの給付のあり方▽利用者負担の「現役並み所得」(2割負担)、「一定以上所得」(3割負担)の判断基準▽補足給付▽老健施設などにおける多床室の室料負担の導入─などについて意見を求めた。
このうち、軽度者への生活援助やその他の給付の見直しでは、地域支援事業への移行も含めて議論が求められているが、慎重な意見が相次いだ。
協会けんぽの安藤伸樹委員は、平成26年改正で要支援1・2の訪問介護や通所介護が総合事業に移行されたが、「意図した住民ボランティアやNPO等を活用した効果的・効率的な事業の実施が十分にできているとはいえない。地域ごとのバラつきも大きい。将来的には要介護1・2の訪問介護・通所介護の移行の検討も必要だが、このような状況では無理に移行しても市町村における効果的・効率的な取り組みを期待するのは難しい」と述べ、現行の総合事業の取り組みを促進する方策を関係者で検討するように訴えた(図表11-14)。
「住民型サービスの展開が不十分」「効果の検証と多様なサービスの提供体制の構築をすべき」など複数の委員が同様の意見を述べた。
市長会の大西委員は、地域支援事業の総合事業のサービス実施でも「担い手の確保が課題になっている」と指摘。担い手不足の解消の見込みがない現状から、新たに軽度者の生活援助やその他のサービスが地域支援事業に移行することに異論を唱えた。
高額介護サービス費の負担上限額は医療保険に揃えることを複数が支持
高額介護サービス費について、厚労省は、▽医療保険の自己負担額の上限設定を踏まえた上での見直し▽一般区分の一部を対象とした年間上限の時限措置─に関して意見を求めた(図表15)。
高額療養費では、70歳以上は2018年8月から現役並み所得区分が細分化。多数回該当の上限額は、年収約383万~約770万円で4万4400円、年収約770万~約1160万円で9万3千円、年収約1160万円以上が14万100円とされている(図表16)。
また29年の介護保険法改正で一般区分の負担上限額について3万7200円から、医療保険の一般区分の多数該当と同じ水準である4万4400円とした。
その上で長期利用者に配慮して1割負担の利用者のみの世帯では、年間の負担額が従前の最大負担額を超えることがないように44万6400円(3万7200円×12ヵ月)とし、3年間の時限措置とした(図表17)。
これに対して、医療保険者や経済界をはじめ複数の委員が、高額療養費制度での設定に揃えるように主張。一方、連合の伊藤彰久委員は、検討にあたり、医療保険の年収約770万~約1160万円(上限額9万3千円)に合わせて上限額を設定した場合などで家計にどのような影響がでるかを示すように求めた。
また一般区分の一部を対象とした年間上限の時限措置については複数の委員が終了することを支持した。
被保険者範囲の拡大は「全ての世代から意見の聞き取りを」
被保険者・受給者の範囲の見直しについて、医療保険者や経済界をはじめ複数の委員が反対・慎重な検討を求めた(図表18)。
高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員(名古屋学芸大教授)も学生の反応を引き合いに出し、若年世代から高齢者への反発を生むような世代間対立を引き起こす懸念を表明。「全ての世代からの意見を十分に聞き取った上での慎重な検討が必要」と訴えた。
一方、全国老人福祉施設協議会の桝田和平委員は、65歳以上高齢者について「本人の届け出により第2号被保険者に止まる制度をつくるべき」と述べた。また20代・30代について「第3号被保険者」のようにして保険料も半額に設定し、「普遍化」を図ることを目指して徐々に拡大する方向で進めることを提案した。
ケアマネジメントの給付のあり方では、利用者負担の導入に賛否両論が出された(図表19)。
健保連の河本滋史委員をはじめ複数が利用者負担の導入の検討を要請。河本委員はセルフケアプランのあり方も検討を求めた。
一方、日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は「できれば現行を維持してほしい」と訴えた。
全国老施協の桝田委員は、導入する場合は逓減制にすることが望ましいとした。
利用者負担の「現役並み所得」(2割負担)、「一定以上所得」(3割負担)の判断基準の見直しでは、複数が2割負担者の拡大に向けた検討を要請した(図表20・21)。
一方、世帯の負担増を懸念して特に「一定以上所得」の見直しは慎重に進めるように求める意見も出た。
補足給付の見直しで、厚労省は補足給付を行う上での不動産資産を勘案することについて実務上の課題等を踏まえて、慎重な対応が必要との考えを示した(図表22)。これに対して複数の委員が、不動産の勘案に向け、研究・検討を継続することなどを要請した。
また預貯金などの金融資産の把握では「マイナンバーを活用した更なる厳格化」を健保連の河本委員など複数が主張した。
老健施設などの多床室の室料負担の導入にも複数から賛否両論が出された(図表23)。
在宅との公平性の確保の観点から賛成の意見が出される一方、全国老人保健施設協会の東憲太郎委員の代理の平川参考人は、老健施設において利用者は一定期間施設を利用して在宅・地域に戻ることなどを説明し、多床室の室料負担を求めることに反対した。