5割弱の市区町村で認知症本人の意見を「特に聞いていない」(4月9日)
認知症の当事者が参加する「日本認知症本人ワーキンググループ」は4月9日、「認知症の本人の意見と能力を活かした生活継続のための認知症施策の総合的な展開に関する調査研究事業」の報告書を公表した。
全国の自治体に、認知症施策について認知症の本人の意見を聞いているかなどを調査したところ、回答した市区町村の5割弱で「特に聞いていない」と答えた。 さらに調査研究では、▽認知症の本人の意見を聞く▽活かす▽施策を改善する─といった試行プロジェクトを全国7地域で実践した。
また認知症の本人が参画し、行政関係者等と一緒に施策展開を進めるための手引きとなる「ともに生きるまちづくりチャレンジガイド」も作成した。
6割弱の市区町村で第8期計画の策定でも意見を聞く予定はない
調査研究は、3人の認知症の本人をはじめ、研究者や医療関係者、自治体関係者など13名が参加する検討委員会を中心に進めた。粟田主一氏(東京都健康長寿医療センター自立促進と介護予防研究チーム研究部長)が検討委員長を務めた。老人保健健康増進等事業で実施されたもの。
具体的に、自治体における認知症施策や事業への本人の参画・評価等に関する全国調査を実施するとともに、試行プロジェクトの実践や認知症の本人が行政関係者等と一緒に施策展開を進めるためのガイドの作成などに取り組んだ。
全国調査では、全国の自治体(47都道府県・1741市区町村)や認知症疾患医療センター456カ所を対象に実施した。回答は986市区町村(56.6%)、45都道府県(95.7%)、254センター(55.7%)。
認知症施策に関して地元で暮らす認知症の本人の意見を聞いているか尋ねたところ、48.1%の市区町村が「本人の意見は、特に聞いていない」と答えた。一方、「施策策定のプロセスとして特定していないが、本人の意見を聞いている」が44.7%であった。施策の「計画・立案」の際に意見を聞いているのは8.5%、「実施」の際に聞いているのは10.8%、「評価」の際に聞いているのは4.9%に止まった。同様に都道府県に尋ねたところ、「施策策定のプロセスとして特定していないが、本人の意見を聞いている」との回答が最も多く73.3%。「本人の意見は聞いていない」が20%。一方、本人の社会参画の現状について聞いたところ、市町村の53.2%及び都道府県の51.1%が「把握していない」と答えた。
また認知症の本人同士が意見を語り合い、意見を暮らしや地域に活かしていく「本人ミーティング」の開催については、市区町村では「行われておらず、予定もない」が58.8%と6割弱に上った。継続的に取り組んでいたり、実施したことがあるのは合計で13%に止まった。検討中を含めて今後行う予定があるのは、28.2%。他方、開催している都道府県は44.4%であった。
認知症施策に本人の意見を活かしていくために力を入れたいことでは、「認知症地域支援推進員が、本人発信や本人参画の推進役として活動できるよう後押ししたい」が市区町村・都道府県ともに最も多く、市区町村では80.7%、都道府県では93.3%に上った。
第8期介護保険事業(支援)計画で本人に意見を聞く予定があるか尋ねたところ、市区町村では「特に予定はない」が最も多く、58.8%。都道府県では、▽策定委員会等に本人の参加を求めることと、▽ヒアリング等を実施することが同じ割合で最も多く、それぞれ26.7%。次いで「特に予定はない」が22.2%。
認知症の本人の意見を認知症施策に活かしていくことや、本人の社会参画を進めていくうえでの課題は何か。
認知症施策について本人に意見を聞くことやその意見を活かすうえでの課題について、市区町村に尋ねたところ「時間や人手が足りない」が最も多く、66.8%。次いで「担当者や関係者が、自分の意見を語る市区町村内の本人に出会えていない」が61.3%、「集いの場(カフェ等)は増えているが、本人が意見を語る・意見を活かす場にはなっていない」が60.6%などとなっている。
認知症の本人が社会参画を進めていくうえでの課題について、都道府県に尋ねたところ「市区町村によって、本人参画に関する意識や取組みに大きな違いがある」が最も多く、64.4%。次いで「集いの場(カフェ等)は増えているが、本人が意見を語る・意見を活かす場にはなっていない」が62.2%、「時間や人手が足りない」が55.6%などとなっている。
認知症疾患医療センターは本人の社会参加活動への支援には積極的
認知症疾患医療センターに対する調査で本人ミーティングの取り組みについて尋ねたところ、センターが開催しているのは最も少なく、5.1%。一方、「特に行っておらず、今のところ予定はない」が最も多く、46.1%。「自治体等が開催する本人ミーティングにつないでいる」が32.3%。「今後開催する予定がある(検討中を含む)」が25.2%など。
また認知症の本人が他の認知症の人の相談に対応する「本人相談」の取り組みは、6.5%。「特に行っておらず、今のところ予定はない」が74.9%に上った。検討中も含めた今後行う予定があるのが13.9%。
認知症の本人が社会参加活動を行う上での支援や協力については、「自治体等が実施する、本人の社会参加活動に協力している」が最も多く39.8%。次いで「センターを受診した認知症の本人が社会参加活動をする支援を、2018年度以前から行っている」が36.6%。同じく「2019年度から始めている」が12.2%で、合計で5割弱に上った。「取組む予定がある」は17.3%と、社会参加活動への支援には積極的であることが伺えた。一方、「取り組みや支援の予定はない」は28.3%と3割弱あった。
センターが認知症の本人の社会参画を進めていくうえでの課題については、「人手や時間の余裕がなく、実行に移せない」が66.5%と最多。次いで「センター職員の方法やスキルが不足している」が62.2%など。
実際に本人の社会参画を推進していく上で必要な支援等については、「取組み事例を知りたい」92.5%、「他のセンターの企画・運営方法について具体的に知りたい」91.7%などとなった。
試行プロジェクトを踏まえチャレンジガイドを作成
試行プロジェクトは全国7県(8市・1認知症疾患医療センター)が取り組んだ。認知症ケアパスの見直しや認知症カフェの利用による地域連携、ピアサポート、本人ミーティングなどを実施した。
「ともに生きるまちづくりチャレンジガイド」では、試行プロジェクトを踏まえ、認知症の本人の意見と能力を活かしながら、施策やまちづくりを進められるように工夫。たとえば本人向けと関係者向けの内容を見開き上下一対で構成し、ガイドを読み進めながら、本人と関係者それぞれが相手の立場や動きについて理解を深め、協働を促進できるように配慮している。本人の声を受け、小さな取り組みでも開始し、本人とともに評価を行うことや情報発信を進めていくこととしている。