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0410対応を振り返る 進展するオンライン服薬指導(萩原雄二郎)

薬剤師5分間トピックス

令和2(2020)年4月10日、厚生労働省保険局医療課は、新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての時限的・特例的な対応として、初診も含め、電話やオンラインによる診療・服薬指導等を行うことが可能である旨を都道府県衛生主管部等に事務連絡しました。
この「0410対応」は、感染症拡大に対応するためのオンライン服薬指導に関する時限的・特例措置であったことから、感染症の一応の収束を受けて、令和5(2023)年7月31日で終了となりました。今回は0410対応を振り返りながら、今後のオンライン服薬指導について展望したいと思います。


0410対応の始まり

政府の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)を受けて厚労省が発出した4月10日の事務連絡により、備考欄に「0410対応」と記載された処方箋情報を応需した薬局は、医療機関から原本を入手するまでの間は、FAX等により送付された処方箋を正式な処方箋とみなして調剤等を行うことが可能とされました。

また、薬剤師が服薬状況等に関する情報を得たうえで、可能と判断した場合には、電話や情報通信機器を用いて服薬指導等を行って差し支えないこととされました。

電話や情報通信機器を用いた服薬指導(0410対応)の流れ(令和2年当時)

コロナ禍で一定の役割を果たした0410対応

令和4年度調剤報酬改定ではオンライン服薬指導がテーマの一つとなりましたが、その際に0410対応の運用状況が中医協総会に報告されています。

令和3年12月の中医協総会資料によれば、電話や情報通信機器を用いた服薬指導(0410対応)の実施件数は、「薬局における薬剤交付支援事業」に関連して令和2(2020)年5月から令和3(2021)年8月にかけて合計約36万件の報告があり、全処方箋枚数に対して0.3~0.6%程度で推移していることが判明しました。
厚生労働科学特別研究の調査結果において、0410対応と記載されていた処方箋について対面で服薬指導を実施した理由としては、「患者の希望」が9割を占めていました。

また、令和2(2020)年4~9月の間に0410対応と記載された処方箋の応需経験のある薬局は80.9%に上りました。0410対応の記載された処方箋の薬剤交付手段は、新規患者・2回目の患者ともに、患者等が来局するケースが大半でした。なお、0410対応と記載された処方箋であっても、来局や訪問により、対面で服薬指導を実施したケースが大半だったとされています。

0410対応の終了は電話による服薬指導が対象

0410対応の終了は、令和5(2023)年3月31日の事務連絡で予告されました。

3.電話や情報通信機器を用いた服薬指導等に係る特例
(1)電話や情報通信機器を用いた診療等に係る特例の期限について
 電話を用いた服薬指導等に関する特例については、以下(2)のとおりであり、当該特例については、令和5年7月31日をもって終了する。
(2)服薬管理指導料等に係る特例について
〔略〕

令和5年3月31日医療課事務連絡「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて

この中で特に注意したい文言は、「電話を用いた服薬指導等」です。「情報通信機器」ではなく「電話」に限定しているのがポイントです。

「電話」と「情報通信機器」との違いは何かと言えば、電話は「音声だけ」の情報通信機器であり、電話以外の「情報通信機器」は、スマートフォンやPCなどによるテレビ電話等の「映像及び音声」による機器が想定されています。なお、「当該特例」とは、0410対応によって電話や情報通信機器を用いた服薬指導に認められた服薬管理指導料等の優遇的取扱いです。

まとめると、0410対応の終了は、「電話」を用いた服薬指導が対象であり、8月以降は電話による服薬指導は算定できないということです。逆に言えば、電話以外の映像及び音声を使った情報通信機器による服薬指導(オンライン服薬指導)は算定可能です。

オンライン服薬指導の進展を法令で知る

💊改正薬機法

令和元年12月公布、令和2年9月に施行された改正「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「改正薬機法」)は、「薬剤を販売又は授与する際の薬剤師による服薬指導」について、患者本人と直接に対面して行うべしというそれまでの原則を緩和したものでした。

「映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることが可能な方法その他の方法により薬剤の適正な使用を確保することが可能な方法として厚労省令で定めるもの」も、「対面に含む」とすることで算定対象として認めたのです(オンライン服薬指導)。

改正薬機法で認められるオンライン服薬指導の具体的な要件は、省令で改正可能な「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」(以下「施行規則」)で定められます。

💊0410対応

0410対応は、前年の令和元年12月に公布されて1年以内に施行予定とされていた改正薬機法のオンライン服薬指導を、新型コロナウイルス感染症拡大に対応するために、要件を緩和した上に前倒して開始したとする見解があります。

実際、0410対応では改正薬機法が認めていなかった音声だけで行う「電話」の服薬指導も容認しました。また、非接触であることが感染症対策として有効と見られたため、0410対応では「初回」でも薬剤師の判断によって電話や情報通信機器を用いた服薬指導を可能としました。対して、この段階の改正薬機法の施行規則では、初回の服薬指導に対してはオンライン服薬指導を認めず、直接の対面を要件としていました。

💊令和4年3月の改正省令

新型コロナウイルス感染症への対応に追われた政府は、規制改革の流れを加速し、令和4年3月31日に公布、同日施行した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(以下「改正省令」)により、改正薬機法によるオンライン服薬指導の要件緩和を行いました。改正薬機法はそのままにして施行規則を改正して規制緩和を進めたわけです。

8月以降のオンライン服薬指導の取扱い

改正省令は、0410対応のような電話による服薬指導こそ認めませんでしたが、初回でも薬剤師の判断による服薬指導を可能としたのでした。

0410対応が終了した令和5(2023)年8月以後のオンライン服薬指導については、改正省令に従って実施していくことが求められます。

以下に掲載するのは、改正省令の施行に伴う通知の抜粋です。オンライン服薬指導の骨格部分といえます。

オンライン服薬指導の内容
(1)オンライン服薬指導の実施

 オンライン服薬指導については、映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることが可能な方法であって、患者の求めに応じて、その都度薬剤師の判断と責任に基づき、行うことができる
(2)オンライン服薬指導の実施要件
①薬剤師の判断

 薬局開設者は、オンライン服薬指導の実施に際して、その都度、当該薬局の薬剤師の判断と責任に基づき、行わせる
当該薬局において服薬指導を実施したことがない患者及び処方内容に変更のあった患者に対してオンライン服薬指導を行う場合においては、当該患者の服薬状況等を把握した上で実施する
②患者に対し明らかにする事項
 薬局開設者は、当該薬局の薬剤師に、次の(ア)及び(イ)に掲げるオンライン服薬指導に関する必要事項を明らかにした上でオンライン服薬指導を実施させる
(ア)オンライン服薬指導を行うことの可否についての判断の基礎となる事項
 服用にあたり手技が必要な薬剤の初回処方時等、薬剤師がオンライン服薬指導を行わないと判断した場合にオンライン服薬指導を中止した上で、対面による服薬指導を促す旨(情報通信環境の障害等によりオンライン服薬指導を行うことが困難になる場合を含む)を説明する
(イ)オンライン服薬指導に係る情報の漏洩等の危険に関する事項
 オンライン服薬指導時の情報の漏洩等に関する責任の所在が明確にされるようにする
(3)オンライン服薬指導を実施する際の留意事項
 薬剤師は、オンライン服薬指導等を行うに当たり、患者の服薬アドヒアランスの低下等を回避して薬剤の適正使用を確保するため、調剤する薬剤の性質や患者の状態等を踏まえ、必要に応じ、
ア 事前に薬剤情報提供文書等を患者に送付してから服薬指導等を実施する(画面に表示しながらの実施も含む)
イ 対面による服薬指導と同様に、患者の求めに応じて、改めて、薬剤の使用方法の説明等を行う
ウ 対面による服薬指導と同様に、薬剤交付後の服用期間中に、服薬状況の把握や副作用の確認などを実施する
エ 対面による服薬指導と同様に、上記で得られた患者の服薬状況等の必要な情報を処方した医師にフィードバックする
等の対応を行う

令和4年3月31日薬生発0331第17号より作成

コロナ前から示されていた0410の方向性

0410対応は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック対策として、緊急避難的にオンライン服薬指導を認めた時限的・特例的措置にすぎないというわけではありません。0410対応以前に、改正薬機法によって0410対応と同様のオンライン服薬指導は制度的に始動していました。むしろ、新型コロナウイルス感染症拡大が非接触で医療行為を行うことの有効性をクローズアップし、患者と直接対面しなければならないという観念が緩和され、オンライン服薬指導を進展させる方向に作用したといえます。

改正薬機法がコロナ禍以前からオンライン服薬指導を志向していたのは、医療資源が乏しい離島、へき地の遠隔診療のニーズへ対応する目的や薬剤師の対人業務や薬局機能を強化するという目的がありました。そうした目的は今後も変わりません。

厚労省も「今後のオンライン診療及びオンライン服薬指導の普及や技術革新等の状況を踏まえ、オンライン服薬指導の運用について定期的に見直すことを予定している」と述べており、オンライン服薬指導は進展し続けるとの想定で、薬局の将来の業務や経営をイメージする必要がありそうです。

(次回は10月に掲載予定です)

筆者:萩原雄二郎(株式会社エルシーシー代表)
編集協力:社会保険旬報Web医療と介護編集部

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