社会保障給付費が語るもの(中村秀一)
2020年度の異常な伸び
8月30日に2020年度の社会保障給付費が公表された。その結果に驚かされた。その総額は132兆2211億円で、前年度から8兆2967億円、6.7%増という、近年にない伸びを示した。対GDP比も24.69%と2.45%高くなった。
これは政府の見通しを5.8兆円超過、対GDP比で2.5%上回るものであった。コロナ対策のために2020年度に3度の補正予算が組まれたことが反映している。
この結果、2020年度の社会保障給付費は、今年度(2022年度)の社会保障給付費の見込みである131.1兆円、対GDP比23.2%までも超えてしまう事態となった。
何が増えたのか
前年より8兆2967億円増えたというが、何が寄与したのか。
「年金」は微増であった(1816億円、0.3%増)。「医療」は1兆9967億円、4.9%の伸びを示した。「福祉その他」は6兆1188億円、22.1%増という驚異的な伸びであった。
雇用調整助成金の増加が大きい(機能別に見ると雇用調整助成金が含まれている「失業」が3兆5604億円増加した)。
財源的には、国庫負担が6兆6158億円増えて41兆26億円となった。伸び率19.2%で、給付の増加分の約8割が国庫負担増によって賄われたのである。
医療費は減ったはずでは?
我々は、患者の受診控え等で2020年度の医療費は減少したと伝えられてきた。厚生労働省が公表した2020年度の概算医療費は42.2兆円で、前年度の43.6兆円から1.4兆円減、3.1%減であった。つい先日公表された2021年度の概算医療費は44.2兆円、4.6%増で、コロナ蔓延前の2019年度と比較すると1.4%増で、回復基調にあるとされた。しかし、先に述べたとおり社会保障給付費統計では、2020年度の医療給付費は約2兆円増えたのである。
概算医療費は医療機関からの診療報酬の請求(レセプト)に基づいて、医療保険・公費負担医療分の医療費を集計している。したがって、コロナ感染症対策のうち診療報酬上で行われた特例加算等は概算医療費に反映されるものの、それ以外の対策経費は含まれていない。
他方、社会保障給付費においてはすべての対策が含まれるので、2020年度の医療給付費は増加したのである。概算医療費のマイナス1.4兆円と医療給付費のプラス約2兆円の差(約3.4兆円)がコロナ対策で医療に注ぎ込まれたことが分かる。
社会保障に及ぼしたコロナの影響が統計にこのように刻印されている。巨額の財政出動が医療機関を支えたことを、忘れてはならない。
(本コラムは、社会保険旬報2022年11月1日号に掲載されました)