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【詳解】第80回社会保障審議会介護保険部会(8月29日)


介護保険部会が2巡目の議論開始

社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)は8月29日、次期介護保険制度改正に向け、2巡目の議論を開始した。給付と負担の見直しを中心に、これまでの検討を踏まえ、全般的に意見交換を行った。

部会は、2月に制度の施行状況を確認するとともに、7月までに横断的なテーマとして▽介護予防・健康づくり▽保険者機能の強化▽地域包括ケアシステムの推進▽認知症施策の総合的な推進▽介護人材の確保・介護現場の革新─について行った。

今回、これまでの議論を踏まえて、今後のスケジュールと更に深める検討事項が示され、意見交換を再開した。部会は12月に意見を取りまとめ、厚生労働省はそれを受け、来年早期に介護保険法等改正法案を国会に提出する予定だ。制度改正の施行は2021年度からとしている(図表1)。

▲図表1 今後の検討スケジュール(案)

給付と負担の見直しを中心に意見交換

厚生労働省は、持続可能な制度の再構築に向け、給付と負担の見直しに関する検討項目として、①被保険者・受給者範囲②補足給付に関する給付の在り方③多床室の室料負担④ケアマネジメントに関する給付のあり方⑤軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方⑥高額介護サービス費⑦利用者負担における「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準⑧現金給付─の8項目を示した(図表2)。

▲図表2 給付と負担(今後の検討)

制度創設時からの論点である①被保険者・受給者範囲については、過去の議論も踏まえるとともに、「介護保険制度の普遍化」を目指すべきか、「高齢者の介護保険」を維持すべきかという方向性について議論を求めた。厚労省は、被保険者等の年齢設定の議論の前に、大きな方向性の議論が必要とした(図表3~5)。

▲図表3 被保険者・受給者範囲1
▲図表4 被保険者・受給者範囲2
▲図表5 被保険者・受給者範囲3

②補足給付の在り方については見直す必要性とともに、支給に当たり保有する不動産も勘案することについて改めて示した(図表6)。

▲図表6 補足給付に関する給付のあり方

③多床室の室料負担では、老健施設や介護医療院、介護療養型医療施設の多床室で室料負担を利用者に求めることを尋ねた(図表7)。

▲図表7 多床室の室料負担

④ケアマネジメントに関する給付のあり方では利用者負担の導入について議論を求めたものだ(図表8)。ケアマネジメントは10割が保険給付の対象となっており、利用者負担が無いが、過去数度議論されている。

前回の制度改正のベースになった28年12月の介護保険部会意見でも賛否両論が併記され、「ケアマネジメントの在り方と併せて引き続き検討を行うことが適当」とされた。こうした点を踏まえて改めて検討を求めた。

▲図表8 ケアマネジメントに関する給付の在り方

⑤軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方では、新経済・財政再生計画改革工程表などを踏まえ、生活援助サービスやその他のサービスについて地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)への移行も含め検討を要請した(図表9)。

▲図表9 軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方

⑥高額介護サービス費について医療保険の自負担額の上限を踏まえて議論を要望した(図表10)。 高額介護サービス費における利用者負担の限度額は、制度創設時から医療保険の高額療養費制度を踏まえて設定されている。

70歳以上の高額療養費は昨年8月から現役並み所得の区分が細分化された。多数回該当の上限額が年収約383万円~約770万円が4万4400円、年収約770万~約1160万円が9万3千円、年収約1160万円以上が14万100円とされた。

▲図表10 高額介護サービス費

⑦利用者負担の「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準とは、3割負担・2割負担の対象者の基準に関する議論を求めたものだ(図表11)。

2割負担は27年8月から導入された。

基準は現在、「合計所得金額(給与収入や事業収入等から給与所得控除や必要経費を控除した額)が160万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額280万円以上」と設定されている。単身で年金収入のみの場合280万円以上に相当し、「一定以上所得」とされている。

さらに2割負担者の中で特に所得の高い層を「現役並み所得」として3割負担を求めている。昨年8月から実施された。基準は「合計所得金額220万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額340万円以上」と設定されている。単身で年金収入のみで344万円以上に相当する(図表12)。

▲図表11 「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準
▲図表12 一定所得以上の利用者負担割合等

⑧現金給付は制度創設時以来からの課題の一つだが、前回改正の議論では、家族介護の固定化につながるなどの消極的な意見が多く、導入は適当ではないとされた。こうしたことも踏まえて改めて意見を求めた(図表13)。

▲図表13 現金給付

老健施設等の多床室の自己負担導入に反対

こうした論点を踏まえ、給付と負担の見直しについて複数の委員が発言した。

日医常任理事の江澤和彦委員は、老健施設や介護療養型医療施設、介護医療院は医療提供施設であり、住まいと異なることを強調。老健施設等の多床室の室料負担の導入に反対した。

全老健会長の東憲太郎委員は、「老健施設は介護保険法で在宅支援施設として規定されている」と指摘。生活施設ではないとして、室料負担を求めることに異論を唱えた。補足給付について財源の在り方も含めて検討を求めた。

全国老人福祉施設協議会介護保険事業等経営委員会委員長の桝田和平委員は、制度創設の議論がなされた20年前と社会状況が大きく変わり65歳の高齢者も多様化していることをあげ、「一部の人は1号被保険者だが、大多数は2号被保険者であってしかるべき。フレーム自体のあり方も議論してほしい」として被保険者・受給者範囲について抜本的な見直しを求めた。

健保連常務理事の河本滋史委員は、軽度者の生活援助サービスの見直しなど、新経済・財政再生計画改革工程表に盛り込まれた事項について「しっかり議論を進めていただきたい」と要請。さらに「将来的には利用者負担の原則2割化も議論していく必要があるのではないか」と提起した。

被保険者範囲の拡大は現役世代の負担増につながることから慎重な議論を求めた。高齢者の就労が進むとともに「若返り」もあることから「将来的には60代後半の人が1号被保険者のままでいいのか」とし、被保険者範囲の議論ではそうした点も踏まえて進めるように求めた。

日本商工会議所社会保障専門委員会委員の岡良廣委員は、ケアプラン作成における給付のあり方など、新経済・財政再生計画改革工程表を踏まえた給付と負担の改革項目について「着実に実施し、実現していただきたい」と要望。さらに踏み込んで応能負担の考え方に基づく利用者負担の見直しを訴えた。

被保険者・受給者範囲では対象年齢の引き下げについて、40歳未満の年代は子育て等での負担が大きいことを指摘。「受益と負担との関係性は希薄」とし、反対を唱えた。

一方、認知症の人と家族の会常任理事の花俣ふみ代委員は、2割負担者でも介護疲れが深刻化し介護家族の生活が立ち行かなくなっている状況があることを指摘。一律の2割負担の導入は「絶対に認められない」とした。またケアマネジメントに関する給付のあり方の見直しなど利用者負担増に反対した。

▲参考資料1 「新経済・財政再生計画改革工程表2018」における記載1
▲参考資料2 「新経済・財政再生計画改革工程表2018」における記載2

保険者機能の強化での調整交付金の活用は「趣旨が違う」

その他、厚労省から、これまでの議論踏まえ、保険者機能強化において調整交付金の活用や、保険者機能強化推進交付金についてメリハリをつけて交付することを論点として示された(図表14)。

▲図表14 保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)1

神奈川県知事の黒岩祐治委員の代理で出席した神奈川県福祉子どもみらい局福祉部長の柏﨑克夫参考人は、調整交付金は保険者の責めによらない要因による第1号保険料の水準格差を是正するという目的のものであることを指摘し異論を唱えた。

保険者機能強化推進交付金について「メリハリをつけることは適切」と賛意を示す一方、指標での獲得点数が低い保険者には減額するといったディスインセンティブを導入することは「適当ではない」とした。

連合総合政策局生活福祉局長の伊藤彰久委員も「調整交付金について保険者機能の強化で活用するのは趣旨が違う」と指摘し。慎重な議論を求めた。

地域包括支援センターについて、機能強化と、業務や体制のあり方について検討を深めるように求められた(図表15)。日本介護支援専門員協会副会長の濵田和則委員は、特定事業所加算を算定している居宅介護支援事業所の活用を求めた。

▲図表15 保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化)2

また、介護予防の推進について、一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会(遠藤久夫座長)の中間取りまとめが報告された(図表16・17)。

▲図表16 中間取りまとめの主な内容1
▲図表16 中間取りまとめの主な内容2

全老健の東委員は、ハイリスクアプローチとしての取り組みを重視。「フレイル対策に特化した介護予防が必要」と指摘し、個々の高齢者のフレイル予防におけるエビデンス指標を考えて取り組むことを提案した。

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