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数理の目レトロスペクティブ|#8 支給開始年齢とドップラー効果

坂本 純一(さかもと じゅんいち)/(公財)年金シニアプラン総合研究機構特別招聘研究員

 今回は趣向を変えて、年金制度のような社会制度の中にも、自然科学的な現象が現れることを書いてみたいと思う。閑話をご容赦いただきたい。

 前回(#7)では老齢年金の支給開始年齢について、高齢者の平均余命が伸びるときの制度改正の選択肢のひとつとして支給開始年齢を引き上げることが議論されることに触れた。この支給開始年齢の引き上げは、逃げ切り世代が発生するという問題点があるが、平成6年改正や平成12年改正のようにこれを実施した場合、光や音という波動の観測の際に現れるドップラー効果と同じ構造の現象が現れる。

 特別支給の老齢厚生年金について、定額部分の支給開始年齢が現在引き上げられていたが、その規定は昭和16、17年度生まれの人は61歳から、18、19年度生まれの人は62歳からというように、2年ごとのコホート(出生年度が同じ集団)で1歳ずつ引き上げられている。この結果、例えば昭和16年度生まれの人が60歳に達した平成13年度には、これらの人の平均年金額は報酬比例部分だけとなるので、平成13年度の新規裁定者のうちの60歳の者の平均年金額は他の年齢層に比べて低い金額になっていた。平成14年度も同様に60歳の新規裁定者の平均年金額が他の年齢層に比べて低い金額になっていたが、この現象は平成15年度まで続いた。そして平成16年度からは、60歳と61歳の新規裁定者の平均年金額が他の年齢層に比べて低い金額となっていた。つまり、支給開始年齢の引き上げは、2年ごとのコホートで定められているにもかかわらず、新規裁定者の平均年金額の低い年齢層は3年に1歳ずつ上がっていくのである。

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