義務化まで10か月――ここから始まる、BCP策定等に関する法令根拠と3つのポイント
介護施設・事業所が対象となる業務継続計画(BCP)の策定等に関する規定が、令和6年4月に経過措置を終え、完全実施となります。
具体的には、BCPの策定や見直し、これに関連する研修や訓練の実施などが、すべての施設や事業所に対して義務化されることになります。
実際のBCPの策定状況などについては、今後厚生労働省により行われる「令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和5年度調査)」により明らかになることが見込まれています。
ですが、まだBCPの策定に着手していない事業所の方、まさに策定に取り組んでいる事業所の方、すでにBCPの策定を終えた事業所の方と、さまざまな段階にいらっしゃることでしょう。
完全実施まで残り10か月ほどとなった現在、それぞれの段階において次のように感じている方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
■BCPの策定に着手していない事業所の方
そもそもBCPとはなにか、なにが義務化されるのかが明確に分からない
義務化や重要性は理解しているが、作成の手順が思い浮かばない
日々の業務により多忙で、疑問点をしっかりと調べる時間がない
■まさに策定に取り組んでいる事業所の方
作成に着手したが、記載する項目が適切か確信を持てない
項目は分かるが、なにを記載するかで迷ってしまう
途中まで作っては不適切に感じてしまい、幾度も作り直している、
■すでにBCPの策定を終えた事業所の方
ひとまずの策定は終えたが、内容が適切か自信を持てない
BCPは策定したが、どんな研修・訓練が適当か分からない
見直しや変更によりBCPを、より実効性のあるものにしていきたい
今回は、そうしたお悩みの解決する上で土台となる、令和6年4月から適用される基準を法令をベースに振り返るとともに、本田茂樹氏の著作である『介護施設・事業所のための BCP策定・見直しガイド』のなかで示されたBCPの策定時における3つの重要ポイントをご紹介します。
BCP策定などの法令根拠は?
令和6年4月より義務化されるBCPの策定や見直し、研修や訓練の実施の規定は、令和3年度介護報酬改定により実施された、指定基準の改正により適用されたものです。
指定基準とは、各自治体(都道府県や市町村などの指定権者)が条例で定める規準ですが、BCPの策定等の規準に関しては「国が定める規準」に「従うべき規準」、すなわち必ず適合しければならない規準として位置づけられています。
この規定は、「国が定める規準」では基準省令により、サービスごとに『業務継続計画の策定等』として定められています。
たとえば訪問介護では、基準省令の第30条の2において、次のように規定されています。
すなわち、義務化される内容は、①業務継続計画(BCP)を策定し必要な措置を講じる、②BCPを周知し必要な研修・訓練を定期的に実施する、③定期的にBCPを見直し必要に応じて変更する、の3つです。
基準自体はサービスごとに定められていますが、この原則は、すべてのサービスを通じて変わりません。
また、厚生労働省では「国が定める基準」である基準省令の趣旨・内容を記した、解釈通知を発出しています。
ここではより具体的な内容に踏み込まれており、BCPに必要な項目として、次のように示されています。
◎感染症に係る業務継続計画
平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取組の実施、備蓄品の確保等)
初動対応
感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)
◎災害に係る業務継続計画
平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等)
緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等)
他施設及び地域との連携
さらに、これらの項目等の記載内容については、厚生労働省のガイドラインである、「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」と「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を参照することが求められています。
つまり、基準省令や解釈通知という法令文のなかで、必要な項目や参照する資料が、すでに規定されているのです。
指定基準に関連する基準省令や解釈通知では、こうした運営基準のほかにも、人員基準や設備基準など、事業所運営において必須となる規則が定められています。
社会保険研究所が発刊している書籍『介護報酬の解釈2 指定基準編』では、すべてのサービスにおける基準省令・解釈通知などの法令を掲載しているため、ご興味のある方はお手に取られてみてください。
法令遵守の観点からは、基本的な情報ではありますが、このような法的な根拠を示し業務継続計画に関する情報は、インターネットの検索でヒットするサイトなどではなかなか取り上げられていません。
しかし、法令を理解した上で業務継続計画の策定等を進めて行くことは、コンプライアンスの遵守のために、非常に重要なことです。
また、明確に規定を把握し、しっかりと法令を守っているという意識が、BCPの策定等だけでなく事業を運営していく上での自信に繋がるはずです。
業務継続計画の策定・見直し、そして研修・訓練の実施には、ぜひ、こうした原則から把握していただければと思います。
BCP策定時の3つの重要ポイント
ここまで、令和6年4月から義務化されるBCPの策定等に関して、その法的な規則を見てきました。
では、実際にBCPを策定する際に、必ず押さえておくべき重要なポイントとはなんでしょうか。
上述した厚生労働省のガイドラインの策定等に関する委員会で、委員長をつとめた本田茂樹氏は、著作である『介護施設・事業所のための BCP策定・見直しガイド』のなかで、3つのポイントを掲げています。
①まず策定に着手する、そして見直し・改善する
②命を守ることを最優先する
③業務の優先順位をつける
①まず策定に着手する、そして見直し・改善する
まだBCPの策定を未着手の場合、着手する際のキーワードは、「着眼大局、着手小局」。
すなわち、上述した法的根拠や厚生労働省のガイドラインなどから全体像を把握し(着眼大局)、少しずつ進める(着手小局)ことです。
最初から完璧なBCPをめざすのではなく、備蓄品の内容を見直してリストを作成する、従業員の緊急連絡先を整備する、事業所のハザードマップを確認するなど、先延ばしにすることなくできるところから着手します。
また、BCPは策定しても、一度策定すれば終わり、というものではありません。
訓練により不備な点を洗い出されれば、それらを改善していきます。
また、そして業務内容に変化があった場合などは、それに合わせた内容とする必要もあります。
②命を守ることを最優先する
BCPを考える上で、利用者の命を守ることが、もちろん重要なことになりますが、業務を継続するという観点では、職員の命を守ることがポイントです。
被災時に行動することができる職員が少なければ、その後の復旧活動や業務継続に支障をきたします。
職員の命を守ることは、そのまま利用者の命を守ることにつながります。
③業務の優先順位をつける
業務継続のためにさまざまな準備をしたとしても、事業所の業務が中断してしまうことは考えられます。
重要なことは、どの業務から優先的に取り組むかをBCP策定時に決めておき、実際に被災した場合などに、その優先順位に従って業務を進めることです。
より優先度の高い業務はなにか、相対的に優先順位の低い業務はなにかを見極め、優先順位の低い業務に関しては一時的に縮小する・休止する、という考え方が大切です。
この3つのポイントは、BCPの策定の際や、見直し・改善の際において、判断の原則となる羅針盤と言えるでしょう。
法的根拠とは違う観点から、迷った際に立ち返るべき、基準となることでしょう。
おわりに
BCP策定などに関する法令根拠と3つのポイント、いかがだったでしょうか。
『業務継続計画の策定等』においては入り口となる基本的な内容であるため、冒頭で掲げたお悩みの解決までには至らなかったと思いますが、解決に向かう際に心がける、決して外してはならない重要な土台部分として、ピックアップいたしました。
記事のなかでもご紹介した『介護施設・事業所のための BCP策定・見直しガイド』では、著者である本田茂樹氏により、BCPの基礎知識から、策定・見直しの要綱、そしてより実効性の高いBCPへの育成まで、しっかりとサポートさせていただいていいます。
また、今回の記事で触れた厚生労働省のガイドラインほか、豊富な資料も収載しています。
ぜひ、下の表紙から書籍をご覧になっていただき、本書をお悩みの解決へと役立てていただければ幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。