CHASEのデータ提出などを介護報酬で評価へ(11月5日)
社会保障審議会介護給付費分科会は11月5日、令和3年度介護報酬改定に向けて、これまでの検討を踏まえ、各サービスにおける横断的事項である⑴自立支援・重度化防止と⑵地域包括ケアシステムの推進について議論を深めた。
このうち⑴自立支援・重度化防止について、来年度から本格的に稼働するデータベース「CHASE(高齢者の状態・ケアの内容等の情報)」へのデータ提供とフィードバックを受けて、PDCAサイクルを推進してケアの質を向上して行く取組みを介護報酬で評価することを提案した。
CHASEへのデータ提供等の取り組みは、施設系サービスと通所系サービスを中心に検討していくこととし、データ提供は関連する既存の加算の仕組みを活用して上乗せ評価を行う方向を提示した。他方で、事業所単位で全ての利用者のデータを提供する場合も評価する考えだ。複数の委員が賛意を表明した。
⑵地域包括ケアシステムの推進で厚労省は、認知症ケア加算を訪問系サービスにも拡大することを提案。概ね了承された。
施設・通所サービスでCHASEのデータ提供などを推進
まず⑴自立支援・重度化防止について厚労省は、「介護の質の評価と科学的介護の推進」「リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養」「重度化防止の推進等」について、14項目の論点を提示。介護保険施設や通所サービスにおける、口腔機能向上や栄養改善、施設における排せつ支援・褥瘡管理・寝たきり防止などの取り組みにおいて、サービスの質の向上に向けて、CHASEへのデータ提供及びフィードバックなどによるPDCAサイクルの推進に取り組む方向を示した。一部を除き、賛同する意見が目立った。
介護の質の評価と科学的介護の推進
論点①介護の質の評価と科学的介護の推進
介護関連のデータの収集・活用とPDCAサイクルの推進を通じた科学的介護を推進していく観点から、CHASEについて、現行のVISITにおけるデータ提出とフィードバックによりPDCAサイクルを推進してケアの質の向上につなげる仕組みを参考に、データ提出と活用を評価することを提案した。
具体的に、CHASEの収集項目の各領域(総論(ADL)、栄養、口腔・嚥下、認知症)に関して、個別機能訓練加算など既存の加算に含まれる個々の利用者への計画書の作成や、それに基づくケアの実施・評価・改善を通じたPDCAサイクルの取り組みを基礎として、その上乗せとして、CHASEへのデータ提出とフィードバックによるPDCAサイクルの推進やケアの質の向上の取り組みを行うことを評価することを示した。
現在、通所リハ・訪問リハのリハビリテーションマネジメント加算Ⅳにおいて、同加算Ⅲの要件を全て満たすことを前提に、さらにVISITへのデータの提供及びフィードバックを受けることでより高い評価を受けることができる。同様の仕組みとする方向だ。
さらに、利用者単位のみならず事業所単位の取り組みを評価する。職員の負担やCHASEにおける基本的な項目も勘案しつつ、事業所のすべての利用者について、CHASEの収集項目の各領域の基本的なデータを提出するとともにフィードバックを受けることで、事業所の特性やケアの在り方等を検証して利用者のケアプランや介入計画に反映させることを評価していく。
評価対象のサービスは、施設サービスと通所サービスを中心に検討する。
VISITについても対象サービスを拡大しながら、前記の枠組みに位置付けてデータ収集を進め、活用していく。VISITとCHASEの名称は統一する。
意見交換で、CHASEにおける利用者単位と事業所単位の評価について、連合の伊藤彰久委員や日本経団連の間利子参考人から、「重複が生じるのではないか」などの指摘があり、厚労省は技術的な点について今後、検討を進めていく考えを示した。
日本医師会の江澤和彦委員は、VISIT・CHASEのデータ入力の負担軽減にしっかり取り組むように要望。さらに「フィードバックは十分に提出データが蓄積されてから行っていただきたい」と求めた。データの蓄積が不十分なうちにフィードバックが行われると、フィードバックされるたびに運用が異なっていく可能性が高くなることを懸念した。
全国老人保健施設協会の東憲太郎委員も現場の負担軽減とともに、取り組みの前提として基盤整備の支援を行うように要請。そのうえで、事業所単位の取り組みの評価について、「データ提出では利用者・家族の同意が必要であるが、全ての同意を取ることは現実的ではない」とし、たとえば6割程度の同意を取り、取り組みを行った場合に評価していくことを提案した。
リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養
論点②リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的な運用
リハ・機能訓練、口腔、栄養の取り組みを一体的に運用し、自立支援・重度化防止を効果的に進める観点から、リハ専門職や管理栄養士、歯科衛生士の関与についてバラつきがある各種の計画書や会議の要件について、各専門職を必要に応じて追加することを提案した。さらにリハ・機能訓練、口腔、栄養の計画書について一体的に記入できる様式の導入を示した。
複数の委員が賛意を表明した。
論点③ADL維持等加算
ADL維持等加算について、通所介護に限らず、同様の取り組みを行いADL維持等を目的とするようなサービスに拡大することを提案した。算定要件が複雑であることから簡素化を図る。CHASEの活用も検討していく。またより自立支援等に効果的に取組み、利用者のADLを良好に維持・改善する事業所を高く評価してくとした。
ADL維持等加算の対象拡大には、賛否両論が出た。全国老人福祉施設協議会の小泉立志委員は、「通所系サービスでの導入を浸透させ、そのうえで居住系サービスに広げていくなど、段階的な拡大が必要」と指摘した。日医の江澤委員も反対を表明。「現状、算定率が極めて低く、本加算の有用性の評価が全くなされていない」と指摘した。
論点④リハビリテーションにおける心身機能・活動・参加の評価
老健施設や通所リハで、入所者(利用者)の「活動・参加」の測定方法の在り方、及びADLの維持改善に基づく評価の導入の検討を提案した。 全老健の東委員は、全老健では既に「ICFステージング」を独自に導入・活用していることを紹介し、活用を求めた。 日医の江澤委員は、「生活期リハのアウトカムの評価指標は定まっていない」と指摘し、慎重な検討を要請した。
論点⑤生活機能向上連携加算
生活機能向上連携加算について、訪問介護等が、連携先となるリハ専門職を派遣する訪問リハ事業所等を見つけることが課題の一つにあげられている。厚労省は連携先を見つけやすくする方策として都道府県や保険者が事業所間の調整を支援することを提案した。
日医の江澤委員は、「加算の算定率が低く、ここまでして残す必要があるのか。どういう姿で残すのかは検討課題」などと指摘した。
論点⑥介護保険施設における口腔衛生管理
全ての介護保険施設で口腔衛生管理体制を確保するよう促すとともに、口腔衛生管理に係る加算の見直しを提案。CHASEを活用したPDCAサイクルの推進も示した。
論点⑦栄養ケア・マネジメントの強化
全ての介護保険施設において栄養マネジメント加算における「入所者ごとに栄養ケア計画を作成し、計画に従って継続的な栄養管理を行う」ことを促すとともに、低栄養状態のリスクが高い入所者への丁寧な栄養ケアの実施や栄養ケアに係る体制の充実を図っている場合に一層の評価を行う観点から、栄養マネジメント加算や人員基準の見直しを提案。CHASEを活用したPDCAサイクルの推進も示した。栄養ケア計画については、リハ、口腔、栄養の取り組みの連携強化の観点や、業務負担軽減の観点から、様式の見直しを提案した。
低栄養状態の改善を促進する観点から、必要な人に適切に継続的な経口維持や褥瘡管理に関する取り組みが行われるよう、各加算に係る算定期間や他の加算との併算の要件の見直しを提案した。
論点⑧多職種連携における管理栄養士の関与
介護保険施設における看取りへの対応を評価する加算において、関与する専門職として、管理栄養士を明記することを提案。褥瘡の発生や改善は栄養と大きく関わることから、褥瘡マネジメント加算でも同様の対応を提案した。
論点⑨通所サービス利用者の口腔機能の向上
通所サービスにおいて介護職員も実施可能な口腔機能のスクリーニングを進めるとともに、評価することを提案した。口腔機能低下を早期に確認し、適切な管理等を行うことにより、口腔機能低下の重症化等の予防・維持・回復等につなげるため。さらに栄養スクリーニング加算の取り組みと合わせて提供することも示した。
令和元年度の「居宅系サービス利用者等の口腔の健康管理等に関する調査研究」により、通所サービス利用者の口腔の状態について、介護職員でも簡便に評価できる「口腔スクリーニング項目」(素案)が開発されている。咀嚼・嚥下・口腔衛生・歯科受診について15項目で確認するもので、観察評価が中心である。
方向性について複数の委員が賛意を表明。日本歯科医師会の小玉剛委員は、スクリーニングの実施に賛意を表明するとともに、その後の処置に円滑につながるような体制整備の必要性を指摘した。
協会けんぽの安藤伸樹委員も、スクリーニング結果を活用し、一定の基準に該当する利用者に対して歯科医療機関等につなげる重要性を強調。「具体的なサービスや治療につながった場合に評価するなど確実に口腔機能の向上につながる仕組みを検討すべき」と述べた。
論点⑩通所サービスにおける栄養ケア・マネジメント
通所サービスにおいて管理栄養士や介護職員等の連携による利用者への栄養ケア・マネジメントの取り組みを進め、それを評価することを提案。CHASEを活用したPDCAサイクルの推進も示した。さらに栄養改善が必要な者に適切な栄養管理を行う観点から、通所サービスの管理栄養士が居宅を訪問して栄養改善サービスの取り組みを進め、それを評価することも提案した。
全老健の東委員は、栄養ケア・マネジメント加算について、併設施設の管理栄養士や外部の管理栄養士による対応も認めるように要望。グループホームでも同様の対応を求めた。
慶應義塾大学大学院教授の堀田總子委員はまず、論点⑦栄養ケア・マネジメントの強化で、管理栄養士の配置を考えていく上で、「たんに複数配置を示すと給食管理に回ってしまうこともあり得る。複数配置を示す場合は、栄養ケア・マネジメントのための配置が分かるように工夫してほしい」と求めた。論点⑩の通所サービスにおける栄養ケア・マネジメントについても「外部の栄養・ケアステーションとか医療機関の管理栄養士が連携して通所での機能改善を目的とした栄養の改善ということと、在宅での生活の維持、通所での栄養改善と在宅での栄養改善が上手く組み合わせられることを考えると、居宅療養管理指導を組み合わせることをぜひ検討いただければと思う」と述べた。
論点⑪認知症グループホームにおける栄養改善
認知症グループホームで、管理栄養士が介護職員等に利用者の栄養・食生活に関する助言や指導を行う体制づくりを進め、これを評価することを提案した。
重度化防止の推進等
論点⑫寝たきり予防・重度化防止のためのマネジメント
施設系サービスで、医師の関与の下、リハ等の必要性や日々の過ごし方等をマネジメントし、適切に離床、リハ・機能訓練、介護等を行う取り組みを進めることを提案した。
具体的に、▽定期的に全ての利用者に対する医学的管理の必要性や、それに基づくリハ、日々の過ごし方についてアセスメントを実施▽ケアマネジャーやその他の介護職員が、日々の生活全般において適切なケアを実施する計画を策定▽計画に沿って介入や介護等を行う─という仕組みを導入する。これを評価することを示した。CHASEを活用したPDCAサイクルを推進する。
褥瘡マネジメント加算のような加算を導入する方向だ。
論点⑬褥瘡マネジメント加算
特養や老健施設に導入されている褥瘡マネジメント加算について、計画の見直しを含めた施設の毎月の取り組みを評価する観点から、3月に1回を上限とする算定を、毎月算定できるように見直すことを提案した。
さらに現行の褥瘡管理の取り組み(プロセス)に加え、状態改善等(アウトカム)の評価を行うことを提案。CHASEを活用したPDCAサイクルを推進することも示した。
アウトカム評価を行うに当たって「褥瘡」について、統一的に評価することが可能な定義・評価指標を用いることとした。
褥瘡の定義について、施設での捉え方が不統一であることが報告され、分科会では統一を求める意見が出ていた。令和元年度の「介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究」では、褥瘡を「持続する発赤」から捉えている施設は48.8%、「真皮までの損傷」から捉えているのは27.2%と、捉え方にバラつきがあることが示されていた。
また褥瘡の指標として、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」の取りまとめでは、日本褥瘡学会の「DESIGN-R」が望ましいことが指摘されていた。
論点⑭排せつ支援加算
施設系サービスに導入されている排せつ支援加算について、全ての入所者に対するスクリーニングの定期的な実施とともに、加算の算定も期限を設けずに算定できるようにすることを提案した。現在、加算の対象は、医師等により改善することが期待できると判断した者に限られ、算定期間も6ヶ月に限定されている。
さらに排せつ支援の取り組み(プロセス)への評価に加え、排せつ状態の改善等(アウトカム)への評価の導入を提案。CHASEを活用したPDCAサイクルを推進することも示した。 アウトカム評価を行うに当たり、統一的に評価することが可能な定義・指標を用いることとした。
排せつ支援加算については、全国老人福祉施設協議会から、▽毎月の評価にすること▽実際に6ヶ月後の取り組み状況について、認定調査等の「排尿」又は「排便」の項目が改善した場合に更なる評価を行うこと─が提案されていた。
日本看護協会の岡島さおり委員は、褥瘡マネジメント加算と排せつ支援加算について、看護小規模多機能型居宅介護に導入するよう改めて求めた。
日医の江澤委員は、「おむつを外して排せつをすべてトイレでできることをより高く評価してほしい」と要望した。
認知症専門ケア加算の対象を訪問系サービスまで拡大
厚労省は、⑵地域包括ケアシステムの推進について、「認知症への対応力強化」「看取りへの対応」「地域の特性に応じたサービスの確保」について、次の6項目の論点を示した。
認知症への対応力強化
論点①認知症専門ケア加算
認知症専門ケア加算について、訪問系サービスを加算の対象とすることを提案した。 加算を算定していない理由として認知症実践リーダー研修及び認知症介護指導者養成研修の修了者の確保が困難との回答が多いことも踏まえ、eラーニングの活用など環境整備を行うことと、認知症介護指導者養成研修の修了者の配置を満たす資格要件に認知症ケアに関する専門性の高い看護師(認知症看護認定看護師、老人看護専門看護師及び精神看護専門看護師)を加えることを提案した。
認知症専門ケア加算Ⅰの要件では認知症介護実践リーダー研修修了者の配置が、加算Ⅱの要件では認知症介護指導者養成研修修了者の配置がそれぞれ求められる。
複数の委員が賛意を表明した。
論点②行動・心理症状への対応力の向上
施設系サービスやショートステイ、グループホームに導入されている「認知症行動・心理症状緊急対応加算」の対象として(看護)小規模多機能型居宅介護を加えることを提案した。在宅高齢者の緊急時の宿泊ニーズに対応できる環境整備を進めるため。
またBPSD対応に係る事業所の取り組み(研修の受講状況等)を利用者が介護サービス情報公表システムで確認できる仕組みを導入することも示した。 日医の江澤委員は、質の高い認知症ケアを提供する事業所では、職員が馴染みの関係をつくるとともに、利用者の生活歴を紐解きながらケアを行い、BPSDを防いでいくことを説明。「未然にBPSDを防いでいる質の高いケアをより評価すべき」と主張した。
論点③認知症介護基礎研修
介護に直接携わる職員のうち、「無資格者」に対して、一定の経過措置を設けたうえで、認知症基礎研修の受講を義務付けることを提案した。 複数の委員が賛意を表明した。
看取りへの対応
論点④看取りへの対応の充実
看取りやターミナルケアに関する加算の要件又は基本報酬などにおいて、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取り組みを行うことを明示することを提案した。
複数の委員が賛意を表明。全老健の東委員は、「介護老人保健施設における看取りのガイドライン」など団体が作成したきちんとしたガイドラインも認めるように要望した。日医の江澤委員は、ガイドラインの活用について看取りの加算の要件ではなく、運営基準に位置付けるように改めて主張した。
地域の特性に応じたサービスの確保
論点⑤地方分権提案(訪問看護ステーションの人員基準)
地方からの提案を踏まえ訪問看護の人員基準を「従うべき基準」から「参酌すべき基準」に緩和することについて改めて意見を求めた。
また指定サービスの確保が著しく困難な中山間地域等の地域で、市町村が必要と認める場合に、特例居宅介護サービス費が給付されている。この対象地域は自治体の申請を踏まえ、特別地域加算の対象地域と合わせて指定されている。地域の実情に応じた柔軟なサービス提供を可能とする観点から、特例居宅介護サービス費の対象地域と、特別地域加算の対象地域について、それぞれ申請を可能とし、指定を分けて行うことを可能とすることを提案した。
論点⑥地方分権提案(特別養護老人ホームの報酬の設定)
地方からの提案を踏まえ特別養護老人ホームに定員規模別の報酬を設定することについて改めて意見を求めた。
令和2年度介護事業経営実態調査によると、特養の収支差率は定員規模80名以下で低い傾向があることを紹介。一方、定員規模別の報酬設定とした場合、施設の規模により利用者の自己負担額が変わることや、骨太の方針2019等で「介護の経営大規模化・協働化」が目標に掲げられており、地方からの提案は政策目標と逆のインセンティブになることなどを提示した。
論点⑤及び論点⑥に対して、分科会では異論が相次いだ。