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医療保険と介護保険、その微妙な関係を完全に理解するための4つの資料

両者の連携が地域包括ケアシステムの核

医療保険と介護保険は、両者あいまって高齢者のQOLの維持・向上に重要な役割を担っています。高齢で病を抱え、生活に不便を感じている要介護(要支援)の人に対して、さまざまな専門職種が向き合い、その職能を発揮することにより、安心・安全な生活が保たれます。

ひとりひとりの高齢者に向けてのこのような取組が地域で地道に広がることによって、国の政策理念である地域包括ケアシステムはその実質を獲得し、地域の宝・有効な資源となります。地域包括ケアシステムとは、医療保険と介護保険の有機的な「連携」により実現するものと言えるでしょう。

そのためには、在宅医療に携わる方々と介護に携わる方々の相互理解が重要です。とくに、要介護者に深く関わっているケアマネジャーは、医療との連携面でも鍵を握っている存在といえます。在宅医療の流れの中で訪れるさまざまな連携の場面に適切に対応することで、要介護者の療養生活をより効果的にサポートすることができるでしょう。

地域ケアシステムの核となる在宅医療の流れと介護との連携を解説『在宅医療・介護連携 報酬の解釈

両者の役割分担 給付調整という「線引き」

一方で、医療保険と介護保険との間には「給付調整」という名の境目が存在します。

歴史を振り返ってみましょう。
1990年代、平成の初期、介護保険の制度を設計する際、その給付範囲をめぐってはさまざまな議論が行われました。その論点の一つが医療を給付対象とするか否か、するとしたらどこまでを対象とすべきか、ということでした。

結局、それまで医療保険で給付されていた行為(診療行為)の一部が、要介護者等に対して行われる場合には介護保険の給付対象(サービス)とされました。そして健康保険法などには、重複した給付は行わない規定が置かれました。この「介護保険優先の原則」を整えたうえで、介護保険は2000年(平成12年)にスタートしました。

被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給は、同一の疾病又は負傷について、介護保険法の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない

健康保険法第55条第2項

こうした事情から、医療保険と介護保険には、「連携」という互いに結びつく要素がある一方で、「給付調整」により線引き・峻別される側面もあります。そしてその線引きは、すぱっとした直線というよりは、かなり込み入ったギザギザのイメージです。原則と例外、さらには例外の例外…。給付調整とは、簡単に言えば医療保険と介護保険の間の役割分担のことなのですが、それを把握するのは、一筋縄ではないようです。

たとえば、特別養護老人ホームの入所者、介護老人保健施設の入所者、そして介護医療院の入所者は、要介護者という点では共通していますが、それぞれの施設自体が提供する医療の内容の違いから、入所者が外部の医療機関を受診する際に生じる給付調整も別々に定められています。医療機関サイドから見れば、患者が過ごしている施設によって、算定できる項目・できない項目(点数が取れる・取れない)が変わってくるため、しっかり押さえておきたいところです。 


医療保険と介護保険との間の線引きを解説『医療・介護 給付調整ガイド
介護老人保健施設の入所者に対する医療をコンパクトに解説『介護老人保健施設 他科受診の手引き

訪問看護 医療保険と介護保険の双方で大きな役割

このように医療保険と介護保険は、お互いに連携しながらも、それぞれに守備範囲があり、役割分担があります。そのことが最も明確に表れているジャンルが、訪問看護です。

もう一度歴史を振り返ると、訪問看護のしくみが始まったのが1992(平成4)年のことです。当時の老人保健制度の中に設けられたので名称も老人訪問看護となっていました。次いで1994(平成6)年に、老人以外の在宅療養患者にも訪問看護が導入されました。訪問看護の対象者が、まずは老人→次いで老人以外へ、という流れは、現在の「要介護者等への訪問看護は介護保険、それ以外の在宅療養患者への訪問看護は医療保険」という大原則に符合しています。

そもそも、介護保険の構想そのものが「老人保健(老人医療)と老人福祉を再構成し、利用しやすく効率的な社会支援システムを構築する」というものでした。老人保健制度の枠組みの中で育った老人訪問看護(と老人保健施設)が介護保険に移行し、新たにスタートするのは自然な流れだったと考えられます。

一方で、訪問看護は医師の指示の下、看護師等の医療専門職が実施するものであり、要介護者等以外の在宅療養患者に対しては、医療保険の給付対象となります。さらには、「介護保険優先の原則」の例外として、「要介護者等であっても、末期の悪性腫瘍やいわゆる難病患者など、医療ニーズの高い患者は医療保険の対象となる(介護保険からは給付されない)」など、杓子定規ではない、きめ細かな規定が置かれています。

訪問看護は在宅医療と介護の橋渡し役としても重要な役割を果たしています。そのしくみの理解は、看護職だけでなく、在宅医療を担う医師や介護保険の要となるケアマネジャーにも大いに役立つと言えるでしょう。


訪問看護ステーション必携 医療保険と介護保険の関係を徹底解説『訪問看護業務の手引


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