第20回社会保険旬報 地方から考える社会保障フォーラムが開催される(11月20日)
全国の地方議員が参加する、第20回社会保険旬報 地方から考える「社会保障フォーラム」セミナー(主催:地方から考える「社会保障フォーラム」事務局)が11月20日に都内で開催された。セミナーは21日にも続く。 初日の概要を紹介する。詳細は、社会保険旬報にて掲載する予定だ。
既存のネットワークを活用し「消費者安全確保地域協議会」の設置を──伊藤長官
消費者庁の伊藤明子長官は、「地域の未来を創る消費生活」と題して講演した。その中で、消費者トラブルの事例等を提示。2018年の消費生活相談件数は101.8万件で、そのうちおよそ25%を架空請求(25.8万件)が占めている。年齢別の相談件数の割合では、65歳以上が39%、15~64歳が60%となっている。
伊藤長官は、「一番多いのは架空請求だ。注文したことがないけれど『支払わないと訴える』というのがものすごく多い」と説明。主に高齢者が巻き込まれやすいトラブルの事例として上げた。対策の一つとして消費者ホットライン「188」を紹介した。
さらに単身世帯が増えて身近な家族の存在が希薄になっていることから、コミュニティ・地域の重要性を上げ、消費者庁としても、消費生活センターや警察、福祉関係者などによる「消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)」の設置を進めていることを示した。
「孤立している人は狙われやすい。オレオレ詐欺のいわゆる“カモリスト”に載っている」と説明。福祉の支援の対象になっている人は「守られている」ため、被害に遭いにくいが、支援対象の手前の「グレー」の人が被害に遭いやすいとして、見守りの必要性を指摘した。
悪質業者から消費者庁が押収した顧客名簿などをベースに、トラブルに遭う可能性がある対象者の情報を地域協議会に提供することが可能であることを説明。ただ個人情報保護への留意が必要とした。
地域協議会の設置自治体は、1741市町村のうち220自治体、47都道府県のうち15自治体に止まる(10月末までの報告による)。
「福祉、防災など既に地域にはネットワークがたくさんある。コミコミでいい」と述べ、地域協議会は、新規に立ち上げるだけでなく、地域包括支援センターや民生委員などによる既存の福祉のネットワーク等の構成員に、消費生活センターや消費者団体等の関係者を追加することで速やかに構築できることを紹介した。
さらに地域協議会の設置の手続きについて説明。具体的に、庁内会議や関係機関・関係団体等へのネットワーク参加の依頼、地域協議会の設置と要綱の制定を経て、都道府県を通して消費者庁に地域協議会の設置に関する報告するなどの一連の流れを紹介した。その上で、消費者庁に報告された正式な地域協議会でなければ、情報提供ができないことも説明し、地域協議会の設置を重ねて訴えた。
がんとの共生で、仕事と治療の両立支援の重要性などを強調──江浪課長
厚労省がん・疾病対策課の江浪武志課長は、「患者と家族を地域でどう支えていくか─第3期がん対策基本計画に沿って」と題して講演。がんの現状と対策の歩みを紹介したのち、平成30年3月に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」に沿った施策などを説明した。
江浪課長は、がんの現状について、生涯のがんの罹患率は男性では62%、女性では47%となっていることを示し、「日本人の2人に1人が、がんになる」と述べ、「身近な存在。自分の問題」と強調した。
がんの5年相対生存率(全がん)では、1993-96年の53.2%から、2006-08年62.1%と10ポイント以上も上昇しており「すごいこと」としつつ、まだ60%程度であることから対策に取り組むことに意欲を示した。また部位別に生存率が様々でることを紹介。たとえばすい臓がんの生存率は7.7%で低く、身体の奥にある臓器であり、発見が難しいなどと説明し、部位別の取り組みを進めていく必要性も指摘した。
続いて、がん対策の歩みを紹介。特に平成18年6月にがん対策基本法が設立し、その後の改正も経て法律に基づく施策が進められてきたとした。
その上で現在は具体的に「第3期がん対策推進基本計画」に基づき施策が展開されていることを紹介。全体目標は、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」。分野別施策として①がん予防②がん医療の充実③がんとの共生──の3つの柱で進められており、この3つを支える基盤として、▽がん研究▽人材育成▽がん教育、普及啓発がある。
まず①がん予防に関して、早期発見に向けがん検診が実施されているが、エビデンスに基づき、「その検診を受けていただければ、がんで亡くなる人を減らせる」と説明。他方、受診率が低いことなどが課題であることを上げ、がん検診を受ける必要性を訴え続けていく考えを示した。
②がん医療については、「拠点をつくって医療を均てん化して広げていく方策をとっている」と紹介。がん診療連携拠点病院を2次医療圏ごとにつくるなどして、「隅々まで医療を届けていくなどして取り組んでいる」と述べた。さらに緩和ケアについて、身体的な苦痛だけでなく、心理的な苦痛なども含めて対応する重要性をあげ、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」に取り組んでいることを説明した。
さらに緩和ケアには、相談支援や情報提供、就労支援なども深く関わってくるとして、③がんとの共生について言及。「患者をどう支えていくかが重要」と指摘し、現在、がんとの共生に関する検討会でも議論していることを紹介した。
相談支援については、連携拠点病院等の「がん相談支援センター」で対応しているとともに、都道府県健康対策推進事業で補助も行っているとした。
がん治療は長期化することもあり、「治療と仕事を両立できるようにすることが非常に大事。両立支援をしっかりやっていくことが重要」と強調。「仕事とがんの治療の両立お役立ちノート」の活用なども示した。
発達障害等への対応で教育と療育をセットで考える──中島教授
慶應義塾大学の中島隆信教授は「障害者は社会を映す鏡─障害児教育と障害者就労から考える」をテーマに講演した。
中島教授は、障害児教育の問題で、障害者を対象としたある高校では、企業就労につなげることを目指し、職業教育を重視している現状を紹介。1年生時のトライアル実習では、清掃や物流、事務・情報処理などの5コースになっており、「将来の仕事が決定している」と指摘。実際、卒業生の職種の進路も限られている。入試もあり、こうした就業技術科を目指して塾も存在する。
こうしたことから、「一般の子どもと一緒だ。教育の目的は何なんだという問題を、障害児教育は問うている」と訴えた。
他方、大学にも発達障害・精神障害の学生が急増しており、学力はあるが社会性がなく、就職できないケースがあることを紹介。「療育ということが初頭・中等教育で決定的に不足している」と提起した。
こうした教育現場での実情について、中島教授は「発想の転換が求められる」と述べた。ゴールを決めた職業教育について、「その人のできることをすごく制限している。教育はできることを増やしていくこと。障害の仕事ありきの職業訓練は教育だと思わない」と批判し「教育は可能性を広げることだ」と訴えた。
さらに、大学における問題を踏まえ、「教育と療育をセットで考えるべき」と指摘。現場で効果を上げている実践を紹介し、学力を高めていくことに加えて、早期から社会性を身につけられるように療育にも取り組む重要性を強調した。