#4 第4回年金部会「被用者保険の適用拡大」、第5・6回「雇用の変容と年金」の議論を巡って②
第5・6回年金部会「雇用の変容と年金」を巡って
「支給開始年齢」「受給開始可能期間」「受給開始時期」の概念整理で改正議論をブレさせない
編集部:年が明けてしまったようですが、「被用者保険の適用拡大」に続きまして、「雇用の変容と年金」をテーマにご談義いただきたいと思います。このテーマにつきましては、年金部会では第5回、第6回で検討しています。
そこで、年金局が部会に提出した資料を見ますと、第5回では、平均寿命が延びてきたことで、高齢期が長くなってきたことが示され、第6回は、その高齢期において就労する人も増えてくるとともに、働き方も多様化してくる資料が提示されています。
年金部会はこのような議論の流れでしたが、「居酒屋ねんきん談義」では、この2回の部会での議論を踏まえて、第5回と第6回を行き来しながら幅広く「雇用の変容と年金」ということで、ご自由にご談義いただいて結構です。
権丈:そうであれば、まず一番は、11月2日の第6回年金部会に提出された資料1の最初にある「年金制度における「支給開始年齢」「受給開始可能期間」「受給開始時期」の整理」ですね。いつまで経っても支給開始年齢と受給開始年齢の違いがわからない学者、いつまで経っても支給開始年齢の引き上げを書くメディアに対して、厚労省は、もういい加減にしろよっと腹を立てて、この資料を作ってるんじゃないでしょうかね(笑)。年金局自身が、これまで受給開始年齢という言葉を、たとえば「60歳から70歳まで受給開始年齢を選べることができます」というように使っていたのですけど、「受給開始年齢」は少しレベルが高い概念だったのか、学者をはじめ、理解できない人がずっといました。だから、年金局は「受給開始年齢」という言葉を使うのを止めて、これを「受給開始可能期間」と「受給開始時期」の2つに分けますよっ!と宣言した。僕は、2011年ぐらいから「支給開始年齢」と「受給開始年齢」という言葉を使い分けて、これで充分だろうと思っていたのですけど、世間は、思った以上に頭が悪かった(笑)。
権丈:週刊誌なんかは、年金局は支給開始年齢の引き上げを目論んでいるって感じで記事を書けば、PVを稼げるし、読者達の怖いもの見たさで雑誌も売れるから書きたいんだろうけど、支給開始年齢の引き上げなんてバカなことはやるわけがないじゃないかって何度言えばいいのかですね。
藤森:私は2011年ごろに、権丈先生がお書きになられた「日本の公的年金制度は、実質的には60歳から70歳までの間での『受給開始年齢自由選択制』である」という文章を読み、とてもわかりやすい説明だと思いました。
重要なのは、60歳から70歳のどの年齢で年金の受け取りを始めたとしても、平均的な死亡年齢まで生きた場合の「年金給付総額(=年金月額×年金受給期間)」はほぼ同じになるように設定されている点ですね。つまり、65歳より早く受給を開始した場合、65歳からもらい始めた時に比べて、より長い期間、年金を受けとれるものの、年金月額は減額されてしまう。一方、65歳より後に受給を開始した場合は、年金の受け取り期間は短くなるけれども、年金月額は増額されます。換言すれば、年金財政としては概ねニュートラルであり、受給開始年齢を65歳よりも後ろにしたからといって、年金給付総額が減少するわけではありません。なお、「概ねニュートラル」と申し上げたのは、年金給付総額を推計するために設定した死亡率、スライド率、運用利回りは設定時点において最適な見通しとなっていますが、実際の実績はこの前提と少しずつ乖離していくことが考えられるためです。
増額された年金をもらいたければ、できる限り長く働いて、65歳よりも後で受給を始めるという選択肢があります。これは、とても大きいことです。講演会でこのことをお話しすると、「65歳よりも後でもらうようにして、65歳で亡くなったら、損するのではないか」と質問を受けることがあります。しかし、公的年金は保険です。「長生きしても何とか生活していける」という安心感をもちながら亡くなるまで暮らせたのならば、公的年金保険から効用を得ているといえるのではないでしょうか。生涯無事故だった元ドライバーが、「自動車保険に入って損をした」と考えないのと同じです。
編集部:「受給開始年齢の選択」と「支給開始年齢の引き上げ」との違いをわかりやすくご説明いただけますか。
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