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数理の目レトロスペクティブ|#6 財政再計算と制度改正

坂本 純一(さかもと じゅんいち)/(公財)年金シニアプラン総合研究機構特別招聘研究員

 公的年金制度の財政は人口や経済等の社会経済環境の変化の影響を受ける。このため定期的な財政状況の検証が政府に求められてきた。これは、これまでは財政再計算の規定として知られ、昭和29年以来少なくとも5年に一度実施されてきた。
 財政再計算の結果、年金財政の均衡が崩れていると判断されるときには、均衡を回復するための制度改正が行われてきた。この伝統は世界に誇っていい実績だと思う。アメリカでは毎年度財政検証を行うが、財政均衡が崩れていても制度改正はなかなか行われない。

 しかしながら、わが国のこの良き伝統も、度重なる辛口の制度改正により、政治的に難しい運営を迫られることになった。昭和60年改正以降、少子高齢化が予想を上回って進み、財政再計算ごとに給付水準の削減や支給開始年齢の引上げ、保険料率の引上げ等の制度改正が繰り返された。このため、人々の間に①給付がどこまでも引き下げられるのではないか、②保険料率がどこまでも引き上げられるのではないか、という2つの不安感が強くなった。そうした不安を反映して、制度改正法案は常に与野党対決法案となった。平成12年改正の場合、怒号が飛び交う中の強行採決により、法案が可決成立したのである。

 それにもかかわらず平成14年1月に新しい将来推計人口が発表されると、平成12年改正で回復した財政均衡が再び崩れた。このときの政治状況として、従来のように給付水準の削減や保険料の引上げ等により財政均衡を回復する改正を行うことは不可能と判断された。そして、上記の①、②の不安感を払拭するとともに、少子高齢化が進んでも制度改正を繰り返さなくてもいいように、自動的に財政の均衡を回復できる措置を導入する改正が求められた。不毛な政治バトルを避け、少子高齢化の現実にどのように臨むかという、より根源的な議論にエネルギーを向けるためである。こうして平成16年改正では、保険料拠出計画の法定(保険料固定方式)、マクロ経済スライド、給付水準の下限という規定が導入された。また、保険料拠出計画が固定されたため、保険料を決め直すという意味が含まれる財政再計算という言葉は、財政検証という言葉に置き換えられた。

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