介護報酬改定は4月? 6月? 施行時期の議論で対立、基本的な視点案も示される――第227回介護給付費分科会(2023年10月11日)
厚生労働省は10月11日、第227回社会保障審議会介護給付費分科会を開催。
①令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和5年度調査)の結果(速報値)についてのほか、②令和6年度介護報酬改定に向けた、基本的な視点案・介護報酬改定の施行時期に関する議論が実施された。
この記事では、②の議論について紹介する。
人材確保や現場革新は「働きやすい職場づくり」に――4つの基本的な視点案が示される
令和6年度介護報酬改定に向け、厚生労働省から「令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」が示された。
この基本的な視点案は、本年5月以降の計10回の審議、いわゆる第1ラウンドの議論やヒアリングでの意見等を踏まえて整理したもの。
4つの基本的認識と、基本的な認識を踏まえた4つの視点とで構成されている。
具体的には、「(1)地域包括ケアシステムの深化・推進」「(2)自立支援・重度化防止を重視した介護サービスの推進」「(3)良質なサービスの確保に向けた働きやすい職場づくり」「(4)制度の安定性・持続可能性の確保」が求められる中での改定という基本的な認識のもと、(1)~(4)を基本的な視点とする形だ。
令和3年度介護報酬改定時の基本的な視点と対比すると、感染症や災害への対応が「(1)地域包括ケアシステムの深化・推進」に含まれ、介護人材の確保や介護現場の革新に関する内容が「(3)良質なサービスの確保に向けた働きやすい職場づくり」に組み込まれた格好となっている。
この基本的な視点案については、最終的に改定の審議報告の中でまとめていく見込みとなっている。
診療報酬改定6月1日施行をうけ、介護報酬改定の施行時期の検討が俎上に
続いて、「介護報酬改定の施行時期について」厚生労働省より課題や論点が示された。
従来の介護報酬改定では、年末~年明けに改定内容が概ね決まり3月に告示、事業所は4月までにサービス内容や事務の変更に対応し、ベンダもシステム改修を行うスケジュールとなっていた。
一方、8月2日の中医協総会において、医療機関・薬局等およびベンダの集中的な業務負荷を平準化するために、令和6年度診療報酬改定より施行時期を6月1日とすることが了承されていた(薬価改定は例年通り4月1日改定)。
介護報酬改定と診療報酬改定について、その負担等について比較してみると、事業所の職員は短期間でサービス内容や事務の変更に対応する必要がありその負担軽減は共通する。また、訪問看護や居宅療養管理指導など、診療報酬・介護報酬の両方を請求している事業所も一定数ある。
一方で、介護報酬改定では、診療報酬改定と比較すると、情報システム関連業務の負担感が異なり、介護事業所では一部の場合を除き改定時にベンダの職員が現地で改修ソフトの適用作業を実施することがないといった実態がある。
このほか、医療・介護の給付調整や両方のサービスを受けている利用者の存在、令和6年4月を始期とする介護保険事業(支援)計画期間などの現状・課題を踏まえ、次のような論点が示された。
自治体や介護団体などからは4月施行の維持を望む声
議論では、従来通りに4月施行を維持するか、診療報酬改定と揃えて6月施行とするかで意見の対立が見られた。
全国市長会の山岸参考人は、「昨今の物価高騰などの状況を踏まえれば一刻も早く改定することが求められる」とし、また年度計画の策定を求めている処遇改善加算の算定に影響を及ぼすなど、6月施行への懸念を示した。
全国知事会の新田参考人も介護保険事業(支援)計画期間内に複数の介護報酬が設定されることによる、介護給付費見込みや保険料算定への影響を危惧。介護報酬改定は介護保険事業(支援)計画と同じ4月に行うことが望ましいと、慎重な判断を求めた。
全国老人福祉施設協議会の古谷委員も、事業所の多くは介護報酬と診療報酬を同時に請求していないとして、4月施行が望ましいとの見解を示した。また、日本労働組合総連合会の小林委員も、施行時期を遅らせる理由について「ちょっと理解できません」と、その必要性について疑問を呈した。
民間介護事業推進委員会の稲葉委員は、時期をずらすことでシステム改修費用の削減効果があるのかを確認。厚生労働省は「契約方式による」ことから削減効果に関する回答は難しいとしたものの、「ベンダの情報システム関連業務の負担は軽減される」との認識を示した。
医療側は6月同時施行を求める、10月からの検討に「唐突」の声も
一方、診療報酬と関連する医療系の委員からは、6月の診療報酬との同時施行を求める声が相次いだ。
全国老人保健施設協会の東委員は、LIFEが導入されたことによるベンダ・現場負担を強調。医療と横並びとなる6月施行を求めた。
日本慢性期医療協会の田中委員、日本薬剤師会の荻野委員も施行時期が診療報酬改定とずれることによる、利用者への説明を行う現場責任に言及。現場の混乱を防ぎ利用者への負担も軽減する6月施行を主張した。
日本医師会の江澤委員は、時期をずらすことにより医療と介護の連携に支障をきたすことを懸念。「診療報酬改定が6月施行と決まった以上は介護報酬改定も6月施行以外はあり得ない」と強調した。
こうしたなか、健康保険組合連合会の伊藤委員は、診療報酬に関しては長期の議論を行ったうえで施行時期をずらした経緯に触れ、10月に入ったこの段階でこうした議題が提示されることに関し、「正直、唐突感といったものを感じている」と言及。
医療と比べるとベンダ負担は多くなく、介護に関する各種計画や制度改正が4月であることを踏まえ、こうした制度変更に伴う影響なども十分に精査した上で、慎重な検討をお願いしたいと述べた。
次回第228回介護給付費分科会は、10月23日(月)の午前開催を予定となっている。