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#33|がんによる精神障害


 障害年金請求における初診日の考え方は、異なる傷病名であっても、その傷病間に相当因果関係があれば一括りの傷病として取り扱い、その括りの中で初めて医療機関を受診した日を初診日とします。これは、以前からも述べているところです。

 傷病間の相当因果関係は、医学的な知識も必要なことから、なかなか判定が難しいところですが、主に、障害となっている部位に大きなダメージを与えた傷病は、その障害と相当因果関係があると言えるでしょう。

 では、精神の障害の場合はどうでしょうか。感情を司る脳機能が正常に動作しないことにより精神の障害は発症しますので、直接的に脳にダメージを与える脳梗塞や低酸素脳症等は相当因果関係があります。

 しかし、実際には、何らかのストレスを抱えることにより、脳機能が正常に動作せず精神の障害を発症することのほうが多いでしょう。ストレスと聞くと、まず思いつくのは対人関係ですが、中には精神以外の傷病を患ったことによりストレスを抱え、精神の障害を発症するケースもあります。

 今回は、がんという重い病気を患ったことにより、精神の障害が発生してしまった事例を検証します。

1.初診日の特定

 うつ病の初診日は、その主症状が出て初めて精神科を受診した日ですので、今回の事例で言えば、GA総合病院内の精神腫瘍科を初めて受診した日がまず候補にあがります。

 精神腫瘍科とは、がん患者本人やその家族に対して精神的なケアをする科であり、精神保健指定医も同科に所属していることから、がん専門の精神科と言ってよいでしょう。精神腫瘍科を初めて受診した日は「令和5年1月24日」ですから、相談日(令和6年7月20日)において、まだ障害認定日を経過していないこととなります。

 しかし、相談者に伺ったところ、乳がんになる以前に、精神科等を受診したことはなく、うつ病などの精神疾患の症状も全くなかったとのことでしたので、本事例のうつ病は、がんに罹患したという憂いと、抗がん剤治療の副作用がストレスとなって発症したことは明らかです。つまり、「乳がん」と「うつ病」との間には相当因果関係があるということになります。

 このことから、乳がんにより初めて医療機関を受診した「令和4年11月15日」を初診日として特定しました。その日において、厚生年金に加入しておりますので、障害厚生年金の請求となります。また、納付要件も、直近1年間に未納がありませんのでクリアしています。

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