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人口問題をめぐる断想(中村秀一)

霞が関と現場の間で

50年前の入省研修で

私が1973年に厚生省に入省した際、3週間の初任者研修があった。その内容はほとんど覚えていないが、人口について講義があり、講師が「人口はすべての基本」と力説したことは記憶に残った。なるほど、最初の厚生白書(1951年刊)も序章は「わが国の人口問題と社会保障」であった。

現在勤務している国際医療福祉大学では、赤坂キャンパスで公開講座「乃木坂スクール」を開設している。筆者の企画で2020年から「社会保障を分析する」という15コマのオムニバス形式のコースを設けたが、冒頭の2コマは二人の人口の専門家による講義を置いている。入省時研修の教えの実践である。

新将来推計人口

人口といえば、5月の連休の前に新しい将来推計人口が公表された。2017年公表の前回推計以降、合計特殊出生率は低下傾向にある。今回推計で人口減少がどの程度進んだものになるか、公表時期がコロナ禍で予定より1年遅れとなったことも重なり、まさに固唾を呑む思いで待っていた。

今回推計の結果は出生率は前回の1.44から1.36に低下するものの、「人口減少の速度はわずかに緩む」という意外なものであった。前回推計で8808万人とされていた2065年時点の人口は、今回推計では9159万人であり、1億人割れする時期は2056年で前回推計より3年遅くなるというのだ。

これは、日本に来る外国人が前回推計と比較して大幅に増加すると見込んでいるからだ。外国人は現在の275万人から2070年には938万人に増加し、外国人の総人口に占める割合は2.2%から10.8%に拡大するという。問題は、日本にそれだけの外国人が来るか、日本社会がそれを受け入れられるかだ。

スウェーデンの人口増加

ここで私はかつて勤務したスウェーデンのことを思う。当時(1980年)の同国の人口は830万人であった。それが2020年には1037万人となり、40年間で24.8%の増である。この間の日本の人口は7.7%増であり、両国の格差は大きい。

スウェーデンで「外国生まれ」の人口は1980年当時でも7.5%と高率であったが、2020年には19.7%まで上昇している。また、「外国に関係する人口」(スウェーデンで生まれたが両親が外国生まれである人口)は25.9%であるという社会だ。

スウェーデンの高齢化率は、当時16.4%で日本(9.1%)を大きく上回っていたが、現在は20.1%とわずかの上昇でとどまっている。28.6%へ急上昇した日本と比べるとほとんど横ばいだ。果たして日本社会はどれだけスウェーデン型に近づけるのだろうか。

(本コラムは社会保険旬報2023年6月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授。1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

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