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#20 公的年金と制度の分立

坂本 純一(さかもと じゅんいち)/(公財)年金シニアプラン総合研究機構特別招聘研究員
1975(昭和50)年東京大学大学院理学系研究科数学専門課程修了(理学修士)、厚生省に入省。99(平成11)年年金局数理課長。2004(平成16)年年金改正で数理を担当。同年厚生労働省退官、野村総合研究所などを経て現職。

「数理の目レトロスペクティブ」は、『月刊 年金時代』(社会保険研究所発行)に2007年6月号から2017年3月号まで118回にわたり掲載された「数理の目」(坂本純一著)に、必要に応じて加筆・修正を加え、著者自身が今の視点でコメントを加えた企画です。(年金時代編集部)

 公的年金には強制加入という基本原則がある。公的年金の目的は、老齢、死亡、障害による所得の喪失という人生における経済リスクに遭遇した人に給付を行うことによって、この人が困窮化しないようにすることである。また、強制加入の原則は、その給付を社会全体で支えるという考え方に由来している。 

 このような社会保険の仕組みが各国で導入されているのは、産業革命以来、都市部で発生した個人の責任によらない貧困問題を解決するために行われた試みのうち、自由市場を基本とする経済体制下でビスマルクが行った社会保険の試みが、最も効果的であると判断されているからである。
 恐らく人類が今のところ到達している困窮化を防ぐための最良の知恵であろう。人々は強制的にこの所得移転の仕組みに参加させられるが、自らが人生における経済リスクに遭遇したときには財産の多寡にかかわらず権利として給付を受けることができる。その給付には差別感情が伴わない。

 公的年金のこのような原則を考えると、公的年金にはさらに次のような原則を伴うことが分かる。すなわち、すべての国民が所得に応じて同じルールで負担をし、人生における経済リスクに遭遇したときには同じルールで給付を受け取るという同一給付・同一負担の原則である。そうでなければ強制加入の制度でありながら、公平ではなくなるからである。

 しかしながら歴史的にはこのような理屈どおりに制度が展開しないのが通例である。多くの国でまずは公務員(官吏)のための年金制度が導入され、次いで被用者のための年金制度、最後に自営業者の年金が定められるという経過をたどっている。特に公務員(官吏)の年金制度は「恩給」という名前に表れているように、年金制度というよりも終身の奉職に対する給与の一形態というニュアンスが強かった。

 このため公務員(官吏)には人生における経済リスクによる所得の喪失という事態が無いと想定され、社会保険の適用から除外されるのが通例であった。このようなプロセスをたどるために、適用される制度により負担と給付が異なるというのが普通の姿となった。ドイツやフランスはその典型である。わが国の制度もこのようなプロセスをたどっているため、国民皆年金となった1961年ごろは多くの制度に分立していた。

 その後わが国では官民格差論が盛んになり、また鉄道共済年金のように産業構造の変化による影響を受け、財政状況が悪化する制度が出てきたために、公的年金制度の一元化が進展していったが、その結果、現在では諸外国と比較して公的年金制度としての公平化は相当程度進んでいると思われる。
 現在(2009年1月当時)国会に提出されている被用者年金一元化法案が成立すれば、被用者間での公平化が実現することになり、強制適用が基本原則である公的年金の趣旨が徹底されることになる。一方で、公務員年金には、公務員に課せられている制約に対する報酬を含む性格があったが、この部分は職域年金において検討されるべき事項であろう。この点については次回で触れたいと思う。

[初出『月刊 年金時代』2009年1月号(社会保険研究所発行)]


【今の著書・坂本純一さんが一言コメント】

 今回は、被用者年金制度の一元化がもたらした「光」の部分を考えてみよう。「光」の部分は大きく3つある。

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