謎の新興国アゼルバイジャンから|#27 マクロ・ミクロ両面から公的年金制度を考える その3
(承前)
前回、マクロ経済スライドの基本的仕組み、その考え方、そして「マクロ経済スライド導入後の公的年金制度」においては支給開始年齢引き上げの議論は―年金財政の安定・持続可能性という観点からは―もはや意味をなさなくなった、ということをお話ししました。
今回は、「マクロの公的年金制度の安定」ではなく「ミクロの公的年金制度の機能維持―公的年金による老後所得保障機能の維持」という観点から、公的年金制度について考えてみたいと思います。
その前に、いつものように近況報告。
5月28日は「共和国記念日」。この国のナショナルディでした。
1918年5月28日、ロシア革命によって帝政ロシアが倒れた際、この国は一度独立を果たしました。
「アゼルバイジャン民主共和国 Azerbaijan Democratic Republic」。わずか23ヶ月しか存在できなかった共和国ですが、以前にお話ししたようにイスラム世界で最初の共和国であり、普通選挙、婦人参政権など当時の西欧諸国も実現できていなかったような制度を持つ先進的な共和国でした。
アゼルバイジャンの人たちにとって、この共和国は文字通り「民族の誇り」であり、建国の日である5月28日は現在のアゼルバイジャン共和国の建国の日(1991年10月18日、こちらは「独立記念日」と言います)よりも大事な記念日になっています。
今年は「建国100周年」ということで、例年以上に盛大な記念式典が開催されました。
ミクロの年金保障―年金額を維持するための改革とは
マクロ経済スライドの導入によって公的年金財政は安定しましたが、給付水準は少しずつ引き下げられていきますから、マクロの制度は維持できてもミクロ、つまり個々の受給者にとっての年金の所得保障機能は縮小していきます。そして当然ながらマクロ経済スライドによる調整が長期化すればするほど給付水準はより大きく低下します。
なので、この制度導入後の公的年金制度の課題は、ミクロの給付をいかに守るか、つまりマクロ経済スライド調整期間をいかに短くするか、ということになります。
そもそもこの「マクロ経済スライド」、永遠にやりつづけるものではありません。公的年金財政の長期的収支が確保できればそこで終わりになります。端的に言えば前回の図でお示しした「胸突き八丁」を乗り切るための仕掛けです。
前回(2014年)の制度改正で、マクロ経済スライド措置をさらに徹底させる改革を行いました。マクロ経済スライドには「下限措置―名目給付額を下回ってまでは調整を行わない―」が設けられており、マクロ経済スライド調整率が物価スライド率を上回った場合には、現在支給されている額までの調整に止める、つまり「完全発動」しない、というルールがあります。
これまでは、この「未調整部分」はそのまま先送りされていましたが、前回改正で、「下限措置」は撤廃しないこととしましたが、その未調整部分は「翌年度以降に繰越し」をすることとし、次年度以降のスライド調整に際してその分を加算して調整することとしました。また、現役世代の賃金との関係では、賃金の伸びが物価の伸びを下回る場合には、負担と給付の長期的均衡を保つため、賃金に合わせて年金額を改定するという考え方を徹底する措置も講じました。
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