プロが伝える労働分野の最前線 #27~31
(こちらは2022年5月17日~9月15日に「Web年金時代」に掲載したものです。)
#27 同一労働同一賃金の近況① ~全面施行から1年経って~
同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指して導入された同一労働同一賃金ですが、関連する改正法が全面施行されてからこの4月で1年が経過しました。
▶パートタイム・有期雇用労働法:大企業2020年4月1日、中小企業2021年4月1日より施行
▶労働者派遣法:2020年4月1日より施行
働き方改革の施策の目玉のひとつとして、最初の施行日である2020年4月1日の前後には、報道も増えることも相まって、大きなムーブメントが起こることが予想されました。
当時の、旧労働契約法20条に基づく、有期雇用労働者についての最高裁判決の報道の注目度を見ても、労使ともに、同一労働同一賃金の導入に高い関心が集まっていたと言えます。
我々社労士業界も、法改正に向けた審議会での議論のころから準備を始め、顧問先へのコンサルティングなどを通じて、法施行に向けた実務的な作業を進めていたところです。
ところが。
2020年4月1日前後は、どのような時期だったか覚えていますでしょうか。
そうです。新型コロナウイルス感染症の広がりによって、2020年3月24日には、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定し、外出制限などが議論され、ついに4月7日に7都府県に緊急事態宣言が発せられるという状況でした。
過去に経験のない状況になり、働き方改革に関する報道はほとんど見られなくなり、同一労働同一賃金についても、話題にならなくなりました。
一方、通勤自粛や子供の休校等によるテレワーク、3密回避のための時差出勤、休業状態からの収入確保のためのギグワークなどの副業・兼業など、働き方改革としての側面ではなく、そこに掲げられたメニューが新型コロナウイルス対策として実施・推進されていき、実際的な働き方が大きく変わりました。
このようにして、同一労働同一賃金は静かに施行日を迎えました。
さらに、大企業への施行の翌年である、昨年2021年4月1日の中小企業へのパート・有期雇用労働法の施行も前年ほどではないにしても、あまり大きな話題とはならなかった印象です。この時は、70歳までの就業に関する法改正(高年齢者雇用安定法の改正)のほうが注目が大きく、労務相談の現場でも多く取り扱われました。
そのように始まった同一労働同一賃金ですが、労務相談の現場での近況をご紹介します。
同一労働同一賃金の近況
当法人の顧問先への対応について、端的に言ってしまえば、「同一労働同一賃金への対応のコンサルティングは終了」しているという状況です。
これは、企業が法律に沿って制度の変更などの対応を完了しているのかと言えば、そうではありません。どちらかと言えば、そういった制度の変更などを伴う対応を完了しているところは少数です。だからと言って、未対応・法違反の状態のままに放置しているわけでもありません。
この状況を生んでいるポイント
ひとつには、法律のタイプが関わっています。
例えば、同じく働き方改革関連法改正の目玉のひとつである「年次有給休暇5日取得義務」や「時間外労働の上限規制」といった労働基準法の改正では、新たに使用者の義務とされたことを実施しなければならない、できなければ法違反となる、というように、やらなければならないことが明確です。よって、対応できているかできていないかはっきりします。
一方、パート・有期雇用労働法の同一労働同一賃金は、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消」しなければならないとされていますが、何が「不合理な待遇差」となるかはそれぞれの職場の状況によって異なり「解消した」と言えるラインの設定は、原則として企業の労使の自治によろう、という考え方にたっています。
したがって、次のような企業は対応の必要もありません。
もし、同一労働同一賃金にまったく手を付けていないようであれば、まずは上記の①~③に該当するかどうかを検証してみてください。
これらに該当すれば、特に対応の必要がありません。ただし、将来にわたって考えなくてよいというわけではなく、新たに非正規雇用労働者を雇入れた場合や、新たな職務を与えた、正規雇用労働者の待遇を変更した(待遇の差の状況が変わった)などの場合は、その都度、検証が必要です。
さて、問題は次です。
このうち、⑤の対応への考え方は簡単です。
待遇差をなくす(②にする)か、明らかに不合理ではないという状況にする(③にする)かの対応をすればよいからです。
残ったのは、④の「非正規雇用労働者を雇用していて、正規雇用労働者とは待遇差があり、不合理でないと言えるか分からない」です。
これも、②や③へ持っていければそれがよいのですが、持っていけるものはすでに、対応済みであろうと思います。
つまり、④のままの状態で保たれているのが、現状と言えます。
これが、前述の「同一労働同一賃金の近況」の実際です。
労使の自治による、というと、積極的に労使によって協議がなされ、制度の変更や新設などにつながるようなイメージもありますが、これは、「労使の自治によって、あいまいさを保っている状況」であるのです。
この状況を生んでいるポイントはもうひとつあります。それについては、次回、ご説明したいと思います。
#28 同一労働同一賃金の近況② ~人事制度の根底にあるものと位置づけよう~
前号では、現在の状態について「非正規雇用労働者を雇用していて、正規雇用労働者とは待遇差があり、不合理でないと言えるか分からない」状態、
つまり、あいまいさがある状況を労使の自治によって保っている状態というお話をさせていただきました。
それが保たれている理由のひとつとして、コロナ禍の働き方を挙げました。
【前号】同一労働同一賃金の近況① ~全面施行から1年経って~
今回は、もうひとつの理由である「人事労務の場面で、同一労働同一賃金を優先して議論する必要がなくなってきた状況」について、述べてみたいと思います。
活躍の舞台が変わってきた
前号では、法改正の公布後、施行前までは盛んに行っていた「同一労働同一賃金への対応のコンサルティングや労務相談は終了していきました」と書きましたが、同一労働同一賃金が全く語られていないかといえばそのようなことはありません。むしろ、常に話題にしているのが、最新の状況です。
言葉遊びのようになってしまいますが、同一労働同一賃金コンサルティングという舞台はなくなったので、同一労働同一賃金を主役として話題にすることはほぼなくなりました。しかし、広く人事制度や賃金制度などのコンサルティングや労務相談の舞台で、ひとつの検討要素として、引き続き存在しています。
最新の状況
当法人では、多くの社労士事務所と同じように、相談や手続き・給与計算代行など、継続的にお客様とお付き合いをさせていただく顧問契約を基本としています。顧問契約を結んでいただくお客様のニーズはさまざまですが、この1年は、特に、人事制度の整備(改定)を希望されてお付き合いを始めるケースが圧倒的に多くなっています。
例えば、次のようなものが挙げられます。
・コロナとの併存において臨時的に導入したテレワークや時差出勤などの制度を、どのようにしてコロナ後を見据えた恒久的な制度にすればよいか
・働き方改革関連の法改正への対応は済ませたものの、管理職の位置づけや役割がより労務管理上重要になってきていて、評価制度や登用制度を新しくしなければならないが、どのようにすればよいか
・長期的な人手不足から、採用力強化や定着率向上のため若手社員の賃金に重点を置いていかなければならない事情と、一方にある高年齢者の雇用継続や就業機会確保のための雇用体系の見直しなどと、どのようにバランスをとればよいか
・大企業を中心に導入が始まっているというJOB型雇用制度をどのように考えていけばよいか
・老後の不安が高まる時代にあって、政府の推進する確定拠出年金など退職金制度をどのように魅力的なものにしていけばよいか
いずれも、働き方の変化やそれに伴うライフプランの多様化など、これからの時代のものに変えていく必要があるという点が共通項と言えます。
これらのニーズから、人事制度関連のコンサルティングが活況となっていますが、このような動きの中で、同一労働同一賃金の考え方は、必ず取り上げられる検討要素として位置づけられています。
つまり、多様な働き方に対応した制度整備は、同一労働同一賃金の考え方によって整理していくことが、有効な手法のひとつとなっているのです。
正規雇用労働者の待遇の検討に活用
これは、必ずしも法改正が求めた正規雇用労働者と非正規雇用労働者との比較にとどまりません。
正規雇用労働者間の待遇であっても、多様な働き方が広がってくると、それぞれの差が適切かどうかを検討しなければならないからです。
同じ職種であっても、テレワークと出社しての働き方とで、求める仕事の内容に差ができることがあります。出社しての仕事には雑務と呼ばれるものも含まれがちです。果たして、両者の待遇は同じでよいのか、変えるとすれば何を基準に評価すればよいのか、といったことです。JOB型の人事制度の導入の議論においては、職務の分析が必要になりますので、まさに同一労働同一賃金への対応の手法で考えていかないといけません。
このようにして、同一労働同一賃金は、人事制度などの「ゴール」というような位置づけではなく、整備・運用してくための「手段」としての位置づけに(本来そういうものであるはずですが)、落ち着いてきたと言っていいでしょう。
同一労働同一賃金の対応状況を整理
前号では、次のように同一労働同一賃金の対応状況について分類しました。対応の要・不要を追記するとこうなります。
①非正規雇用労働者を雇用していない➡対応不要
②非正規雇用労働者を雇用しているものの、正規雇用労働者とは待遇差が存在しない➡対応不要
③非正規雇用労働者を雇用しているものの、正規雇用労働者とは職務が明確に違うなど、待遇差はあっても、不合理と言えるものは明らかに存在しない➡対応不要
④非正規雇用労働者を雇用していて、正規雇用労働者とは待遇差があり、不合理でないと言えるか分からない➡要検討
⑤非正規雇用労働者を雇用していて、正規雇用労働者とは待遇差があり、明らかに不合理でないと言えない➡要対応
上記のうち、⑤については法改正への対応が必要ですので、次のガイドブックを参考にアクションを開始しましょう。
【参考】同一労働同一賃金実践ガイドブック ~法改正をチャンスに変える~
④については、直ちに対応は必要ありませんが、次の人事制度の整備や改定の際には、忘れずに検討に加えましょう。
ところで、派遣労働者については……
これまでの話題は、短時間労働者または有期雇用労働者についての現在の状況に関するものでした。
同一労働同一賃金の法改正では、同時に、労働者派遣法においても、派遣労働者と正規労働者との待遇差について、対応を求めています。
特に派遣労働者については、厳密に運用できているか、厚生労働省の都道府県労働局による調査や指導が厳しく行われていることに注目すべきでしょう。
同じ同一労働同一賃金の法改正でも、労働者派遣法の場合は、「こうしなければならない」というラインが明確に示されています。それによって、そのラインをクリアしているかどうかの判定が明確になり、国としても達成できているかどうかの確認を、強化しています。
さらに、そのライン自体がたびたび変動するものであるために、その変動の都度、派遣元企業は、派遣労働者の待遇を新しいラインを上回るものに変更していかなければならず、言い換えれば、変更対応の漏れが起きやすい状況があり、これも国が確認を進めていきたいといった状況を生んでいます。
労働者派遣法の同一労働同一賃金への対応は、労使協定方式か、派遣先均等・均衡方式かを選択できます。前者であれば、クリアしなければならない「水準」が毎年改定されるので、自社の待遇がそれを上回っているかを確認し、必要があれば待遇改善しなければなりませんし、後者であれば、派遣先の企業が自社内の待遇を変更するたびに、それに応じて改定しなければなりません。複数の派遣先があれば、それぞれに対応しなければならないということになります。
派遣元企業は、このような対応業務を例年のルーチンとしなければなりませんし、現在の制度が、このようなたびたびの改定に対応しやすいものでないとすると、制度自体の再整備も検討しなければならないかもしれません。
まとめ
今回ご紹介したように、非正規雇用労働者と正規雇用労働者との比較の場面に限らず、非正規労働者同士や、正規労働者同士の待遇の検討の際にも有効な手法として、同一労働同一賃金を位置づけていただければと思います。
#29 男女の賃金の差異の情報開示が義務化 ~誰もが働きやすい社会への第一歩に~
男女の賃金差異 情報開示義務化へ
「働き方改革」のひとつ、すべての女性が輝く社会の実現にともない、令和4年4月より女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大、社会保険適用の拡大など様々な施策が実施されています。
そして、令和4年7月8日、女性活躍推進法に関する制度の改正がなされ、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、男女の賃金の差異の情報開示が義務化されました。
女性活躍・男女共同参画の重点方針2022 4つのトピック
6月3日に決定された「女性版骨太の方針2022」(女性活躍・男女共同参画の重点方針2022)では、以下4つのトピックが発表され、特に1.女性の経済的自立のうち、
「男女間賃金格差への対応」が大きな注目を集めました。
男女の賃金格差 諸外国と比較して日本は大きい
男女間の賃金格差は世界共通の問題となっており、イギリス、ドイツ等でも様々な施策がとられています。しかし、日本は欧米諸国に比較して格差が大きいことが現在、問題視されています。
このような背景により、女性活躍推進法に関する制度の改正がなされ、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、男女の賃金の差異の情報開示が義務化されました。
男女の賃金差異 情報開示のポイント
情報開示のポイントは以下の通りです。
1.対象は常時雇用する労働者 301人以上の事業主。101人~300人の事業主については、その施行後の状況等を踏まえ、検討される。
2.男女の賃金の差異は、絶対額ではなく、男性の賃金に対する女性の賃金の割合で開示を求める。加えて、同様の割合を正規・非正規雇用に分けて、開示を求める。
3.計算方法は、次の通りとする。なお、男女で計算方法を異なるものとしてはならない。
賃金台帳を基に、正規雇用労働者、非正規雇用労働者、全労働者について、それぞれ、男女別に、直近事業年度の賃金総額を計算し、人員数で除して平均年間賃金を算出する。その上で、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して100を乗じたもの(パーセント)を、男女の賃金の差異とする。
4.男女の賃金の差異の開示に際し、説明を追記したい企業のために、説明欄を設ける。
例えば、自社における男女間賃金格差の背景事情。女性活躍推進の観点から、女性の新卒採用を強化した結果、前年と比べて相対的に賃金水準の低い女性労働者が増加し、男女間賃金格差が前事業年度よりも拡大した、といった事情がある場合には、その旨を追加情報として情報開示する。
5.初回の公表については、令和4年7月8日以後に終了する現在の事業年度について、当該事業年度が終了し、新たな事業年度が開始してからおおむね3か月以内に公表すること。
例:令和5年3月末に事業年度が終了する事業主→おおむね令和5年6月末までに
6. 情報開示は、連結ベースではなく、企業単体ごと。
7. 国・地方公共団体についても同様に女性活躍推進法に基づく開示を行う。【内閣府、金融庁、厚生労働省、全府省】
どう活用するか
男女の賃金の差異の情報開示、なかなかにインパクトのあることだと思います。
企業は、情報開示に向け準備をするとともに、これによってどんな影響があるかを考えましょう。開示する情報は、男性の賃金の平均に対する女性の賃金の平均を割合(パーセント)で示したもの、つまり結果だけです。しかし、計算の過程や結果で見えてくるその差の原因、例えば、女性の管理職が少ないから、女性の早期離職が多いから、などを確認し、その原因を解消する次のアクションを考えていきましょう。
男女の賃金差異 情報開示の影響
男女の賃金の差異の情報開示の影響には、社外的影響と、社内的影響があると考えます。
社外的には、なんといっても採用への影響です。
近年の人材不足において、優秀な人材を採用できるかどうかは企業が生き残るための喫緊のテーマです。
応募者は、希望する企業がどんな企業かを事前によくよく調べるもの。筆者が一般企業に勤め採用に携わっていたときには、OB訪問や一次面接などで、女性が活躍しているか、産休・育休をとっても働ける環境にあるか、の実際のところをお聞かせください、と熱心に質問されたものです。当時は「○○部には活躍している女性が多いですよ」「最近は出産後も働き続ける人が多くなっています」などと答えたものですが、もしもこれが「ズバリ男女の賃金差異はどのくらいですか?」「またその原因は?」と聞かれたら、どんな風に答えたでしょうか。なかなか厳しい質問だ、と思ったことでしょう。
社内的には、モチベーションの変化、が考えられます。
「あまり差がないな。うちはやはりよい企業だな」ならいいのですが、「管理職に占める女性の割合は多いのに、なぜうちは男女で賃金の差がこんなにあるのだろう?」というようなギャップがある場合には、モチベーションが下がる原因になりかねません。
ギャップを確認するため、情報開示前に社員にヒアリングしてみるのも一案です。我が社の女性社員の平均賃金は、男性社員を100とした場合どの程度だと思うか、とその理由を聞いてみるのです。他の社員の賃金額そのものはわからないと思いますが、役職や部署、勤続年数等よりイメージはつくもの。もしかしたら、ヒアリング結果は、部署や勤続年数で大きく違うかもしれません。またヒアリング結果は、実際の男女の賃金差異がどのようなインパクトをもって、社員に影響するかのヒントになるでしょう。
今後の動き
今回の男女の賃金の差異の情報開示義務は、労働者 301人以上の事業主ですが、今後は、101人~300人の事業主についても義務化される流れになるでしょう。今から、300人以下、または100人以下の企業であっても、男女の賃金差異を計算し、情報開示するのもよいと思います。
賃金差が平均より小さければ、「女性でも男性と賃金の差がなく働くことができるいい会社なのだな」と、義務ではない情報開示をしたことで、「開かれたよい会社だ」「先進的な会社だ」と、就活中の人や現在自社で働いている社員へ好印象を与える効果もあります。
男女の賃金差異 情報開示の意義
男女の賃金の差異の情報開示義務化については、平均賃金では意味がない、という意見もあるようですが、私は「小さな一歩だが大きな一歩だ」と考えます。
女性がイキイキと働ける環境は、今後、年齢や性別等で差別されることなく、誰もが自分らしく働く成熟した社会への第一歩と言えます。
情報開示義務を前向きなものとして捉え、自社は誰もが働きやすい会社かどうかを考え、アクションするきっかけにしていきましょう。
#30 どうする? テレワークの人事評価
企業のテレワーク実施状況は
2022年6月、NTTグループがテレワークを基本とする新たな働き方を導入すると発表し、報道でも大きく取り上げられました。
同社はこれまでもテレワーク制度やフレックスタイム制、サテライトオフィスの拡充等により、社員の働く時間や働く場所の自由度を高めてきましたが、2022年7月からさらに日本全国どこからでも働くことを可能にする制度が導入されることになります。
これにより勤務場所は「社員の自宅」となり、会社への通勤圏に居住する必要がなくなりました。出社する場合は通勤ではなく移動となり、交通費が支給されます。飛行機代も出るとのことです。
少子化により人材確保が難しくなる中、企業価値を高め優秀な人材を全国規模で確保するのがNTTの狙いのひとつと推測されます。
一方、コロナ禍でテレワークにしたものの、今年になり出社回数を増やす企業も多くあります。米グーグル社では、2022年4月、テレワークを幅広く認める期間を終え、出社とテレワークを組み合わせる「ハイブリッド型」に移行させました。現場主義を大切にしているホンダは5月から原則週5日出社に戻しています。
2022年5月の都内企業のテレワーク実施状況について、東京都による調査結果は以下のとおりです。
1.都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は56. 7%。4月の前回調査(52.1%)に比べて4.6ポイント増加。
2.テレワークを実施した社員の割合は45.3%と、前回(45.6%)に比べて0.3ポイント減少。
3.テレワークの実施回数は、週3日以上の実施が47.6%と前回(47.8%)に比べて0.2ポイント減少。
企業の方針により頻度の差はあれ、テレワークができる業種では定着してきている状況と考えられます。
テレワークだと人事評価が難しい?
弊社の多くの顧問先においても、テレワークを実施しています。その顧問先から「テレワークで部下の姿が見えない中、どう評価をすればよいか」というご質問をいただくことがあります。本稿では、私たちのアドバイスのポイントをお伝えしていきます。
テレワークにおける人事評価のポイント
上司が部下を評価するというプロセスの中で重視すべきポイントを挙げてみます。
①こまめなコミュニケーションにより目標の達成状況を確認する
②個人目標や会社の期待する成果を明確にする
③業務の見える化をする
①こまめなコミュニケーションにより目標の達成状況を確認する
会社の人事評価の状況でよく耳にするのが、目標の放置です。
期首に目標を立てたものの、上司も部下本人も期中に目標を意識することなく過ごし、期末の評価面談の時期になってあわてて目標を確認していませんか。できれば1週間に1回、それが難しいなら2週間に1回、20~30分程度オンラインで面談を実施し、目標の達成状況を確認することをお勧めします。
かつて流行した「レコーディングダイエット」をご存じでしょうか。岡田斗司夫氏が著書「いつまでもデブと思うなよ」で紹介したダイエット法で、自身が摂取した食物とカロリーを記録する手法です。
現実と直面すれば、行動変容が促される。これは仕事においても共通します。自立的に働ける部下であれば、目標の達成状況を確認するだけで、次にどうすればよいか考え、行動することができるかもしれません。まだ自立的に働けない部下であるならば、面談が目標と現実のギャップを確認し、軌道修正を一緒に考える場となるでしょう。
日頃からコミュニケーションをとり信頼関係を築いておくと、ネガティブな指摘をしなければならない場面でも受け入れてもらいやすくなります。また面談時に、目標達成までのプロセスをエピソードとともに部下に語ってもらうようにすると、結果だけでなくプロセスの評価もしやすくなります。
②個人目標や会社が期待する成果を明確にする
目標の達成度合いや成果を全部数値化することは難しいかもしれませんが、「何をいつまでにどのくらい」等具体的に表現させることを意識しましょう。
頑張る方向性が明確になれば部下は行動しやすくなりますし、上司は達成状況の確認がしやすくなります。
また個人の目標がいくら素晴らしくても、会社の目標につながらなければ意味がありません。会社の目標から部門の目標を作成し、部門の目標が個人の目標とリンクするように、上司は部下を導くことが必要です。
③業務の見える化をする
業務が適切に進んでいるかを確認するため、1日の初めに「本日のタスク報告」、1日の終わりに「タスクの進捗報告」をしてもらいます。テレワークの開始・終了の報告も含みます。
また弊社では、オンライン上の掲示板を用い、積極的に業務の見える化に取り組んでいます。例えば個々のプロジェクトの掲示板を始め、ミスの共有掲示板、ディスカッション用掲示板、質問用掲示板等があり、関係者だけでなく社員全員にオープンに情報共有しています。
オープンにすることにより様々なプロジェクトの様子がわかり、個人の貢献度も見えてきます。前提として、悪い情報もオープンにし、次に生かしていこうという意識づくりが大切ですが、よい情報も悪い情報もオープンになっていれば、強度の監視も不要となると考えます。
まとめ・人事評価の目的とは
私たちが人事評価制度のコンサルティングをする際、必ず確認することがあります。
それは、「なぜ人事評価制度を策定するのか」です。
給与や賞与を公正に決定するため
客観的な評価基準をつくるため
ステップアップの道筋をつくるため
人材育成の方針を示すため
事業目標達成のため
どれも正解ですが、最大の目的は「人材の成長促進による事業の業績向上」と考えています。
人事評価制度に関われば関わるほど、完璧な評価は難しいと感じます。仮に完璧な評価ができたとしても、低評価を受けた人は、不満からモチベーション低下につながりかねません。
評価を緻密にしようとすると工数がかかります。特に中小企業の評価者は自らも現場の業務を担当する「プレイヤー」であることが多いため、とても忙しいものです。査定のための緻密な評価をゴールとするのではなく、「人材育成⇒業績向上」という大目標に向かって部下を導くことを主眼としてはいかがでしょうか。
すでにお気付きの方もいらっしゃると思いますが、先に述べたテレワークにおける人事評価のポイントは、実はテレワークでなくても重要なことです。部下が目の前にいるから部下のことが分かったような気になっていないでしょうか。人事評価制度を効果的に運用できるよう、部下との関わり合いを見直してみてください。
#31 産後パパ育休スタート! 育児休業分割! 社会保険料免除見直し!
2022年10月改正
2022年10月の改正では出生時育児休業(産後パパ育休)が創設されること、男女問わず育児休業の分割取得が可能となることが大きなポイントです。休業することで業務に支障がでることを懸念し、育児休業を取得しない人が多いことを考慮した対応です。まずは産後パパ育休で短期間の休業を試してみて、その後長めに育児休業を取得するという活用もできます。
出生時育児休業(産後パパ育休)の創設
育児休業とは別に「産後パパ育休」が創設されます。
ポイント① 休業2週間前までの申請で取得が可能に
希望どおりの日から休業するためには、原則として開始しようとする日の2週間前まで(労使協定を締結している場合には2週間超から1か月前まで)に申し出ることが必要です。法律はあくまでも労働者の権利としての最低基準を定めたものですから、2週間を切ってからの申請に対しても、事業主が希望どおりの日から産後パパ育休を取得させることは法を上回る措置として差し支えありません。
産後パパ育休開始の前日までであれば、休業を撤回できますが、撤回した申し出の休業は取得したものとみなします、つまり撤回1回につき1回休業したものと数えます。
ポイント② 2回の分割取得が可能に
産後パパ育休は原則、子の出生後8週間以内の期間内で4週間(28日)以内、分割2回までを限度として労働者が申し出た期間を休業することができます。
子が生まれたタイミングで、母子の退院や里帰りのタイミングで、といったように状況に合わせた柔軟な取得が可能になります。2回分割する場合は、初めにまとめて申し出ることとしており、そうでなかった場合、事業主は後から言われた申し出を拒むことができます。
8週間の起点は、出産予定日前に子が生まれた場合は、出生日から出産予定日の8週間後まで、出産予定日後に子が生まれた場合は、出産予定日から出生日の8週間後までとなります。
ポイント③ 産後パパ育休中の就業が可能に
労使協定の締結により、一定の範囲内で休業中の就業が可能になります。
就業させることができる一定の範囲
・休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
・産後パパ育休開始予定日または終了予定日を就業日とする場合は、当該日の所定労働時間数未満
直前まで育児短時間勤務をしていた場合で1日の所定労働時間が6時間だった場合、産後パパ育休中の就業の上限時間は、育児短時間勤務前の労働時間をもとに計算します。
「子どもが寝ている深夜に2時間ほどのテレワークなら可能なのに」という声を聞くことがありますが、所定労働時間外の時間帯について、労働者は就業の申し出を行うことはできません。
産後パパ育休を含む育児休業を取得することは労働者の権利です。就業可能日を申し出るか否かは労働者が決めることであり、また、申し出があれば必ず就業させなければならないものでもありません。
産後パパ育休期間中の就業日数が一定の水準以内である場合には、出生時育児休業給付金の対象となります。出生時育児休業を最大取得日数の28日取得する場合は10日(10日を超える場合は80時間)、これより短い場合は、それに比例した日数または時間数(14日間の出生時育児休業の場合は5日、5日を超える場合は40時間)が就業できる限度となります。出生日の8週間後の翌日から起算して2か月後の月末までが申請期間となりますのでご注意ください。
育児休業の分割取得
産後パパ育休と育児休業とあわせた場合、1歳までの間に4回まで育児休業の取得が可能になります。産後パパ育休とは、取得の際にそれぞれ申し出れば良いというところが異なります。また、休業中の就業は原則不可となります。
1歳以降の延長については開始日について柔軟化されています。
例えば保育所に入所できない等の理由で1歳以降に延長した場合の育児休業開始日は、現行は1歳到達日の翌日、1歳6か月到達日の翌日というように開始日は各期間の初日に限られており、各期間の初日でしか夫婦交代はできませんでした。これが10月からは、本人と配偶者の育児休業に切れ目がなければ各期間の途中でも夫婦交代が可能になります。また、現行のように夫婦ともに各期間の初日からの取得も可能です。
9月・10月に出産の場合
10月からの法改正で不安を感じるのはその前後に出産される方ではないでしょうか。
施行日の10月1日より前に育児休業を取得していた場合や、10月1日以降に育児休業の取得を申し出ている場合です。
例えば9月1日に生まれた子について、9月5日から10日間育児休業(子の出生後8週以内の休業なのでパパ休暇に該当。パパ休暇は今回の改正に伴いなくなります)を取得していた場合、施行日(10月1日)後については産後パパ育休を1回18日(産後パパ育休は2回28日まで取得できるため)の範囲で取得が可能です。更にその後、育児休業を2回まで分割取得できることとなります。
では、9月中に、出産予定日である10月1日から11月25日まで育児休業を申し出ている場合はどうでしょうか。この場合は申出時点で育児休業であったことから、変更がなければ育児休業(1回目)の取得となりますが、労使で話し合いの上、産後パパ育休4週分、育児休業4週分と取り扱うことは差し支えありません。労使双方で、いずれの休業であるかを確認し、認識誤りのないようにすることが大切です。
育児休業等期間中の社会保険料免除要件の見直しについて
育児・介護休業法の改正に関連して、社会保険料の取扱いについても健康保険法等の一部が改正されます。
よくある話①「賞与の月の月末1日だけ育児休業等を取得すれば、賞与の社会保険料を免除されるって聞いたのですが……」
今回の法改正からは1か月超の育児休業等取得者に限り、賞与にかかる保険料の免除対象とすることになります。賞与の1か月は暦日数で計算します。土日等の休日であっても育児休業等期間の算定に含まれます。
よくある話②「月の途中の2週間だけ育児休業等を取得したのでは、月額社会保険料の免除はされないんですよね?」
今回の法改正で、当該月に育児休業等の開始日と終了日があり、月末をまたいでいないケースでも14日以上の育児休業等を取得している場合は月額社会保険料の免除がされることになります。開始日と就業予定日の翌日がともに属する育児休業等が複数ある場合も、当該月の「合計育児休業等日数」が合算して14日以上(休業は連続していなくても可)であれば当該月の月額社会保険料は免除となります。
ここで注意点があります。前月以前から取得している育児休業等の最終月の月額社会保険料は、その月の月末日が育児休業等期間中であるか、その月の月中に当該育児休業等とは連続しない別の育児休業等(14日以上)を取得している場合にのみ免除となるということです。
例えば8月20日から9月15日まで育児休業等を取得する場合、月額社会保険料について8月分は免除されますが、9月分については14日以上ありますが、同月内の育児休業等とはみなされないため免除の対象とはなりません。
まとめ
男性の育児休業取得率が低いことの原因の一つに「育児休業を取得した先輩従業員がいない、少ない」ことが挙げられます。かといって自分が率先して取得するということには踏み込めない現状なのかもしれません。会社が男性の育児休業取得に前向きでないケースもあるようです。今回の法改正のタイミングは、子どもの誕生を控えている従業員に道をつくってもらう良い機会ではないでしょうか。育児休業から復帰した後には、社内でご自身の経験を是非共有していただいてください。
育児休業取得は従業員の申し出から始まることですが、スムーズに育児休業取得を進めるには何よりもコミュニケーションの取りやすい職場環境が大切です。現状をつくり替えていくにはそれなりの時間が必要ですが、未来に向けて、従業員の満足度や会社のイメージなどを導き、大きな財産になることは間違いありません。
育児休業は単なる「休業」ではなく、従業員が育児をとおして、楽しい気づき、大変だと思う気づきを得る時間です。それは家族にとってもプラスになる時間となり、復帰後の仕事に対する取り組み方にも変化をもたらし、それぞれの人生を豊かにすることに繋がるのではないのでしょうか。