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社会福祉法等一部改正法案について参考人から意見陳述(6月2日)

参議院厚生労働委員会は2日、「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」の審議を深めるため、参考人からの意見陳述を受けるとともに、質疑を行った。招かれたのは、早稲田大学法学学術院の菊池馨実教授と淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授、認知症の人と家族の会の花俣ふみ代副代表理事の3名。

菊池早大教授は、社会福祉法改正を中心に意見を述べ、任意事業である重層的支援体制整備事業により市町村格差が拡大する懸念への「セーフガード」として、新設された国及び都道府県の市町村に対する助言・情報提供義務の規定が重要であり、国の主導的な取り組みに期待を寄せた。

結城淑徳大教授は、特に介護人材不足対策に取り組む必要を強調。財源を確保し賃金を引き上げるとともに、労働環境を整備する重要性を訴えた。認知症の人と家族の会の花俣代副代表理事は、重層的支援体制整備事業の実施における財源等の懸念を示した。

主な内容は次のとおり。

市町村格差の拡大を防ぐ上で国の取り組みに期待

菊池早大教授は、今般の社会福祉法改正を中心に意見を述べた。法案のポイントとして、①地域福祉の推進に係る理念規定の新設②国及び地方公共団体の責務の明確化③重層的支援体制整備事業─の3点をあげた。

このうち②国及び地方公共団体の責務の明確化では、社会福祉法6条2項にある、地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に係る努力義務について具体的に、「保健医療、労働、教育、住まい及び地域再生に関する施策その他の関連施策との連携に配慮するよう努めなければならない」と明示した点を評価。「地域共生社会の推進に当たっての『縦割り』の打破、様々な施策間の連携の重要性を明文化したことにはたいへん意義がある」と述べた。

さらに国及び都道府県の市町村に対する助言・情報提供義務も6条3項に明示されたことを指摘。今回創設される重層的支援体制整備事業は任意事業であり、市町村格差を広げる懸念があることから、「それを防ぐためのセーフガードとして非常に重要な規定。国の主導的な取り組みにぜひ、期待したい」と述べた。

③重層的支援体制整備事業について、106条の3が規定するように、包括的支援体制の整備に関する「施策」の1つという位置づけに留意する必要を指摘。「施策のさらなる展開は、これですべてでなく、今後の支援現場や自治体行政における先進的な取り組みや、これを参考にした国レベルでのさらなる政策展開に委ねられている」とし、引き続き、地域や現場での取り組みを検討する場を設けるように要望した。

介護人材の確保で賃金引上げと労働環境も整備

結城淑徳大教授は、地域共生社会と市町村の役割について、一部の市町村では地域包括支援センターを委託に丸投げするような例があることなどをあげ、自治体職員が「ソーシャル・ワーク機能」をきちんと果たすべきことを指摘した。

また介護人材不足対策に取り組む必要を強調。財源を確保し賃金を引き上げるとともに、労働環境を整備する重要性を訴えた。

介護現場には「ブラック企業」も存在し、結城教授は就活に臨む自身の大学のゼミ生に対して、「資格手当・定期昇給があるか?」など20項目のチェック項目を教示し確認するように指導していることを明らかにした。

結城教授は、新型コロナウイルス感染症対策の第2次補正予算案に政府による慰労金の支給を盛り込んだことを高く評価。一方で「次期介護報酬改定がプラスでなければ、今後も介護人材の確保・定着は難しい」とした。

介護福祉士養成施設卒業者への国家試験の義務付けの経過措置の延長について、「(介護福祉士の)質の担保から本来、延長すべきでない」と指摘。一方、昨今の介護福祉士養成校が外国人に依存している実態があるとともに、高校教員・保護者が高校生に介護福祉士養成施設への進学を勧めない風潮があることから、経過措置の延長は「やむを得ない」とした。 

経過措置の延長期間内に、日本の高校生らが積極的に介護福祉士養成施設に進学できる環境を構築するように訴えた。「しっかりした介護福祉士がいなければサービスの質が担保できない」とした。

質疑で、日本維新の会の東徹委員から介護職の社会的評価を上げていく方法について問われ、結城教授は、「名称独占と業務独占では社会的なイメージが違う」として介護福祉士の業務独占を導入していくことを主張。准看護師に近い医療行為をできる介護福祉士を上位に位置付けて業務独占にしていくことを提案した。

重層的支援体制整備事業の相談窓口や財源で懸念

認知症の人と家族の会の花俣副代表理事は、重層的支援体制整備事業による高齢・障害などの属性に捉われない相談支援について、「デパートの総合案内のように窓口を一つにして制度別のドアがどこにあるのか案内してくれるということか。それとも一つの入り口にたどり着けば、各分野の支援制度をまとめて提供できるものなのか」と疑問を投げかけた。

そうした重層的支援体制整備事業の相談窓口が、すでに多くの業務を担っている地域包括支援センターに設置された場合に、「地域包括支援センターがもつのだろうか」と指摘。また介護保険の財源が他分野に流用されたり、総合事業の費用が削られたりすることに懸念を示した。

来年度に予定されている介護保険の補足給付や高額介護サービス費の見直しに触れ、利用者の負担能力の実態を把握するように求めた。

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