プロが伝える労働分野の最前線 #32~37
(こちらは、2022年10月18日~2023年3月16日に「Web年金時代」に掲載したものです)
#32 規程と規定 どちらも「管理」ができていますか① ~規程編~
規程と規定
社労士法人に寄せられる顧問先の皆様からの労務に関する相談。さまざまなテーマが話題になりますが、最近、よく出るもので「規程の管理」や「規定の管理」があります。管理ができていないといえる場面も多いですので、今回は、それらについて取り上げたいと思います。
なお、本稿では、賃金規程や育児・介護休業規程など、ルールを一つのジャンルで束ねたものを「規程」と呼び、それらの中の家族手当や子の看護休暇といった個々のルールを「規定」と呼びます。今回は、「規程の管理」について触れることにします。
“規程”の管理
管理ができているか、できていないかというと、労務管理に人員を割きにくいなど、小規模の事業場の話題に思えるかもしれませんが、そうではなく、どちらかというと大企業でも多くみられる傾向があります。
この半年、育児・介護休業法の大きな改正が続いたこともあり、育児・介護休業規程を始めとする就業規則類の改定のご相談やコンサルティングのご依頼が多く寄せられました。そのきっかけは育児・介護休業法の改正が主ですが、同じタイミングで、規則類全般の見直しのご依頼も多くなっています。
就業規則には、「作成しなければならない」「届け出なければならない」「何々を記載しなければならない」といった労働基準法の定めはありますが、規則の構成には特に決まりはありません。そのため、全体を1冊の規程として策定することが、特にスタートアップ企業では多いです。賃金に関することも、育児・介護休業に関することもまとめて1冊の規程とし、就業規則とします。
これが、社内ルールの改定や、賃金表など別紙になっている方がわかりやすいなどの運用面、法改正の際の修正作業などの理由から次第に、分冊になってきます。例えば、就業規則の本則の規程とは別に、賃金に関する規程、育児・介護休業に関する規程を作り、3分冊の構成になるなどです。
さらに、本則の規程から休職や懲戒、休暇に関する部分が独立したり、賃金規程から賞与や退職金、評価に関する部分が独立したりします。また、本則や賃金規程にある異動や転勤、単身赴任に関する部分が独立・統合して、転勤規程といった新たな規程ができることもあります。
こうして、年月が経つにつれて、規程の数が増えていきます。印刷物として考えると、冊子が増えていきます。
規程が分かれていれば(分冊になっていれば)、法改正などによって修正が必要な場合も、該当の規程のその個所を改定すればよいので、作業としてはわかりやすくなります。今年も、育児・介護休業法の改正に際しては、育児・介護休業規程のみの改定でよく、規程単体での改定作業のご依頼も多くいただいています。
ただ、これを繰り返していくと、規程間の整合性がとれなくなることがあり、ルールが競合していたり、隙間が生じていたりすることに気づくことになります。
整合性の問題
例えば、ある休暇制度について、賃金規程には無給と定めているのに、休暇規程では有給と定められていたというケースがありました。
このケースでは、休暇規程を独立させて作った際には、有給か無給かについては賃金規程に「有給」と定めてあったところ、休暇規程だけを見てもわかるよう、そこにも「有給」と記載したのです。その後、公的な給付を受けられることになったためその休暇を無給化しましたが、そのルール変更の際に、賃金規程のみ修正し、休暇規程の修正が漏れていたような経過ではないかと推測されました。
分冊化し、従業員にとって必要な個所を手に取りやすく、内容もわかりやすく、といった意図だと思いますが、そのためにそれぞれの規程にも重ねて記載していたものが、一方のみの修正によってずれていってしまったのです。
また、賃金規程で基本給や手当の名称と定義を変え、賃金の支給総額は変更せずに基本給と手当の割合を変更したものの、退職金規程での記載を連動して変更していなかったために、退職金の額の計算が意図せずに大きく変わってしまったということもありました。
さらに細かいところでは、パート社員と呼ばずに、準社員とすることにしたにもかかわらず、一部の規程ではその変更作業が漏れていたために、準社員の待遇に不利益が生じたといったこともあります。
このように、規程の種類が多くなっていった場合には整合性が取れなくなりがちというところに注意し、どの部分がどことどのように連動しているのかとの把握も含めた、規程類全体の体系の管理が重要です。
隙間の問題
次に、隙間ができてしまった事例です。
平成25年の法改正で、有期雇用労働者が一定の場合に無期契約となることができる、いわゆる「無期転換」の制度が導入されました。この際に、例えば契約社員向けの就業規則に無期転換できる場合についての記載を追加し就業規則の変更の届出等は済ませたものの、しばらく該当者がいなかったために詳細のルールを定めないでいました。あるとき63歳で無期転換を申し出た契約社員があらわれ、その方に適用する規程が存在しない、ということになりました。特に、定年年齢の定めがない状態が大きな課題でした。
このように、法改正の際、必要最低限の改定の対応をするだけでなく、それによって人事制度が変わったり、新たに作らなければならなかったりすることまでも想定し、規程を新たに作るか、既存の規程に組み入れるかといったところまで対応しなければなりません。
これらの原因
小規模の事業場ではなく大企業でこのような事例が多いのは、人事担当者の異動や退社などによって、規程類の変更の経緯やその理由などが後任に引き継がれないことがあるからです。当然、当時改定を担当した方は、今後こういったことが課題となるな、注意しなければいけないな、と想定できていたと思います。その方が担当し続けていれば必要なときに必要な対応ができ、問題になることはないでしょう。しかし、担当者が何回か入れ替わっていくようになると、変更の経緯や理由が残らずに、必要な対応がなされないままになり、あるとき具体的な問題として浮上することになります。
対応策
いずれも、対応策としては、規程の策定・改定担当者による「メモ」を残すことです。原始的ですが、最も有効と考えます。
前者の整合性の場合でも、独立して作成した際に、関連部分が他の規程のどこにあるというメモがあれば、後年、その部分を改定する際にたどることができます。
後者の隙間問題の場合でも、作業スケジュールの関係で、その時点で規程全体を整備できないということであっても、未整備・要整備といったメモがあれば、課題に直面するまで忘れられていたという状況は避けられたでしょう。
もう一つの方法として、規程類全体を継続して我々社労士などの専門家と共有していただくこともお勧めします。改定を専門家にご依頼いただくときも、その部分の改定作業の依頼だけでなく、他の規程との整合性の確認までもあわせて依頼してください。この方法のメリットは、管理のためだけでなく、経営上のリスクヘッジのためにもなることです。ごっそりと人事部門の担当者が入れ替わっているような場合、なぜこの規程があるのか、このルールとしているのか、といったことが社内では確認できないときでも、継続的に共有していて、改定作業に関わっていれば、それらはその専門家が答えることができます。いうなれば、前述のメモ全体を専門家に委ねるという方法です。
いずれにしろ、歴史は克明に記録しておくことが必要です。時が経てば薄れていきますので、ぜひ今日から歴史をさかのぼって、今のうちにたどれるところに取り組んでみてください。
#33 規程と規定 どちらも「管理」ができていますか② ~規定編~
前回、「規程と規定 どちらも「管理」ができていますか① ~規程編~」で、社内に存在する多数の規程類について、それらの管理の重要性やポイントをご紹介しました。
続編として、今回は「規定」についてです。
規程と規定の語の使い分けは、前号と同様に賃金規程や育児・介護休業規程など、ルールを一つのジャンルで束ねたものを「規程」と呼び、それらの中の家族手当や子の看護休暇といった個々のルールを「規定」と呼ぶことにします。
規程と同様に、規定にも複数の規定の間に隙間があったり、整合性がとれていないといったことがあったりします。ルールの改定や変更の際にはこのあたりの注意はもちろん必要です。これらは前号を参考にしてみてください。
なぜ、このルールがあるのか?
規定の管理で、もっとも多い相談は「なぜ、このルールがあるのか?」です。直接、この問いがあるというよりも、特に労使トラブルの相談で、そのトラブルの原因についてディスカッションしていると、「なぜ、このルールがあるのか」という問題にたどり着くことが多い印象です。
すべてのルールについて、その作られた背景、理由、目的、そのルールが生みたい効果を述べることができるでしょうか。
例えば、従業員が扶養している家族がある場合に被扶養家族1名につき月5,000円支給する、といった家族手当の規定があるとします。このルールの背景、理由、目的、効果はどうでしょうか。
この5,000円で扶養してください、という意味ではないでしょうが、家族手当はその一部を補助するためのものと考えることができるでしょう。
多様な生き方の時代を迎え、入籍しないカップルや、同性同士のカップルも多くなりました(というよりも、そういった事情を職場でも明かす時代になったというほうが適切でしょう)。労務相談でも、こういったカップルやその家族も家族手当の支給対象とすべきかというのも聞くようになりました。このような相談には、そもそもどのような理由で家族手当を設けましたか、とお伺いし、手当の趣旨に沿って考えましょうとアドバイスします。
ただ、手当の制度を設けたのが古すぎると、当時のことを振り返るのはなかなか困難です。そこで、「家族」とはどういう風に位置付けているのか、「扶養」とはなにをもって扶養しているというか、改めて考えるタイミングにもなります。
そうすると、例えば「従業員だけでなくその家族を大切にしたいから」といった再定義もでてきますが、では扶養している家族に限っているのはなぜだろう、ということになります。「扶養している」ことも、税法上の扶養をラインにすると入籍しないカップルは対象になり得ませんが、健康保険の扶養や国民年金第3号被保険者にはなり得ることで扶養しているといえるかもしれません。
このように、これまで当たり前のように、ルーチン的に繰り返してきたことも、新しい話題が入ってくると、「そもそも、この手当ってなんだったっけ?」ということになる事例をお話ししました。
もちろん、「手当」に限らず、どのようなルールでもあり得ます。
今後、改めて問題になりそうなのが、「ワクチン休暇」です。政府が推奨したこともあり、新型コロナウイルスワクチン接種と、その後の副反応時への対応のため、ワクチン休暇を新たに設けた会社も多いと思います。
4回目、5回目の接種のタイミングになっていますし、間隔も短くしていくなど、引き続き政府の方針としては、随時接種していくことを推奨しているように思えます。
休暇制度を設けていると(条件の付し方にもよりますが)、引き続き、ワクチン接種のたびに休暇を取得できることになります。これまた「なんのため」に設けたルールかが話題になりますが、「単に副反応時のケアのため」であるとすると、今後も副反応はおこり得るので、休暇は取得することができますし、新型コロナウイルス以外のワクチンであっても休暇を取得できてもよいのではないか、ということになりそうです。
「感染症拡大予防のため」であれば、そろそろ休暇取得の対象外としてもよさそうですが、それが読み取れるルールの書き方でないと、トラブルになる危険性があります。
対応策
規程の場合と同様に、有効な対応策は「メモ」を残すことです。その際、背景、理由、目的、そのルールが生みたい効果を残しておきます。これによって、その規定が不要となるタイミングも考えることができるようになりますし、新しい話題が加わったときに、趣旨に沿うかどうかといった軸を持つことができます。
また、「目的」によっては、当初より時限的なルールとすべきことも見えてくるようになります。前述の新型コロナワクチン接種の休暇のような例の場合は、当初より、「1年限りのルール」としておけばよいわけです(長引くようでしたら「1年延長」とすればよいです)。
労使協定も同様に「管理」の問題あり
規程・規定と並んで、労使協定についても同様の管理の問題がたびたび話題になります。
労使協定は、労働基準法によるものが14種類、育児・介護休業法によるものが数種類あり、必ずしも全種類あるとは限りませんが、複数あることが通常だと思います。
ここでの問題は、「有効期間の管理」と「存否の管理」です。
36協定のように、締結・届出・有効期間についての規制が厳しいものは管理の問題は生じにくいですが、労使協定には届け出なくてよいもの、有効期間の定めをしなくてもよいものもあり、それらの管理が問題になります。
例えば、賃金から法令で定められたもの以外の控除を行う場合は、労働基準法24条に基づき、労使協定を結ばなければなりません(通称:24協定)。これは、届出の義務も有効期間の定めも必要ありません。有効期間の定めの必要がないというのは、法規制として定めなくてもよいということであって、労使当事者の約束として定めることはもちろんできます。このようにして有効期間を定めた場合に、その期限管理が重要になります。あるときから、更新や再締結が行われなくなっていたのに、実務上はあるものとして取り扱っていたとなると、24協定で言えば、賃金全額払い違反(罰則:30万円以下の罰金)を犯していたということになります。
また、その協定があったかどうかわからないということもあります。これまで、賃金控除はしていなかったから、24協定はないと思って新たに締結したところ、後から、以前、将来のためにと有効期間なしで締結していたものが発見されたというケースなどです。
このようなことも、規程類が多い、担当者が数年で替わるというような場合に多く見られます。ちなみに、このように2つ存在してしまった場合は、どちらが有効なのか、またはどちらも有効なのか、など法的なトラブルにつながることにもなります。このような場合も、前述のメモや専門家の活用は有効です。
また、特に労使協定については、有効期間を定めなくてよいものにもあえて有効期間の定めを置き、その期間を36協定の期間と合わせるという方法があります。こうすることにより、年に1回の定例のタスクとすることで防げると考えます。労使協定も、就業規則と同様に労働者への周知義務がありますので、イントラネット等で目に触れやすいようにすれば、存否の管理の問題は防げるでしょう。
まとめ
規程や規定、労使協定など、どうしても書類を作成することが目的になりがちですが、その書類自体の管理はもちろん、制定の背景や目的などをメモし、記録を作っていくことも一緒に取り組むようにしてください。
#34 デジタル給与解禁!? 意外と知らない賃金支払いのルールについて
来春に「デジタル給与」が解禁
2023年4月よりデジタル給与、いわゆる○○Payといった資金移動業者が管理するキャッシュレス決済口座に直接送金する形での賃金の支払いができるようになると予定されています。
デジタル給与払いが議論されてきた背景には、諸外国に比べてキャッシュレス決済がまだまだ普及しておらず、国が推進させたいことや、人手不足解消のため外国人労働者の積極活用を考えているものの、外国人労働者は銀行口座を作りにくいため、その賃金支払い手段を増やすことなどが理由としてあるようです。
解禁するにあたってセキュリティや不正利用された場合のリスクが検討されてきましたが、利用可能な資金移動業者は行政の審査を通過したところに限られ、不正利用されたときの補償の仕組みを作ることや口座残高の上限を100万円とすること、本人の同意が必要などいくつかの条件を満たすことでデジタル給与の利用が可能となります。
さて、2023年4月からデジタル給与の解禁が予定されているということは、現在ではデジタル給与は禁止ということになります。支給日に自分の銀行口座に賃金が振り込まれる、というのが一般的な認識だと思いますが、賃金の支払い方にも様々なルールが定められています。
賃金支払5原則
賃金の支払い方について、賃金支払5原則というルールがあります。
表1 賃金支払5原則
賃金支払5原則を文章にすると、「賃金は通貨で直接労働者にその全額を毎月1回以上一定の期日を定めて支払わなければならない」となります。賃金支払5原則には例外もあるので、各要素について解説していきたいと思います。
①賃金の通貨払い
ここでいう「通貨」とは、日本国内で強制通用力のある貨幣(鋳造貨幣と日本銀行券)すなわち「円」を指します。外資系企業だからドルで支払うということはできません(本人の同意のもとに外貨でも可能という解釈の判例もありますが原則は円払いです)。
通貨払いの例外として「銀行口座への振り込み」があり、ほとんどの会社はこちらを選択されているかと思います。ただし条件があり、
・本人が口座振り込みに同意していること
・本人が指定した口座であること
上記を満たす必要があります。振込手数料や利便性のために、会社が振込先の金融機関や支店を指定するケースをよく聞きますが、ルール上はNGであり、お願いする程度にとどめるべきです。冒頭のデジタル給与に関しては、この通貨払いの例外としてルール化されることになります。
もう一つの例外として、労働協約がある場合には、その定めにより通貨以外のもので支払うことができます。代表例としては通勤定期券を現物支給する場合などです。その他にも例外がありますがここでは割愛します。
②賃金の直接払い
この「直接払い」とは労働者本人に直接支払ってくださいというルールです。労働者(夫)が受ける賃金を、実態として妻が家計を管理しているからと妻の銀行口座に振り込むことはできません。実際に労働を行った人だけが賃金を受け取れます。
しかし通達では「使者」に支払うことは差し支えないとしています。病気で入院中の労働者に代わって、本人に必ず渡すことを前提としてその家族に賃金を渡す場合には、家族は使者として判断されます。
もう一つ例外として、税金の滞納などにより裁判所から差し押さえをされた場合は、差押債権者に支払うことが認められます。あくまで裁判所の命令によるものに限られ、消費者金融などの債権者に命令がないのに支払うことや、弁護士などの代理人に支払うことは、直接払いに反するため違法となります。
③賃金の全額払い
賃金の「全額払い」とは、賃金から何かを天引きしてはならずその全額を支払いなさいというルールです。しかし通常、賃金には控除の項目があり、様々なものが天引きされていますよね。これもやはり例外の一つで、法令で別段の定めのある所得税や住民税、社会保険料といった公的なものに関しては当然に賃金から控除してよいとされています。
上記以外の労働組合費や社宅費用など私的な控除に関しては、労使協定を締結することで賃金から控除することができます。賃金全額払いの例外に関する労使協定を締結し忘れている会社は案外多いので、注意が必要です。
④賃金の毎月1回以上払い
言葉の通り、毎月1回以上賃金を支払う必要があります。年俸制というものがありますがこれは賃金決定の仕組みであり、支払いに関しては年俸制であっても毎月支払う必要がありますし、現金が手元にないからといって翌月に2か月分支払うといったことはできません。
ただし、臨時に支払われる賃金や賞与、1か月を超える期間の出勤成績等を基礎として支給される精勤手当などは毎月必ず支払われるものではないため、このルールの例外に当たります。
⑤賃金の一定期日払い
「毎月15日」「毎月月末」など賃金を支払う「日」を指定する必要があります。人には生活のサイクルがあるため月ごとに支払日にバラツキを作ることを禁止しています。たとえば「毎月第3金曜日」といった指定は、最大で7日間支払日の幅が出てしまうため、このような定めはできません。賃金支払日が土日祝など金融機関の非営業日である場合に、前営業日もしくは翌営業日に支払うことは問題ありません(ただしその定めは必要です)。
賃金支払いのその他のルール
賃金支払5原則以外にも様々なルールが定められています。その一例を紹介します。
まずは給与明細について、労働基準法には発行の義務が定められていません。しかし、所得税法において給与明細を交付しなくてはならないと定められているため、賃金を支払う都度必ず交付するようにします。
最近では、テレワークなども増えてきたためWEB明細を利用する会社が増えてきました。平成19年より給与明細の電子化が認められていますが、従業員の同意が必要とされているため、銀行振り込みと同じく従業員に同意をとるようにしましょう。
給与計算ソフトが普及し、銀行振り込みが主流となった今、ほとんどの会社が1円単位で賃金を支給していますが、実は端数に関してこんなルールも認められています。
・1か月の賃金支払額に100円未満の端数が生じた場合に50円未満を切り捨て、これ以上を100円に切り上げること
・1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと
現金手渡しが当たり前だった時代に小銭を少なくするために作られたルールのようです。少し時代を感じますね。
まとめ
当たり前のように支払ったり受け取ったりしている賃金ですが、意外と知らないルールもあったのではないでしょうか。社会情勢の変化や、働き方の多様化に伴い、賃金に関わるルールも変化していきます。給与明細の電子化の解禁や、デジタル給与支払いの解禁などがその一例です。賃金の支払いに関する法律等について、今後も情報をキャッチアップしていきたいものです。
労働契約とは、労働者は労働力を提供し、その見返りに使用者は賃金を支払うことで成り立ちます。賃金の支払いは使用者にとって最も重要な義務ともいえます。ルールを逸脱することなくしっかりと賃金を支払い、より労使の信頼関係を深めていきましょう。
#35 シニア人材を活かす定年後の再雇用契約で考えるべきこと
現在の高年齢者雇用に関する法律
総務省の統計(人口推計2022年9月15日現在)によると、日本の総人口は減少している一方、65歳以上の高齢者人口は3,627万人と、前年(3,621万人)と比べ6万人増加し、過去最多となりました。少子高齢化で人口が減少する中で経済社会の活力を維持するため、働く意欲があるシニア層がその能力を十分に発揮し活躍できる環境整備を図ることを目的に、高年齢者雇用安定法の改正がなされています。
現在は、65歳までの雇用の確保措置義務(高年齢者雇用安定法第9条)に加え、70歳までの就業機会の確保措置を講ずること(高年齢者雇用安定法第10条の2)が努力義務となっています。
【図1】高年齢者雇用安定法の改正ポイント
シニア層の雇用確保措置実施状況
厚生労働省の調査によれば、雇用確保措置として最も多く導入されているのが、全体の70.6%である継続雇用制度です【図2】。また、70歳まで働ける就業確保を整えている会社27.9%のうち21.8%も継続雇用が採用されており【図3】、60歳以降の定年後の雇用確保の主流制度となっています。
【図2】雇用確保措置を実施済みの企業の内訳
【図3】70 歳までの就業確保措置を実施済みの企業の内訳
「継続雇用制度」とは、定年を迎えた社員を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する、「再雇用制度」「雇用延長制度」のことをいいます。
雇用延長は、従来の雇用契約内容をそのまま引き継いでいくものですが、再雇用制度は、一旦定年による退職をした後、新たに雇用契約を結ぶことをいいます。
定年後新たに雇用(再雇用)契約を結ぶにあたり、何がポイントになるのかを見ていきたいと思います。
定年後再雇用制度の現状
雇用確保として大半の会社が再雇用制度を導入している訳ですが、多くのケースでは、嘱託社員などに身分変更することで定年前の雇用契約を一旦リセットしています。その上で1年間などの有期雇用期間ごとに、個別に労働条件を見直す運用を行っています。
これは会社側の事情だけではなく、シニア社員にとってそれぞれの健康や体力的な事情があり、働き方が多岐に渡ることも関係していると思われます。その他、シニア時代のライフプランが人により様々であることや、シニア時代の生き甲斐をどこに向けているかにより個々の事情が絡んでくるため、双方にとって定年後個別に雇用契約を結び直すことは、ごく自然な選択といってもおかしくありません。
しかし、現在多くの会社は法改正に伴い、「やむを得ず導入しなければならない」といった対症療法的な再雇用対応にとどまってはいないでしょうか。これから人材不足が深刻化する一方で、現在収入のある仕事をしている60歳以上の人の中で70歳以上まで働きたいと考えているシニア層は8割を超えています(内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」(令和元年度))。今後、シニア人材を価値ある労働力と捉え、シニア人材の能力を活かしていく労働条件で契約を結ぶことが、人材不足時代を乗り越える術となるのは言うまでもありません。
シニア人材を活かす雇用契約にする
再雇用制度は、新たな労働条件で雇用契約を結び直す制度です。定年後再雇用をする際、会社は新たな契約内容をしっかりと明示する必要があります。そして、その契約内容に納得して働いてもらうことこそがモチベーションを保ちシニア層を活かすことにつながります。
では、どのような契約内容なら納得性を高く得られるのでしょうか。
【何を発揮して働くか】
シニア人材の労働力を活かすには、何を発揮して働くかといった役割の明確化が重要になります。なぜなら、自身の役割が明確だと働く意欲が向上し働くことへ納得性を得られ、意欲や納得性の向上はシニア労働力の戦力化に貢献していくからです。
しかし、今までの法改正に伴う対症療法的な再雇用者については、定年後の役割が明確にされていない例が多く見られます。再雇用による賃金低下の結果、仕事に対する意欲低下につながっている現実があります。人材不足の今、その労働力低下は社会的損失といってもよいでしょう。
では、何を発揮して働いてもらえばよいか。シニア人材ならではの役割例を挙げてみます。
①その能力スキルを活かす役割:高度な専門職
②ノウハウを教える役割:技術伝承職
③(未経験の職種への転換も含めた)補佐的役割:サポート職
④若手の育成を担う役割:教育育成職
⑤定年前と同じ役割:役割維持職 など
どんな役割であれば自分の能力を発揮できるのか、責任の度合い、期待する成果は何かを、労使でよく話し合ったうえで再雇用する。そうすることで、シニア社員が自身の役割を明確に持ち、モチベーションを高く維持し、その能力を発揮して働いてもらうことが可能になります。
実は、この【何を発揮して働くか】を再雇用時に決めることこそ、シニア人材を活かすための労働条件のポイントになってくるのです。シニア人材を活かす雇用契約を結ぶこと=安い労働力にしないこと。そのために【何を発揮して働くか】を決める。そして、その役割に見合った待遇を提示していくことが、再雇用時によくある意欲の低下・役割不明瞭による不満や誤解をなくし、よりポジティブに働いてもらうことにつながっていくのです。
しくみ作りと意識改革を
シニア世代においては、個々の事情によってどのように働きたいか・働けるかが異なり、多様性に富んでいます。そのシニア人材を活かすには、個々の労働者の契約上の対応だけでなく、会社全体でもしくみを考え直していく必要があります。
例えば、60歳定年前から年齢に伴う環境や身体の変化により、働き方が変わる現実が我が身に訪れます。そのことを想定しておく時間を持つ。そうすることにより、定年再雇用後のキャリアイメージをシニア人材が主体的に持ち、自らがキャリアプランについて意思決定を下せるようになります。会社がその機会を与え、体制を事前に整えていくことも必要でしょう。
会社が定年を控えたシニア予備世代と、事前に面談やライフプランについての研修等の機会を設け、会社全体でシニア層が活躍できるしくみを整えていく時代が到来しています。シニア人材活用について会社の意識変革も進めていきましょう。
まとめ
シニア人材を再雇用する際のポイントは以下のとおりです。
①契約内容を明確化するために、事前に働き方のイメージを本人と会社で共有する
②何を発揮して働くかといった役割を再雇用契約時に本人と会社とですり合わせる
③しっかりと契約内容を明示し、不満や誤解をなくす
3つのポイントを確認し、今後のシニア人材を有効な戦力として迎え、人材不足時代に立ち向かっていきましょう。
#36 不妊治療と保険適用 ~時間の支援は企業の役目~
不妊治療は特別なことではない
2022年4月より、不妊治療の保険適用が開始されました。その背景には、不妊治療の社会的ニーズの高まりがあります。
2021年の国立社会保障・人口問題研究所の出生動向調査では、不妊の検査や治療を行っている、また過去に経験がある夫婦は、夫婦総数の4.4組に1組(22.7%)にのぼり、不妊を心配したことがある夫婦は3組に1組以上(39.2%)となっています。
また、不妊治療の中でも体外受精や顕微授精といった高度治療によって生まれた子どもは、2020年では出生児全体の約13.9人に1人です。(日本産科婦人科学会『2020年体外受精・胚移植等の臨床実施成績』、2020年「人口動態統計」厚生労働省より)
図1 不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合
このように不妊治療は、今や多くの人にとって特別なものではなくなっています。
そのような現況に応え、不妊治療の高額な医療費を軽減するべく審議がされてきました。これまでも、費用の一部を助成する事業や、検査等に保険適用がされてきましたが、2022年4月からは、タイミング法や人工授精といった〈一般不妊治療〉、さらに体外受精や顕微授精、男性不妊の手術といった高額な〈生殖補助医療〉も含めて保険適用の対象となりました。保険適用によって不妊治療にチャレンジすることが容易になり、今まで経済的な問題により子どもを持つこと自体を諦めていた夫婦が、不妊治療に踏み切りやすい状況となっています。
法的な両立支援(休暇)制度はない
保険適用により治療を受けるハードルが低くなる一方で、通院回数の多さや、医師によってクリニックに行く時間が指定され治療を受ける患者が主導して計画ができるものではないといった不妊治療の特色は、仕事との両立という面からは大きな問題として残ります。
しかし現時点で、働きながら不妊治療を行うための法的な休暇制度はありません。不妊治療は精神、体力、お金、時間などたくさんの面から負担がかかりますが、時間的負担がとりわけ、治療を断念する理由としては大きいのです。
不妊治療を経験した方のうち15.8%(男女計、女性は23%)が、仕事との両立ができずに離職しているというデータがあります。
図2 仕事と不妊治療の両立状況
また、保険適用により多くの人が経済的に診察を受けることが容易になった分、診療の待ち時間は保険適用開始前よりも増えており、時間の負担は増す傾向にあるようです。
通院時間は女性のほうが長くなりますが、不妊治療の患者は女性だけではありません。
男女ともに仕事との調整はなかなか難しく、こうした予定の立てづらさに対応する〈時間的負担〉を軽減する支援こそ必要なのです。
治療のための休みが取れないために、人材が流出してしまう、社員のキャリアが中断してしまうことを避けるために、各社があくまで福利厚生として、仕事との両立を行いやすく、環境を整える必要があります。制度の導入を通して、治療を受ける社員がまわりの理解を得られサポートを受けられるような組織風土にしていくことが望まれます。
企業の取り組みポイント
仕事との両立支援のためには、
計画ができない
通院回数が多い
まわりに理由をはっきり言いづらい
という不妊治療の特色を考慮し、以下に挙げる制度の導入が期待されます。
【法定内休暇】
〇時間単位・半日単位の年次有給休暇
治療をしながら仕事をしようという場合、まず年次有給休暇を取得しやすい環境であることが大切です。そして女性の場合、特に頻繁な通院が必要な不妊治療は、待ち時間を含めて数時間休めれば、通院のために一日休みを取らなくてもよいときもあります。
実際「不妊治療を行っている従業員が利用できる制度」として最も多く取り入れられているのが、時間単位・半日単位の有給休暇制度です(2019年厚生労働省 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査より)。年次有給休暇は取得目的を申告する義務はないので、まわりに治療のことを知られたくない方にはその点もメリットとなります。半日単位有休は労働者が希望し使用者が同意すれば、時間単位有休は労使協定の締結(届出不要)をすれば導入することができます。
【法定外の特別休暇】
〇積み立て有給休暇
通常2年間利用せずにいると失効してしまう年次有給休暇を、不妊治療等のために特別休暇として積み立てておける制度です。本来労働者が権利として持っていたものを累積しておけるものなので企業側の負担もあまりなく、有給扱いのため社員の生活の心配も軽減するため、多くの企業が導入しています。「保存休暇」「特別支援休暇」「ストック休暇」など名称も各社さまざまで、使用目的も、「不妊治療」と特定する場合や、「私傷病」「出産・育児(不妊治療含む)」「使途不問」など自社ニーズにあったルールにすることができます。
〇特別休暇
年次有給休暇とは別に、不妊治療、または不妊治療を含む多目的に特別休暇として利用できるようにする制度です。労働者が、突発的な病気や体調不良時に備えて年次有給休暇の取得を控えることを防ぐために、特別休暇の導入が国によって推奨されています。
【柔軟な勤務を可能とする働き方】
〇フレックスタイム制
あらかじめ定められた総労働時間の中で、始業と終業の時間を日々労働者が自分で決めて働ける制度です。
〇時差出勤
一日あたりの所定労働時間はそのままに、始業と終業の時間が異なる複数の出勤パターンを用意しておく制度です。
〇短時間正社員
一日の所定労働時間が6時間などフルタイムの社員より短いながらも、パートやアルバイトではなく無期の正社員として評価される制度です。
〇テレワーク
通勤の負担がなくなり、時間を有効に使うことができます。
他にも、治療に専念する社員が職場復帰しやすくする制度として、無給の休職制度や、退職後のカムバック制度などもあります。休暇制度を整える体力がない企業でも、取り入れやすい制度です。
制度を導入する際には、社内で望まれていることを把握したうえで制度設計をすること、そして制度の内容によっては就業規則の改定が必要となります。そのために厚生労働省の両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)を活用することも一案です。申請には就業規則がしっかりと整備されていることが必要であり、受給要件を満たすための取り組みを行う中で、不妊治療と仕事を両立しやすい職場づくりを実際に進めることができます。受給できればそれ自体が企業のアピールポイントにもなるでしょう。
働く人の心に余裕をもたらす両立支援を
不妊治療は、子どもが欲しいという夫婦の夢を叶えるためのかけがえのない時間です。
保険適用という国としての取り組みは、働き続けることと、子どもを持つことを天秤にかけなくてよい社会が実現するための、大きな一歩です。
そして、ここまでにあげた企業が取り入れられることは、がん治療との両立支援で必要なことと全く同じです。他の私傷病、メンタル不調による通院など、精神的・体力的な苦痛を伴うとき、平日に休みを取りやすいということは、それ自体が働く人の心に余裕をもたらします。
不妊治療と仕事を両立しやすい職場は、理由を問わず休暇を取りやすい、理解のある、皆にとって働きやすい職場といえますし、それは採用時のアピールポイントとしても大変有効です。
助成金などを活用し、両立しやすい職場づくりをいち早く目指していきましょう。
鯉沼 美帆(こいぬま みほ)
ドリームサポート社会保険労務士法人
社会学部にて「労働と幸福が結びつく社会のありかた」を学び、企業の労働環境整備をサポートすることで、個人の生活(=ライフ=命)を大切にする社会を実現できる社労士を目指し、2021年4月新卒でドリームサポート社会保険労務士法人に入社。 現在は国分寺支店エデュ・コン係にて複数の顧問先企業の給与計算・社会保険手続を担当。手続業務を起点とし、働く人のステップアップをハード・ソフトの両面から支えるために日々邁進している。
ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。
#37 企業に求められる採用選考と具体的な対応例
「働く」とは、単に経済的に安定した生活を確保するためのものではなく、子どもの頃からの夢の実現や社会参加を通じた生きがいの実感など、人生の中で極めて重要な意義を持っています。近年において目にするようになった「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉にも表れているように、今後は多様な人材が社会参加してくることが予想されます。
職業選択の自由は、日本国憲法22条1項で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定められています。誰でも自由に自分の意思決定で職業を選べるものとされていますが、そのためには、企業側が公平で公正な採用活動を行い、就職の機会均等を保障することが必要です。
そこで、企業が採用活動を行う際に留意するポイントについて、近年の改正や時流などを踏まえて解説します。
若手層の求人募集は「長期雇用」と「人材育成」がカギ
2007年10月の雇用対策法改正により、年齢制限を設けた求人募集は原則禁止されました。ただし、長期勤続によるキャリア形成を目的に、新規学卒者をはじめとした若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として求人募集する場合に限り、例外的に上限年齢を定めることが認められています。要件は以下の通りです。
① 対象者の職業経験について不問とすること
② 新卒者以外の者については、新卒者と同等の処遇にすること
(新卒者と同様の訓練・育成体制、配置・処遇をもって育成しようとしている場合)
上限年齢制限を設ける場合には実務経験があることを応募条件としないように注意しましょう。
◆求人募集および採用時に年齢制限を行う場合のポイント
履歴書で収集不可となった個人情報とは
厚生労働省は2021年4月に厚生労働省履歴書様式例を公表しました。本様式例で収集不可となった個人情報は以下の項目です。
◆理由と対応ポイント
①「性別」
性自認の多様な在り方に対応するため、[男・女]の選択ではなく任意記載となりました。履歴書の欄外に未記載が可能である旨が明示されたほか、応募者本人が記載したい内容で記載することも可能となりました。性別欄の記載内容や記載がないことを理由として、採否を決定しないよう留意が必要です。
一方、女性活躍推進法の規定に基づいて一般事業主行動計画の策定や情報公表をする場合や、えるぼし等の認定申請にあたって男女別の採用における競争倍率(応募者数÷採用者数)を把握する必要がある場合、また、女性が相当程度少ない企業において女性を積極的に採用している場合(男女雇用機会均等法第8条)などは、理由を説明した上で、面接等で性別を確認することは可能です。しかし、このような場面においても、応募者本人に納得して回答してもらうこと、回答を強要することがないようにすること等の配慮をしましょう。
②「通勤時間」・「扶養家族数(配偶者を除く)」・「配偶者」・「配偶者の扶養義務」
この4項目については、応募者のプライバシーの要素が非常に高い情報であることを踏まえ、新たな様式例では項目欄を設けないこととなりました。『なぜそれらの個人情報を収集する必要があったのか』、収集目的に照らし合わせて、確認したいことを把握できる質問を面接の中で行うようにしましょう。
上記のような質問をする必要がある労働条件については、あらかじめ求人票等に記載しておくことが望ましいです。併せて、人生100年時代へ向けて多様な働き方・持続可能な働き方へのシフトが叫ばれる中でこれらの項目欄が設けられなくなった意味をよく考え、従業員一人ひとりが安心して本領発揮できる職場づくりを進めていくと、なお良いのではないでしょうか。
会社独自仕様の履歴書に先の様式例と異なる記載欄を設ける場合は、就職差別と受け取られかねない項目が含まれていないかよくよく確認しましょう。また、企業サイトや採用サイト内のエントリーフォームも同様です。厚生労働省の履歴書様式は過去にも様々な観点から変更が行われてきました。未対応のままだと会社に対する社会的信用に関わる場合もありますので、独自仕様を採用している場合は、一度見直しを行ってみてはいかがでしょうか。
採用選考時に配慮すべき事項
厚生労働省では、就職差別につながるおそれがある具体的事項として、下図の14項目をあげています。
図1 就職差別につながるおそれがある14事項
本人の適性と能力に関係のない個人情報の収集は、求職者等の個人情報の取り扱いを定めた職業安定法第5条の4及び労働大臣指針(平成11年労働省告示第141号)に違反します。中でも、応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもののうち、「家族に関すること」の質問が約4割を占めています。決して故意的にではなく、あくまでも面接の場を和ませようと話題にあげてしまう恐れがあるので、特に注意が必要です。
図2 令和3年度にハローワークで把握した不適切な採用選考846件の内訳
また、「あなたの信条としている言葉はなんですか」や「自分の生き方についてどう考えていますか」など、本来、憲法で平等や自由を保障されている思想や人生観について質問することは、応募者に対して人権侵害や差別の不安を与えるとともに、企業側が知り得てしまった場合は無意識下で偏見の目を持ってしまう可能性が拭いきれません。面接時の設問は、応募者の適性や能力に焦点を当てるようにしましょう。
新卒採用では「オワハラ」にならないよう注意
いわゆるオワハラとは、「就職活動終われハラスメント」のことを言い、企業が就活生に内々定や内定を出した段階で、それ以降の他社の選考を受けないように促す行為全般をさします。具体的には、以下のようなものがあげられます。
オワハラも含めた就活ハラスメント問題は判断基準が曖昧であり、就活生本人の捉え方によるところもあると言えます。企業側に就職活動を阻害する意図がなかったとしても、本人の捉え方によってはオワハラに該当する可能性があるため、応募者には職業選択の自由が保障されていることを念頭に接するようにしましょう。
公正・公平な採用選考による人財獲得を!
日本は少子高齢化が進み、今後さらなる労働力不足が見込まれています。企業が永続的に存続していくためには、採用力のある企業を目指していく他ありません。また、世間一般のコンプライアンス意識は年々高まっており、かつては許容されていたことだとしても、現在は厳しく取り締まられている傾向にあります。企業に求められる法令順守や倫理観も高まっていると言えるでしょう。昨今、コンプライアンス違反行為がSNSで拡散され、築き上げた信頼を失うケースも度々見受けられます。法律をしっかりと守り、経営においてもっとも重要である「人財」を獲得できるよう、公正・公平な採用選考を実施しましょう。