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謎の新興国アゼルバイジャンから|#61 医療保険における「保険者機能」

香取 照幸(かとり てるゆき)/アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使(原稿執筆当時)

*この記事は2020年2月27日に「Web年金時代」に掲載されました。

本稿は外務省とも在アゼルバイジャン日本国大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見を筆者個人の責任で書いているものです。内容についてのご意見・照会等は全て編集部経由で筆者個人にお寄せ下さい。どうぞよろしくお願いします。

みなさんこんにちは。

今回のテーマは「医療保険における保険者機能」です。
「年金時代」の連載に医療保険の話というのもどうかと思ったのですが、これまでも何回か書きましたし、公的年金制度について語るべき大事なことはこれまでの連載の中でほぼお話ししましたので、お許しいただければと思います。

医療保険者、健保組合や協会けんぽ、公務員の共済組合など、医療保険制度の運営主体である「保険者」が持っている機能、果たすべき機能、って何でしょうか。
「保険者機能の強化が重要」ってよく言いますが、それが何を指すのか、実はあまり共通認識が形成されていないように昔から感じています。

「保険者機能」で最初に頭に浮かぶのは、医療保険の保険者としてのガバナンス。
必要かつ十分な医療費保障を最適の負担で加入者に提供する。財政面を含めた自主性・自立性、ということですが、考えてみれば、保険給付対象となる医療の範囲と対価(診療報酬)が法令で一律に定められている日本の医療保険制度の下では、保険者には歳出のコントロールはほとんど余地がありません。
保険契約の相手方である保険医療機関の選択も保険者にはできませんし、価格交渉もできません。かつての国保にあったような「特定の医療機関との間の割引契約」の余地もありませんし、ましてHMO型の包括契約なんて言うに及ばずです。

しかも日本の医療保険制度は世界に冠たるフリーアクセス。被保険者は自由に医療機関を選択できますし、受診したいと思った時に受診できますから、加入者の受診行動のコントロールも困難です。

となると、医療保険者にできそうなことは「保健事業・健康増進事業」や「組合員教育」を通じた受診の適正化・セルフメディケーション意識の慫慂(しょうよう)といった「保険給付外」の活動くらいしか思い浮かびません。
レセプト点検、なんてのは実にマージナルな話で、そもそも保険給付の範囲と価格が一律に公定されている日本の医療保険制度の下では、保険者に「保険給付内容に関する査定権・裁量権」は建前上も実際上もありません。審査機関がちゃんと機能していればいいだけの話です。資格審査だの重複請求チェックなんてのは被保険者管理の問題なので、「機能」というよりは「本来業務」です。

保険者機能の話は、アメリカの医療制度と比較するといろいろなことが見えてきます。
アメリカの医療制度の下で、医療保険制度(保険者である民間保険会社)運営における最大のコストは審査(査定)・支払・請求事務のコストです。

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