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三宅社労士の年金実務セミナー|#2 令和2年改正年金法「整備政令」について

三宅明彦(みやけ あきひこ)/社会保険労務士

 令和2年改正年金法「整備政令」について「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(2020年改正法)の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令」(令和3年政令第229号)が令和3年8月6日に公布されました。
 令和3年5月21日に政令案がパブリックコメントで公開され、8月6日付で「寄せられた御意見について」が公開された後、同日に公布された格好になります。今回は、この内容について、検討していきます。
 筆者としては「間違ってはいないが、正しくない」と考えます。
 まずは、政令案の概要を見ていきましょう。

1.政令案の概要(一部抜粋)

(1)関係政令の整備
① 受給開始時期の選択肢の拡大
 令和2年改正法第2条及び第4条の規定により、老齢基礎年金及び老齢厚生年金の繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられることに伴い、繰下げ増額率の計算の基礎となる繰下げ待機月数の上限について、現行の60月(5年分)から120月(10年分)に引き上げる。(国年令及び厚生年金保険法施行令(昭和29年政令第110号。以下「厚年令」という。)の一部改正)

 選択された受給開始時期にかかわらず、数理的に年金財政上中立となるよう、 繰上げ受給を選択した場合の繰上げ減額率を現行の0.5%/月から0.4%/月に引き下げる。(国年令及び厚年令の一部改正)

 令和2年改正法第3条及び第5条の規定により、70歳以降に繰下げ待機していた者が65歳時点からの本来受給を選択した場合、請求の5年前に繰下げ申出があったものとみなして年金を支給することとする仕組み(以下「5年前繰下げみなし増額」という。)が導入されることに伴い、2以上の種別の被保険者期間に基づく老齢厚生年金の受給権者が繰下げを行う場合の所要の読替え規定を整備する等、所要の規定の整備を行う。
(国年令及び厚年令の一部改正)

② 適用業種となる士業の列挙
 令和2年改正法第4条及び第29条の規定により、 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号。以下「厚年法」という。)及び健康保険法(大正11年法律第70号)の適用業種に「弁護士、公認会計士その他政令で定める者が法令の規定に基づき行うこととされている法律又は会計に係る業務を行う事業」が追加されたことに伴い、「その他政令で定める者」として、公証人、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士及び弁理士を規定する。
(厚年令及び健康保険法施行令(大正15年勅令第243号)の一部改正)

③ 在職定時改定の導入
 令和2年改正法第4条の規定により、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定することとされたこと(在職定時改定の導入)に伴い、老齢厚生年金の計算の基礎となる被保険者期間の月数が在職定時改定により240月以上となる場合にも、その時点の生計維持関係に応じて加給年金額が加算されることとする等、所要の規定の整備を行う。
(厚年令の一部改正)

④ 在職老齢年金制度の見直し
 令和2年改正法第4条の規定により、60歳台前半の在職老齢年金(低在老)について、
・現行の支給停止調整開始額(令和3年度額28万円)の引上げ(厚年法第46条第3項に規定する支給停止調整額(令和3年度額47 万円)とする。)
・現行の支給停止調整変更額の廃止が行われることに伴い、支給停止調整変更額の改定を定めた規定を削除する等、所要の規定の整備を行う。
(厚年令・国民年金法による改定率の改定等に関する政令(平成17年政令第92号)の一部改正)

⑤ 加給年金の支給停止規定の見直し
 加給年金額の加算の基礎となっている配偶者が、老齢厚生年金(その年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240月以上であるものに限る。以下⑤において同じ。)等の老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有している場合には、加給年金額に相当する部分の支給が停止されるが、配偶者の年金給付の全額が支給停止となっている場合には、この支給停止が解除されることとなっている。

 配偶者の老齢厚生年金等が一部でも支給されている場合には加給年金が支給されない一方で、配偶者の賃金が高く、在職老齢年金制度によりその全額が支給停止となっている場合には加給年金が支給されるといった不合理が生じていることを踏まえ、配偶者が老齢厚生年金等の老齢又は退職を支給事由とする給付の受給権を有する場合には、その全額が支給停止されている場合であっても、加給年金額に相当する部分の支給を停止することとする。
(厚年令、昭和61年経過措置政令、平成14年経過措置政令、平成27年厚生年金経過措置政令の一部改正)         *太字部分は筆者が強調

⑥ 国民年金手帳の廃止
 令和2年改正法第2条の規定により、国民年金手帳が廃止されることに伴い、「民年金手帳」を引用している規定を削除する等の所要の規定の整備を行う。
(国年令、住民基本台帳法施行令(昭和42年政令第292号。以下「住基令」という。)等の一部改正)

⑦ 企業年金・個人年金の見直し ①
 令和2年改正法第22条の規定により、企業型確定拠出年金(以下「企業型DC 」という。)及び個人型確定拠出年金(以下「個人型DC」という。)の加入可能年齢が引き上げられることに伴い、個人型DCについて、
・国民年金の任意加入被保険者に係る各月の拠出限度額を6.8万円とする
・政令で定める公的年金の給付を受給する者は加入者としないこととしたため、当該給付を繰上げ受給の老齢基礎年金及び老齢厚生年金とする等の所要の改正を行う。
(確定拠出年金法施行令(平成13年政令248号。以下「 DC令」という。)
の一部改正)

 令和2年改正法第20条等の規定により、企業型DCから通算企業年金への移換 及び確定給付企業年金(以下「DB」という。)の残余財産を個人型DCに移換することを可能としたこと等に伴い、手続規定の整備等の所要の改正を行う。
(DC令、確定給付企業年金法施行令(平成13年政令第424号)及び平成26年経過措置政令の一部改正)

⑧ 企業年金・個人年金 の見直し ②
 令和2年改正法第23条の規定により、企業型DC加入者の個人型DC加入の要件緩和がなされることに伴い、
・企業型DCの加入者が個人型DCに加入する場合は、事業主掛金を各月拠出かつ各月の拠出限度額の範囲内に納めることとする
・企業型DCに加入する個人型DCの加入者は、各月の拠出限度額を2万円(DBの加入者等は1.2万円)(当該月の事業主掛金額が3.5万円(DBの加入者等は1.55万円)を超えたときは超えた額を控除した額)とし、個人型年金加入者掛金を各月拠出かつ各月の拠出限度額の範囲内に納めることとする等の所要の改正を行う。
(DC令の一部改正)

⑨ 年金担保貸付事業等の廃止
 令和2年改正法第28条の規定により、年金担保貸付事業及び労災年金担保貸付事業等が廃止されたこと等に伴い、年金担保貸付事業及び労災年金担保貸付事業に関する規定の削除並びに同条の規定により新設された年金担保債権管理回収業務及び労災年金担保債権管理回収業務に関する規定の整備等所要の規定の整備を行う。
(独立行政法人福祉医療機構法施行令(平成15年政令第393号)、平成14年経過措置政令、独立行政法人の組織、運営及び管理に係る共通的な事項に関する政令(平成12年政令第316号)、特別会計に関する法律施行令(平成19年政令第124号)、厚生労働省組織令(平成12年政令第252号) の一部改正)

(2)令和2年改正法の施行に伴う経過措置
① 厚生年金保険の適用拡大に伴う経過措置①

 特別支給の老齢厚生年金の定額部分の受給権者(障害者特例・長期加入者特例に該当する者)が厚生年金保険の被保険者資格を取得した場合は、厚年法附則第11条の2の規定により定額部分が支給停止されることとなっている。

 本人の働き方に変更がないにもかかわらず、適用拡大という外部要因により定額部分が支給停止されることのないよう、 施行日前に支給事由の生じた受給権者が、令和2年改正法の施行により施行日に厚生年金保険の被保険者資格を取得し、施行日前から引き続き同一の事業所に勤務している場合は、定額部分の支給停止を行わないこととする経過措置を設ける。

② 厚生年金保険の適用拡大に伴う経過措置②
 再評価率の改定等に用いる賃金変動率は、厚生年金保険の被保険者全体の標準報酬の平均額を用いて算定することとなっている。令和2年改正法の施行による企業規模要件の見直しにより、標準報酬の比較的低い短時間労働者の数が被保険者総数に占める割合が増加することが見込まれるところ、これにより賃金変動率が押し下げられ、年金額にマイナスの影響が及んでしまうことがないよう、令和2年改正法により、その影響を除去するための経過措置が設けられた(令和2年改正法第9条の規定による改正後の公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年法律第62号。以下「平成24 年機能強化法 」という。附則第17条の2第2項等)。

(3)本政令案の施行に伴う経過措置
① 繰上げ減額率の引下げに関する経過措置
 本政令案による改正後の繰上げ減額率は、本政令案の施行の日(令和4年4月1日)の前日において、60歳に達していない者について適用することとする。

② 加給年金の支給停止に関する経過措置
 本政令案の施行の日(令和4年4月1日)の前日において加給年金額が加算されている老齢厚生年金又は障害厚生年金の受給権者であって、低在老の支給停止調整開始額の引上げ又は(1)⑤の改正により加給年金額が支給停止となるものについて、加給年金額の支給停止を行わないこととする経過措置を設ける。

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