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#7 |投資は必要か?

小野田 理恵子(おのだ りえこ)/小野田社労士・FPオフィス代表


投資、する? しない?

今年になってから、スーパーなどでいつもとさして変わらない買物をしたつもりなのに、レジでの支払額の多さに驚くことがしばしばあり、そんなときに物価が上がったなぁ…と痛感するのですが、総務省の発表によれば、2024年3月の消費者物価指数は「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」の前年同月比で2.9%でした。つまりこの1年間で物価が2.9%上昇したわけです。

ではこの1年間の預貯金の金利の動きはどうかと見てみると、日銀のマイナス金利政策の解除をきっかけに多少は見直されてきてはいますが、ある大手都市銀行の例では、普通預金が年0.001%から0.02%に、1年定期が年0.002%から0.025%に、10年定期が年0.002%から0.3%にそれぞれ上がった程度で、預貯金の利息で家計にゆとりが生まれるにはほど遠い状況です。

つまり、資産を全部預貯金に置いている場合は、この1年間でお金の実質的な価値(購買力)が2.8%以上も下がったと言えます。日本では平成の約30年間、物価がほとんど上がらないどころか下がった時期もあり、投資をせずに資産を預貯金だけに置いていてもさほど生活への影響はありませんでしたが、物価が上がっている現在では投資の重要性が増し、非課税で運用ができるNISA制度への関心が高まってきています。

実際、このところのライフプランセミナーでは投資の基礎知識やNISA制度について盛り込んで欲しいとのご依頼も多く、そのような話をする機会が増えていますが、50歳代が対象のセミナーでは、「NISAはやっていない」「やりたいとは思わない」という参加者が圧倒的に多いのが実情です。また、今年になってから社労士仲間に会うたびにリサーチしてみたのですが、やっていない方がかなり多いようです。もちろんそれは個人の判断によることで他人がとやかく口出しすることではないのですが、預貯金オンリーでは完全に物価に負けている、という現実は頭に置いておく必要があります。

「資産運用」と「投資」、どう違う?

ここで、「資産運用」と「投資」はどう違うのでしょう。
どちらも金融商品を利用して手持ちの資産を増やす行為ですが、資産運用には預貯金も含まれるのに対して、投資は値動きのある金融商品を買うことを指し預貯金は含みません。つまり投資には多かれ少なかれ元本割れのリスクを伴います。なお、投資は個人の資産形成とともに、資金を投じて企業等の活動を応援することにより付加価値を生み出すもので、その意義も忘れてはならないと思います。ちなみに投機という言葉もありますが、これは単に金融商品の値上がりのタイミングを狙う取引で、付加価値を生み出すものではありません。
今後のこのコラムでは、資産運用全般をテーマとしたいと思います。

国の政策の方向性

次に、2022年に決定された「資産所得倍増プラン」について<図表1>にまとめましたのでご覧ください。

図表内の〈プランの7本柱〉の経過について、以下に補足します。
①:まさに2024年1月から新NISAが始まり、制度の拡充・恒久化が図られています。
②:すでに2022年5月からiDeCoの加入可能年齢が65歳未満まで引き上げられ、今後はさらに上限が70歳未満になる可能性もあります。また2024年12月からは、公務員などの掛金の月額上限が12,000円から20,000円に上がります。
③④:2024年4月に、国民の金融リテラシー向上のための「学びの場」を提供する目的で、「金融経済教育推進機構」(J-FLEC:ジェイフレック)が設立されました。同機構では、企業、学校その他の場で中立的な立場からの講演やアドバイスを行う「認定アドバイザー」制度の発足が予定されています。
⑤:金融経済教育として、すでに2022年4月から高校において、資産形成に関する授業が必修化され、投資信託を含む金融商品の特徴についても取り上げられています。

このように国の政策の後押しがあるので、ちょうど今は投資を始めやすい環境にあると言えます。ただし慌てて始める必要はなく、基礎知識を得てからでも決して遅くはありませんし、国の政策や世の中の動きに関わらず「投資は一切しない」という考え方ももちろんアリです。また、「投資を始めてみたものの、どうにも気持ちが不安定でしかたがない」という場合は、決して無理に取り組む必要はない、というのも大事なことだと思います。

自分の意思で判断しよう!

セミナーの参加者にNISAをしない理由を尋ねてみると、「何となく心配」「知識がなくて不安」「何から始めたらよいかわからない」などの声が多く、確固たる意思をお持ちというわけではないようですので、これでは後になって「しまった…」と後悔する人も出てきそうです。そうならないためには、制度の基本を押さえメリット・デメリットを理解したうえで、利用する・しないを自分の意思で判断することが重要ではないでしょうか。

そうは言っても、「いきなり金融機関の窓口で話を聞くのは、先方が買って欲しい商品に誘導されそうで不安」「ネットの情報はいろいろありすぎて、何を信じれば良いのかわからない」「書籍や雑誌は多すぎて選びにくい」などの理由でなかなか一歩を踏み出せない人も多いようです。

そんな場合は、まずは公的機関等のサイト(金融庁のNISA特設ウェブサイト、NPO法人確定拠出年金教育協会の新NISAナビ、日本証券業協会など)や、証券会社のサイト内の初心者向け動画などが参考になりますが、このコラムでも役に立つ情報提供ができればと思います。

資産管理の考え方

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