時間外労働規制で9割の大学病院が医師派遣制限の「可能性あり」(2月16日)
日本医師会の松本吉郎常任理事は2月16日の会見で、「産科医療機関における宿日直許可に関する調査(大学病院・周産期母子医療センター)」の結果を発表した。
2024年度から導入される医師の時間外労働の上限規制が開始された場合、医師の派遣を制限する可能性がある大学病院は9割近くにのぼることがわかった。
2月2日には同調査の産科有床診療所分を発表。前回と今回の調査結果を踏まえて医師独自の宿日直許可基準に必要な項目をまとめており、関係団体とともに厚労省に基準の策定を要望することを明らかにした。
調査は全国の大学病院(114病院)と周産期母子医療センターの指定を受けた一般病院(316施設)を対象に、大学病院68施設と周産期母子医療センター157施設が回答。
他の医療機関に宿日直を行う医師を派遣していると回答している病院は92.6%と9割を超え、派遣している平均医師数は11.3人。
一方、周産期母子医療センターで他の医療機関に宿日直は派遣しているのは13.4%と1割程度。周産期母子医療センターの70.7%と7割が自院の宿日直について大学病院から医師の派遣を受けている。
時間外労働の上限規制が開始された場合、大学病院に宿日直を行う医師の派遣を制限する可能性を聞いたところ、「最大限努力するが場合によっては制限する可能性がある」は49.2%、「最大限努力するが現時点ではわからない」は39.7%となり、「制限する可能性はない」は11.1%で約1割にとどまった。
派遣先の産科医療機関が宿日直を取得することは自院の診療体制を維持する上でどのくらい重要な課題かの問いに対し、「極めて重要」66.7%、「重要」27.0%、「どちらともいえない」3.2%、「あまり重要ではない」3.2%となった。
前回と今回の調査結果について松本常任理事は、「地域の周産期医療提供体制の維持と医療者の健康確保の両立を考えた場合、現在の宿日直基準は医療者の現場感覚とは合っていないことがわかった。宿日直許可基準の問題は産科医療機関だけではなく多くの医療機関に共通する問題である。周産期医療や救急医療など地域に不可欠な医療機能を維持するためには、医師独自の宿日直基準を検討していかなければ医療崩壊がはじまる強い危機感を持っている」と述べた。
その上で、「今回、日医として医師独自の宿日直許可基準に必要な項目をまとめ、関係団体とともに厚労省に基準の策定を要望することとした。厚労省は医療崩壊が起こる前に一刻も早く具体的な検討を開始してほしい」と訴えた。
日医がまとめた医師独自の宿日直許可基準に必要な項目は次の9項目。
医師独自の宿日直許可基準を明確化し、行政の対応の統一をお願いしたい
各々の医師について、宿直時の睡眠時間が十分でない日(例えば、睡眠時間が6時間程度に満たない日)が月に5日以内であれば宿日直許可を認めていただきたい
宿日直中に救急や分娩等の業務が発生する場合でも、その業務時間が平日の業務時間と比べて一定程度の割合に収まっている場合であれば、宿日直許可を認めていただきたい
特に産科医療機関については、宿日直中の分娩等への対応が月6~10件程度であれば、宿日直許可を認めていただきたい
医師の健康に配慮しつつ、地域医療提供体制を維持するために、医療機関における各医師の宿日直について、宿直を月6回、日直を月4回まで許可を認めていただきたい
「5.」の宿日直回数については、他の医療機関に宿日直の応援に行く医師の場合、派遣元と応援先の宿日直回数をそれぞれ分けて取り扱うこととしていただきたい
各々の医師の連日の宿日直について許可を認めていただきたい
医師独自の宿日直許可について実態に合わない判断が出された場合、厚生労働省に相談できる窓口を設置することをお願いいしたい
基準を見直したとしても、現状では、全国の医療機関が新型コロナウイルス対応に全力であたっており、働き方改革に取り組める状況にないことから、時間外労働時間の上限規制の罰則適用を数年猶予いただくようお願いしたい