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謎の新興国アゼルバイジャンから|#24 【番外編】「パーティ文化」の話 その2 挨拶編

香取 照幸(かとり てるゆき)/アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使(原稿執筆当時)

※この記事は2018年5月1日に「Web年金時代」に掲載されました。

みなさんこんにちは。
本稿は外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見を筆者個人の責任で書いているものです。内容についてのご意見・照会等は全て編集部経由で筆者個人にお寄せ下さい。どうぞよろしくお願いします。

挨拶の作法:基本は握手

(前回の続きです。)

最初にちょっとご報告。
公邸の桜(ヤマザクラ系ではないかと思います)が咲きました。

ちょっと余談になりますが、外務省は赴任前に新任大使・総領事のための「公館長研修」というのをやってくれます。だいたい3日くらいかけてみっちりいろいろなことを教えてくれるのですが、実際大使として赴任して、教えてもらえてなかったと思う大きなことが2つありました。
一つは今回のテーマである「パーティの作法」、もう一つは「お悔やみ(Condolence)の作法」です。

職業外交官のみなさんだったら改めて教えてもらわなくてもこんなことはOJTで勉強して知っている、ということなのかもしれませんが、私の場合はそういうわけにはいかなかったので、実際着任して、この2つはどちらもどうしていいかわからないことが多くてとても苦労しました。
ちなみに「お悔やみの作法」の話は、これはこれで面白い(と言っては不謹慎ですが)ので後日詳しくお話しすることにして、今回はパーティ編のその2、「挨拶の作法」、要するに「握手とハグ」の話をいたします。

挨拶の基本はもちろん握手です。
握手の基本は、しっかり握るってことと、相手の顔(というか目)を見てにっこり笑ってしっかり挨拶すること、HelloでもNice to meet youでも How is your lifeでも何でもいいから一言言うこと。それだけです。
日本人は「お辞儀をする」というのが挨拶の基本スタイルなので、握手と同時に思わず頭を下げちゃう場合が多いんですが、あれって見ていてみっともないし、目をそらす感じになってあんまりいい印象になりません。
意識して相手の顔を見るようにするのがいいと思います。

しっかり握る、は本当にそうで、これ、冗談ではなく着任数か月後、右手の親指と人差し指の間にアザができて痛くなりました。私は左利きなのでテニスのせいじゃないはずで、何なんだろうと思っていろいろ考えてみたら、どうやら握手のしすぎ(笑)。
ほんとですよ。みんなほんとにしっかり力を込めて握ってきますから。

次は日本人には馴染みのないハグ

次に大事なのが、ハグ。
これは日本人まずやりませんから、やり方を覚えることも含め、私も慣れるまでに相当時間がかかりました。

ハグにもいろいろなレベルがあって、軽く肩を抱き合う、たたき合うっていう程度のものからしっかり抱き合ってチークハグするまで、回数も1回なのか左右2回(場合によっては3回)なのか、場面と相手によっていろいろです。

地域・文化による違いってのもあるようです。
誰彼構わず男でも女でもバンバンハグするここアゼルバイジャンや中央アジア・ムスリム系、それにかなり近い南欧・中欧・バルカン系、女性にはやりますが男には握手だけでハグはあまりやらない西欧・北欧系、全くやらない(というかできない?)東アジア系、様々です。

天皇誕生日レセプションの時のジャバロフ大臣との挨拶。まずしっかり握手して、その後ハグ。二人とも相手の肩に手を回してます。これ、男性間のハグの標準形。中央アジア系だとさらに(男性同士でも)頬にズリッと来ます。それも2回(笑)。

私はもう、できるだけ握手&ハグでやってます。
女性への挨拶っていう点ではむしろ「チークハグ」が標準ですね、見ていると。初対面でない限り、知り合いだったら欧州系・中央アジア系・アゼル人みんな女性には必ずチークハグします。で、私もそれに倣って女性(女性大使・大使夫人)には必ずそうするようにしています(笑)。

先月帰任したアメリカ大使は在日大使館勤務経験者で、彼のfarewell partyの時に「大使は日本人らしくないですねえ」って言われました。
「何で?」って聞いたら「だって、ハグするでしょ。日本人はこうやって(と両手を膝の上に置く仕草をして)頭下げるでしょう」と(笑)。
で、「ここに来て一生懸命にここの流儀を覚えたんですよ」と言ったら「僕もそうですよ。Yes. I tried to get accustomed here too.」と言ってました。確かにアメリカ大使はもうアゼル人なみのハグでした(笑)。

ハグの時ももちろん必ず一言言葉を添えてにっこり笑って挨拶します。
握手もハグも単なる挨拶以上に「親愛の情を表す」ものですから、こういうことになるんだと思います。要するに親密さを相手に表すボディーランゲージですから。

それで思い出しましたが、若い頃フランスのOECD(経済協力開発機構)事務局で働いていたことがあるんですが、当時職場の女性の同僚や秘書さんたちが、廊下ですれ違うたびにみんな必ずにっこりと笑みを浮かべて「Bonjour!」と挨拶してくれました。
着任当初、「みんな随分フレンドリーで優しいんだなあ」ととっても嬉しかったんですが、よく見ていると、相手が誰であれ数メートル手前で相手を確認した瞬間に(うまく表現できませんが、何というか、それまでどんな顔をしていても、その瞬間だけ「張り付けたように」)あの笑顔になって、通り過ぎるとまた元の顔に戻ります。
要するにこれ、「貴方をちゃんと認識しましたよ」っていう、まさに「知っている人同士の様式化された挨拶の表現」なんだってことに気がつきました。
日本だったらせいぜい目礼するか、ちょっと一言添える程度でしょうが(上司だったら立ち止まって一礼するかもしれません(笑)けど)、彼らの文化ではこれが標準形ってことのようでした。

で、ここアゼルバイジャンの外交団の基準で行くと、ハグしてもらえる、っていうかハグするっていうのは、顔と名前が一致する知り合い=友人になった、ってことじゃないか、というのが私の観察です。
そこまで行かない、初対面+αくらいのレベルだとハグはしない。握手だけ。
ここは大使同士の結束が固いのですぐ友達になってハグに移行する、ってことです。

「やあやあやあ、どうもどうも、元気かい、会えてよかったよかった」って感じで大仰に握手してハグして大きな笑顔見せて……っていうのが日本人はなかなかできないですね。初対面でも思いっきり笑顔見せてがっちり握手して、なんて日本人、よほど外国人慣れしている以外、なかなか見ません。
この辺の感覚は、やはり文化の違いというか相手との身体的距離感の取り方の違いというか、日本人はなかなか乗り越えられないところなのかもしれません。

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